労働時間管理について

我が国の労働状況に関しては、生産性の低さや非正規雇用の処遇格差といった様々な問題が指摘されてきましたが、長時間労働とそれに伴う過労死も大きな問題となっており、働き方改革においても労働時間管理の重要性が説かれるに至っています。

現在、企業において重要なトピックとなっている労働時間管理についてご説明します。

1、労働時間管理はなぜ重要か

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するかどうかは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるとされています(最判平12.3.9労判778・11)。

いわゆるノーワークノーペイの原則により、使用者は労働者の労働時間に対して賃金の支払い義務を負うことになりますから、適正な賃金の支払いのためには適正な労働時間の管理が必要になります。

また、以下のとおり、会社には労働時間を把握する義務があると考えられており、適正に労働時間の管理がなされていない場合、使用者である会社自身が労働時間を把握する義務を守っていないことになります。
そのため、そのような会社のコンプライアンス軽視の姿勢が労働者にも蔓延し、法令違反行為等のコンプライアンス違反を助長するリスクが大きくなります。

さらに、労働時間管理がなされていない場合、長時間労働が生じやすくなり、生産性の低下、労働者のモチベーションの低下といった問題も引き起こします。
あまりにも労働者の長時間労働が常態化した場合、労働者に健康被害が生じるなど、ときには深刻な社会問題に発展する可能性すら存在しています。

他にも、以下のように未払残業代請求のリスクが大きくなるという問題も生じます。

このような観点から、企業が労働時間を適正に管理することが重要であると考えられています。

(1)会社には労働時間を把握する義務がある

労働基準法第32条、第36条、第37条は、労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結と割増賃金の支払いを行うことを使用者に要求しています。
このことから使用者である会社には労働者の労働時間を把握する義務があるとされています

平成29年1月20日には、厚労省において「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定され、会社がどのように労働者の労働時間を把握すべきかについて言及がなされています。

また、いわゆる働き方改革の関連法案が平成31年4月1日から順次施行されていますが、医師による面接指導を確実に行うため、労働安全衛生法上も使用者である会社に労働者の労働時間を把握する義務を規定しています(労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生法規則第52条の7の3)

もっとも、厚労省のガイドラインの対象となる労働者は割増賃金支払対象者に限られ、管理監督者といった労働基準法第41条に定める者や事業外みなし労働時間制が適用される労働者、裁量労働制が適用される労働者が対象から除外されているのに対し、労働安全衛生法の労働時間の把握義務については、高度プロフェッショナル制度の対象者を除き、労働安全衛生法の面接指導の対象となる全ての労働者が対象になるという点で違いが生じています。

(2)自己申告制の会社は要注意

厚労省のガイドラインにおいても、労働安全衛生法においても、使用者である企業は、原則として、自ら現認する方法あるいはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、労働者の始業・終業時刻を確認し、記録することが求められています。

そして、やむを得ず客観的な方法により労働者の始業・終業時刻を把握し難い場合は、労働者の自己申告により始業・終業時刻を把握することも認められていますが、この場合は、以下の措置を採ることが求められています。

自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の状況の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

実際に労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。

自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。
このため、事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該阻害要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

さらに、労基法の定める法定労働時間や36協定により延長することができる時問数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

2、労働時間管理が杜撰な場合

労働時間の管理が杜撰な場合、上記の余な問題手が生じるだけではなく、以下のように未払残業代請求のリスクが高まるという問題も生じます。

(1)未払残業代請求のリスクが高まる

労働時間管理が杜撰な場合、労働者は自身の時間外労働に対し、正確に賃金が支払われていないという不満を抱くことが多くなります。そのため、労働時間管理が杜撰という事実自体をもって、未払残業代請求のリスクが高まると考えられます。

労働者が未払残業代請求を行うことを想定しながら業務に従事しているような場合、労働者は自身の時間外労働に関する客観的な証拠を収集しながら未払残業代を請求する機会を窺っていることが多いです。
そして、企業の労働時間管理が杜撰な場合、労働者から残業代の未払いが請求された場合に、労働者の主張や労働時間を基礎づける証拠が正しいものであるのか分からないという事態に陥ります。

労働者が自身の労働時間を意図的に多く申告し残業代を請求するようなことがあっても、企業が労働時間の管理を杜撰に行っていると、反証することができなくなる可能性があります。

労働基準法が一部改正され、令和2年4月1日の施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権については、消滅時効期間が3年と延長されたことから、今後、全ての企業において未払残業代請求のリスクが増大している状況にあります。

(2)後からサービス残業をさせられたと主張される可能性も

本来支払うべき賃金が支払われない時間外労働のことを一般的にサービス残業と呼ぶことがありますが、労働時間の管理が杜撰な場合は、サービス残業がなされていると主張される可能性があります。

労働者としては、上記のとおり、未払残業代請求訴訟の中で、サービス残業がなされていると主張し、未払残業代を請求する場合もありますが、訴訟を提起しなくても、インターネット上の掲示板や転職サイト、SNSなどでその旨を書き込む可能性があります。
インターネット上の投稿は、不特定多数の人物が目にする、あるいは、一度行った投稿が半永久的に削除されないという特徴があるため、想像以上の影響力を持つ場合があり、企業のレピュテーションに大きな影響を及ぼす可能性があります。

また、サービス残業が生じる場合、労働基準法第32条、第37条に違反する可能性が存在するところ、これらの違反については、労働基準法第119条1号が、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を定めています。
そのため、(刑事上の罰則が適用される事例は多くありませんが)サービス残業が生じていたことを理由にして、使用者が処罰を受ける可能性も存在します。

特に、労働基準法第10条は、使用者を単に事業主だけではなく、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者もいうとしていますから、時間外労働に関する権限を有している個人も処罰の対象になる可能性が存在します。

また、労働者がサービス残業をさせられたと主張する場合、労働者が労基署に相談を行い、聞き取りや調査が実施される可能性が存在します。
聞き取りや調査の結果、違法状態が確認された場合は是正勧告が行われ、事案が悪質な場合は企業名が公表されるという可能性も存在します。

3、労働時間の正しい管理方法は弁護士に相談を

労働時間の正しい管理方法については、労務管理に精通した弁護士にご相談ください。

(1)訴訟リスク等を見据えた管理方法が分かる

労働時間の管理が杜撰である場合、未払残業代請求訴訟を始めとした訴訟リスクが生じます。
そのため、まずはこのような訴訟リスクを軽減させる観点から労働時間の管理を行う必要があります。

もっとも、未払残業代請求訴訟は公刊されているだけでも多数の裁判例が存在し、個別事案ごとの検討を要します。
それだけではなく、常に法改正や新しい裁判例が出されるなど、最新の情報に基づいて十分な検討を行う必要性の高い分野となっています。

そのため、どのような労働時間管理を行うべきかについては労務管理に精通した弁護士にご相談することをお勧めいたします。

(2)正しい労働時間管理でリスクを減らし、労働環境の改善を

上記のとおり、訴訟リスクを減らすという観点からも正しい労働時間管理は必要となりますが、正しい労働時間管理を行い、労働環境を改善させることで、労働者のモチベーションを向上させることも可能になります。

当事務所においては、単に訴訟リスクの軽減という観点だけではなく、正しい労務管理を通じてどのように企業の発展にお役立ちできるかという観点からも弁護士業務を提供しております。

労働時間の管理にお困りの際はご相談ください。

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