同一労働同一賃金(2)

同一労働同一賃金の論点1 基本給その2

1 正社員=月給制、非正規=時給制を採用しているケースについて
この点,採用している賃金制度が異なるケースでは、非正規に異なる賃金制度を採用することに合理的な理由があるか、また、待遇の相違が賃金制度の相違から必然的に生じるものかを確認することが実務上のポイントとなります。

たとえば、大阪医科薬科大学事件の原審では、非正規に時給制を採用することについて、勤務体制が正社員と異なることや個別の賃金計算がより容易であることなどを理由に不合理であるとはいえない旨判示しています。

また,非正規において短時間の労働をしている人間の割合が,会社においてどの程度なのかという視点も重要となるでしょう。割合が多ければ非正規全体を時給制とすることに合理性が認められやすくなると思います。

 

2 年功型賃金制度について
いわゆる年功型賃金制度においては、勤続給(③)や能力給(①)が賃金決定の基準となります。そうすると、正社員に勤続給を取り入れている場合、正社員と同一職務内容等で同一の勤続年数の非正規には同一の支給をしなければ不合理な待遇差となる可能性がありますが、実際にそのような支給をしているケースは稀といえます。今後も正社員に勤続給を維持するならば、非正規についても均等・均衡のとれた勤続給を支給する必要がありますが、実務上は必要な賃金原資の確保等の点から難しいケースが多いと考えられます。そのような会社においては,年功型賃金制度自体の見直し等を検討するケースが多いと考えられます。

 

3 成果型賃金制度への移行
同一労働同一賃金施行後は,基本給を年功型賃金から成果主義型に移行した方が,正規と非正規の間の待遇差について合理的な説明がしやすくなると言われています。

それでは,移行手続については,どのように対応すべきなのでしょうか。この点,年功型賃金から成果主義型賃金への不利益変更が争われた東京商工会議所事件(東京地裁平成29年5月8日判決)が参考になります。

東京商工会議所では、職員に対し、基本給として、年齢給、職能給、資格手当が支給していましたが、成果主義型賃金に変更後は、従前の年齢給、職能給、資格手当は廃止し、役割給に一本化しました。そして,本件変更により、従前受給していた給与よりも低い給与となる者に対しては、影響緩和のために平成27年から平成29年にかけて3年間調整給が支給されていました(ただし、調整給は毎年3分の1ずつ減額される。)。調整給が1年ごとに3分の1ずつ減額されることになっていたこと及び原告が平成27年度の人事評価において昇級しなかったことに伴い、原告の給与は、平成28年4月1日から、役割給37万9300円、調整給3万2000円の合計41万1300円となりました。今後、調整給が3分の1ずつ減額されるので昇給しない限り、以前の賃金総額からは減額されることになったのです。このような状況に対して,原告は訴訟を提起しました。

裁判所は,以下の理由により原告の訴えを認めませんでした。

① 会社の総人件費の総額の変更なし
「本件変更が賃金配分の見直し目的の賃金体系の変更であるとして、賃金体系をどのようなものにするかは、人材育成等の雇用施策と深く関わるもので、使用者側の経営判断に委ねられている部分が大きいといえるところ、被告が上記アのような検討を行い、年功序列型から成果主義型の賃金体系に変更することとした経営判断自体に合理性がないとはいえない。」

② 人事評価制度の内容について
「被考課者が考課者と面談して策定した成果目標等を目安としつつ、その達成度を考課者が被考課者の自己評価も踏まえて評価し、その結果、現等級以上の役割を果たしているかが数値化して検討できるようになっており、さらにその結果が被考課者に開示され、異議申立てもできるというものである。かかる仕組みは、できる限り客観性と透明性を保って人事評価をしようとするものといえ、本件変更の合理性を判断するに当たり、人事評価制度として必要とされる程度の合理性を備えたものになっているといえる。」。

③経過措置・緩和措置を設けた
「被告が経済的に逼迫していたとは認められず、柔軟な経過措置を設けても経営上の支障はなかったとうかがわれること等に照らすと、経過措置が十分に手厚いものであったかは疑問が残るところではある。もっとも、本件の調整給にも一応の緩和措置としての意義はあり、その支給期間中に2回の昇級・昇給の機会があることにも照らすと、合理性を基礎づける要素として考慮するに値する。」

④ 労使交渉
労働組合とも何度も意見交換をして、労働組合の意見を制度に反映。労働組合と合意には至っていないのですが、特段異議は示されなかった。

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