メンタル不調・精神疾患の社員への対処、解雇を見据えた会社側の対応を徹底解説【弁護士監修】

本ページでは、うつ病・適応障害・双極性障害など、メンタル不調や精神疾患を抱える社員について、会社側がどのような対応を取るべきか、どのような場合に解雇が認められるのかを整理しています。

メンタル不調・精神疾患の社員は解雇できますか

メンタル不調・精神疾患の社員を解雇できるケース

精神疾患があるからといって、直ちに解雇できなくなるわけではありません。

一方で、「業務に支障がある」「周囲が困っている」という理由だけで解雇すると、無効と判断されるリスクが高い領域でもあります。

裁判では、以下のような要素が

・病状の内容
・休職や復職支援の有無
・会社の配慮内容
・復職可能性
・業務起因性の有無

総合的に考慮されます。

私傷病(業務外)の場合

私生活上の問題や持病など、業務との関係が薄いメンタル不調は、一般的には私傷病として扱われます。

この場合、会社としては休職制度を利用しながら回復を待つ流れになることが多く、休職期間を経ても就労困難な状態が続く場合には、解雇や自然退職が認められる余地があります。

ただし、会社が「私傷病だと思っていた」というだけでは足りません。

長時間労働が続いていたり、上司との強い対立があったりすると、後から「実際は業務起因だったのではないか」と争われることがあります。

労災・業務起因が疑われる場合

精神疾患の背景に、以下のような要因がある場合は注意が必要です。

・過重労働
・パワハラ
・執拗な叱責
・極端な業務負荷

業務起因性が認められると、労基法19条の解雇制限が問題になります。

会社側として危険なのは、「単なるメンタル不調」と考えて退職処理を進めた後に、労災申請が行われるケースです。

その後に労災認定まで進むと、解雇無効だけでなく、安全配慮義務違反まで主張されることがあります。

長期間休職しても復職不能な場合

長期間療養しても復職の見込みが立たない場合は、解雇や合意退職が有効と認められやすくなります。

もっとも、「復職不能」という判断はかなり慎重に見られます。

診断書だけでなく、以下のような要素もも含めて確認されることが通常です。

・産業医意見
・本人面談
・試し出勤の有無
・就業可能な業務の検討

休職満了だけを理由に機械的に退職扱いにすると、後から争われるケースもあります。

復職可能と判断される場合

軽減措置を取れば働ける状態であるにもかかわらず、会社側が十分な検討をしないまま解雇を進めるのは危険です。

現実には、

「以前と同じ働き方は難しいが、一定の業務なら可能」

という状態は少なくありません。

裁判でも、「元の部署に完全復帰できるか」だけでなく、「他の働かせ方は検討できなかったか」が問題になります。

会社規模が大きいほど、配置転換や業務調整の期待値は高くなる傾向があります。

配置転換・軽作業で就労可能な場合

営業職としては難しくても、内勤業務なら可能というケースがあります。

対人折衝は困難でも、単独作業であれば安定して働けるケースもあります。

こうしたケースにおいて、会社が何も検討せずに「元業務ができないから終了」と判断すると、解雇回避努力が不足していると評価されやすくなります。

とくに、以前からジョブローテーションを行っている会社では、「他部署への異動可能性」が問題になりやすい傾向があります。

無断欠勤・問題行動がある場合

メンタル不調の社員では、勤怠悪化や問題行動が表面化することがあります。

ただ、そこで即座に「問題社員」と扱うのは危険です。

うつ病による意欲低下や、適応障害による出勤困難が背景にあるケースもあるためです。

病状確認をほとんどしないまま懲戒処分へ進むと、「メンタル不調への配慮不足」と評価されるリスクがあります。

会社としては、問題行動だけを見るのではなく、その背景事情まで確認しておく必要があります。

解雇が違法になる典型パターン

会社側が敗訴しやすいのは、「対応プロセスが粗いケース」です。

休職制度を十分利用させずに退職へ進めたり、復職可能性を深く検討しなかったりすると、解雇無効リスクが高まります。

また、産業医意見を取っていない、面談記録が残っていない、労災可能性を全く検討していない、といったケースも危険です。

現場では「もう限界だ」という感覚が強くなりがちですが、裁判では感覚論よりも、「会社が何を検討し、何を記録していたか」が重視されます。

メンタル不調・精神疾患の社員を解雇しにくい理由

解雇には「客観的合理性・社会的相当性」が必要

日本の労働法では、会社が自由に解雇できるわけではありません。

解雇には、

・客観的合理性
・社会通念上の相当性

が必要とされています。

メンタル不調の案件では、「病気の社員に十分な配慮をしたか」が強く問われるため、通常の解雇案件より会社側のハードルが高くなりやすい傾向があります。

労基法19条|業務起因の精神疾患は解雇制限がある

業務上の精神疾患については、療養中の解雇が原則として禁止されています。

近年は、精神障害の労災認定件数も増加しており、会社としても「単なる私傷病」と決めつけることが危険になっています。

ハラスメントや長時間労働の痕跡がある場合は、慎重な検討が必要です。

裁判で会社側が敗訴しやすい理由

メンタル不調の案件では、「配慮不足」が非常に重く見られます。

会社側としては対応していたつもりでも、

・面談記録がない
・検討経過が残っていない
・配置転換検討が曖昧
・主治医確認をしていない

などという状態だと、裁判では「十分な対応をしていない」と判断されやすくなります。

結果として、現場感覚では妥当に思える対応でも、法的には覆されることがあります。

解雇が無効になると会社はどうなる?

バックペイ(未払い給与)の発生

解雇無効になると、「社員としての地位が続いていた」という扱いになります。

そのため、解雇後に支払われていなかった給与を遡って請求されます。

裁判や労働審判は長期化することも多く、結果として数百万円単位になるケースもあります。

復職請求のリスク

解雇無効となった場合、従業員側から復職請求を受ける可能性があります。

慰謝料請求されるケース

対応内容によっては、慰謝料請求まで発展することがあります。

人格否定的な発言や、強引な退職誘導、病状を軽視した対応などがあると、精神的損害として問題視されやすくなります。

労働審判・訴訟へ発展するケース

労働審判は短期間で進行するため、会社側も初動段階から記録整理や法的整理を進めておかないと、対応が後手に回りやすくなります。

解雇や退職勧奨に踏み切る前に会社側で確認すべきポイント

業務起因性(長時間労働・ハラスメント)の有無

メンタル不調の案件で最初に確認すべきなのは、「本当に私傷病と言い切れるのか」という点です。

会社としては単なる体調不良だと考えていても、後から本人側が「長時間労働が原因だった」「上司からの叱責で発症した」と主張し、労災や安全配慮義務違反の問題へ発展するケースは少なくありません。

特に注意が必要なのは、本人が在職中には強く主張していなかったケースです。退職後や弁護士介入後になって初めて、残業時間やハラスメントの問題が整理されることもあります。

そのため、会社側としては、単に診断名を見るのではなく、発症前後の勤務実態、人間関係、相談履歴などを冷静に確認しておく必要があります。

就業規則の休職規定

実務では、「休職制度を正しく運用できていない会社」がかなり多く見られます。

しかし、メンタル不調の社員対応では、就業規則の内容がそのまま紛争の土台になります。休職開始の条件、休職期間、復職の基準、自然退職の扱いなどが曖昧なまま運用されていると、後から「その処理は規則違反だ」と争われやすくなります。

また、休職に関する規定自体は存在していても、実際の運用がバラバラになっているケースもあります。ある社員には長く猶予を与えたのに、別の社員には早期退職を求めていた、という状態だと、不公平な運用を指摘される可能性があります。

休職対応を進める前に、「規程上どうなっているか」と「現実にどう運用してきたか」を一致させて確認しておくことが重要です。

休職期間満了日

休職期間満了日は、解雇や自然退職の有効性に直結する重要ポイントです。

ところが実際には、「いつから休職扱いなのか」が曖昧なまま進んでいるケースも珍しくありません。欠勤、有給消化、試し出勤などが混在していると、会社側の認識と本人側の認識がズレやすくなります。

後から計算ミスが発覚すると、「まだ休職期間は残っていた」「退職処理が早すぎる」と争われる原因になります。

特にメンタル不調案件では、数週間や1か月のズレが大きな法的問題になることがあります。現場感覚で処理せず、時系列を整理して管理しておく必要があります。

「会社側で適切な対応を継続した」といえる証拠を残しましょう

メンタル不調の案件では、「実際に配慮していたか」だけでなく、「後から客観的に説明できるか」が重要です。

会社側としては、「対応していたつもりだった」という状態では不十分で、記録として残しておく必要があります。特に、解雇や退職が後から争われた場合、対応履歴の有無が結果に大きく影響することがあります。

面談記録の残し方

面談では、本人の体調申告、会社側の説明、今後の方針などを簡潔でもよいので記録化しておきましょう。

「いつ・誰が・何を話したか」が分かる形で残しておくことが重要です。

勤務状況・欠勤状況の記録

欠勤日数だけでなく、遅刻・早退・途中退勤、診断書提出状況なども整理しておく必要があります。

後から経過を説明する際、時系列の記録が重要な意味を持ちます。

業務指示・配慮内容の記録

業務軽減、配置転換、残業免除などを行った場合は、その内容も残しておくべきです。

会社側がどのような配慮を行ったのかは、紛争時に重要な判断材料になります。

医師・産業医とのやり取りの保存

診断書だけでなく、産業医意見や復職可否に関するやり取りも保存しておきましょう。

特に復職の判断においては、「どの情報をもとに会社が判断したか」が問題になることがあります。

 

メンタル不調・精神疾患の社員を放っておいた際の会社のリスク

近時、仕事のストレスや長時間・過重労働がメンタルヘルス不調の原因となることは、医学的知見として確立されています。

そのため、セクハラやパワハラといったある程度明確なハラスメントとは別に、上記のような業務に起因するメンタルヘルス不調が起こり、それが原因で休業・自殺が起こった場合、会社の責任が問われる場合があり、現に、そのような紛争事例が急増・多発しています。

休業・自殺の原因が業務にあると認定された場合、労災として保険給付がなされます。もっとも、労災保険給付は簡易迅速な被害者救済を目的とするものですので、その代わり、損害の全てカバーする内容にはなっていません。

したがって、保険でカバーされない部分(典型的には慰謝料)は、会社に対して損害賠償請求がなされる可能性があります。

メンタル不調・精神疾患の社員に対して会社側にできること

そのようなメンタル不調への会社対応としては、大別して、①平時のチェック体制、②休職等、③雇用契約終了、の3つに分けることが可能でしょう。

(1)平時のチェック体制を見直しましょう

上記のようなメンタルヘルス問題の高まりを受け、労働安全衛生法が改正され、平成27年12月から、通称「ストレスチェック制度」を設けることが義務化されました。
ただし、常時雇用従業員50人未満の事業場については、当分の間努力義務です。

労働安全衛生法66条の10第1項
…事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

頻度としては年1回実施し、労基署に報告する必要があります。問題が判明した場合において、従業員が医師による面接希望を申し出た場合は、会社はこれを実施せねばなりません。また、その結果を踏まえ、必要と認める場合には、当該労働者の実情を考慮し、適切な措置を講じる必要があります。

(2)休職

(平時のチェックにもかかわらず)従業員のメンタルヘルスに問題が発生して業務に支障が生じた場合、その回復可能性を見極めるためにも、まずは休職という措置を採ることが穏当であると考えられます。

実際には、
・ 医師の診断書を徴する
・ 休職期間中は無給とする
・ 長期にわたる場合は定期的な病状報告を求める
等の取扱いをする例が多く見られます。

その他、メンタルヘルス不調による休職については、リハビリ制度をどうするか、服飾の判断をどうするか、再発の場合の取扱いをどうするか等、実務上も難しい問題が多く存在します。したがって、予め就業規則等の規定を整備しておくことが強く望まれる分野といえます。

参考:リファレンスチェックで候補者の休職が分かる?把握するメリットや休職理由を解説 | ピタリク | 人材採用サービスの比較&資料請求サイト

(3)メンタル不調・精神疾患の社員を辞めさせることはできる?

日本の解雇規制は厳格ですから、上記のとおり、まずは休職発令を挟み、不調従業員の回復可能性の有無を検討すべきです。その結果、回復可能性なしと言わざるを得ない場合には、解雇に踏み切ることになるでしょう。

しかし人道的見地から、業務に起因するメンタル不調の療養休業期間中、及びその後30日間は、原則として解雇はできません。

労働基準法19条1項本文
…使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日…間は、解雇してはならない。

そのため、多くの場合は、休職期間満了時に復職の可否を吟味し、難しい場合に解雇するという流れになるでしょう。

そのようなケースで、後に解雇の有効性が問題となった場合、

ⅰ 精神疾患が業務に起因しているかどうか
ⅱ 復職の可否、回復可能性についての判断が医師の診断書等により客観的に裏付けられているか

等が重要なポイントとなります。

 

休職対応の実務|解雇前に必要なプロセスとは

休職発令のやり方

メンタル不調が疑われる場合、まずは就業規則の休職規定を確認した上で、正式な休職発令を行う必要があります。

実務では、「とりあえず休んでもらう」という曖昧な対応になっているケースもありますが、後から「正式な休職命令ではなかった」と争われることがあります。

休職開始日、休職期間、必要書類、連絡方法などを整理し、書面やメールで明確に通知しておくことが重要です。

休職中の面談・連絡の進め方

休職中は完全放置も、過度な接触も避ける必要があります。

会社としては、一定の間隔で病状の確認や復職見込みを確認しつつ、本人へ過剰なプレッシャーを与えないバランスが重要です。

また、現場上司との関係悪化が原因となっているケースでは、窓口を人事や管理部門へ切り替えた方が安全な場合もあります。

復職判断で確認されるポイント

復職判断では、単に「診断書に復職可能と書いてあるか」だけで決めるべきではありません。

実際に業務遂行できる状態なのか、再発リスクは高くないか、周囲との協調勤務が可能かなども確認する必要があります。

一方で、「完全回復していないから不可」という極端な判断も問題になりやすく、一定の配慮を前提に復職可能と評価されるケースもあります。

試し出勤・短時間勤務の活用

復職時には、いきなり通常勤務へ戻すのではなく、段階的な復帰を行うケースもあります。

短時間勤務や軽作業、試し出勤などを活用することで、本人の勤務耐性を確認しながら復帰を進めることができます。

こうしたプロセスを設けておくことは、「会社として復職支援を尽くした」という事情にもつながります。

メンタル不調社員の対応を早期に弁護士へ相談すべき理由

初動対応で結果が変わる

メンタル不調の案件では、初期対応がその後の紛争リスクを大きく左右します。

初動段階で感情的な対応や曖昧な運用をしてしまうと、後から不当解雇や安全配慮義務違反を主張される原因になります。

不当解雇のリスクを下げられる

精神疾患を理由とする解雇は、裁判で厳しく判断される傾向があります。

そのため、会社側としては、どの段階まで配慮義務を尽くすべきか、どのタイミングで解雇判断が可能かを慎重に検討する必要があります。

法的観点から整理せず進めると、高額なバックペイ請求へ発展するリスクがあります。

労働審判・訴訟への備えができる

実際には、退職後に突然代理人から通知が届き、労働審判へ移行するケースも少なくありません。

その際、面談記録、休職対応、復職判断に関する資料などが整理されているかで会社側の防御力は大きく変わります。

紛争化を見据えて、早い段階から証拠となりうる資料整理を行っておくことが重要です。

メンタル不調・精神疾患社員の対応でお困りなら西村綜合法律事務所へご相談ください

メンタル不調・精神疾患の社員対応では、対応を誤ると、不当解雇、労災、安全配慮義務違反などの問題へ発展することがあります。

一方で、会社として適切な手順を踏み、証拠を整理しながら対応していけば、紛争リスクを抑えながら解決できるケースも多くあります。

西村綜合法律事務所では、使用者側労務に注力する弁護士が、休職対応、復職判断、退職勧奨、解雇対応まで一貫してサポートしております。

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