未払い残業代を請求されたら – 企業側の労働問題のご相談

会社が従業員から未払い残業代を請求されるのは、ある日突然であることがほとんどです。
未払い残業代を放置していると、労働基準監督署からの調査をうけたり、未払い残業代請求訴訟を起こされ、紛争へと発展しかねません。

会社側としてはこのような場合にどのように対応をすればよいのでしょうか?

ここでは、従業員からの未払い残業代請求対応について解説いたします。

未払い残業代請求をされた場合に絶対にやってはいけないこと3つ

用語解説:残業代と法定休日ってそもそも何?(クリックで開きます)

まず、そもそも残業代とは何を指すのか、その定義について説明したいと思います。

労働基準法37条には割増賃金についての規定があり、この割増賃金というのが、俗にいう会社が従業員に払う必要のある残業代です。
この割増賃金の対象となるのは、法定時間外労働・法定休日労働です。

では、法定時間外労働・法定休日労働とは何を指すのでしょうか。

労働基準法32条は、労働者の労働時間を1日に8時間以内、1週間では原則として40時間を超えてはならないと定めています(常時10人未満の労働者を使用する商業・サービス業といった特例事業では、週44時間という例外があります)。
これは、法定労働時間と呼ばれ、この法定労働時間を超える労働のことを法定時間外労働(法定外残業)と呼んでいます

また、法定休日については労働基準法35条で規定されており、法定休日として、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」とされ、会社には従業員に毎週少なくとも1回の休日を与えることが義務付けられています。

ただし、業務の都合上、週1回の休日を与えられない場合には、「4週間を通じ4日以上」の休日を与えることでも足りるとされています。法定休日労働とは、この週1日、または4週4日の休日に働くことを指します。

会社側は、この法定時間外労働・法定休日労働に対して従業員に残業代を支払う義務があります

一方、就業規則や雇用契約などで会社が定めた労働時間を超えるが、労働基準法で定められた所定労働時間を超えない残業は、法内残業(法定内時間外労働)という扱いとなり、この法内残業については、労働基準法上、特に割増賃金の支払義務はありません。

会社が未払い残業代の請求をされた場合の対応については、絶対にしてはならない、留意していただきたいポイントがありますので以下の通り解説します。

(1)すぐに相手方に連絡する

未払い残業代の請求を受けた場合、慌てて相手方に連絡をすることは避けてください

確かに、迅速な対応が求められるのは事実ですが、会社側で落ち着いて対応を確認する前に連絡をしてしまうと、相手側のペースで解決が図られてしまいます。
また、会社側が慌ててした主張が、後に会社にとって不利な証拠として使われてしまう可能性があります。

 (2)従業員の要求を無視する

会社側が内容証明郵便などによる未払い残業代の請求を無視した場合、従業員が労働基準監督署に通報したり、労働審判や訴訟を申し立てる可能性があります。
これらの場合、会社側が監督署から調査を受けたり、強制執行により差押さえがなされてしまうケースがあります。

従業員による未払い残業代の支払いの請求を無視すると、会社側が本来支払う必要のなかったものまで支払う可能性が生じ、裁判等の場合には、裁判官に悪い印象を与えてしまう要因になります。
従業員による未払い残業代の要求には会社側が真摯に対応する姿勢が求められます

(3)従業員の要求を全部飲んで支払う

従業員から未払い残業代の支払い要求を受けた場合、従業員側の主張する金額を全面的に認めるのが正しいとは限りません。
会社として正確な未払い残業代の金額を確認したうえで支払うようにしてください。

未払い残業代を請求された場合に、確認すべき6つのポイント

従業員から未払い残業代を請求された場合、請求が正しいものであれば、会社側には未払い残業代を速やかに支払う必要があります。
しかしながら、従業員からの未払い残業代の請求がいつも正しいものであるとは限りません。
まずは、従業員の主張に対し、会社側から法律上どのような反論ができるかについて検討する必要があります。

以下では、会社が従業員から未払い残業代請求をされた場合に、まず確認すべき6つのポイントについて紹介します。

(1)時効が成立していませんか?

未払い残業代請求には消滅時効があります
2020年3月31日以前の未払い残業代については2年、2020年4月1日以降の未払い残業代については3年を過ぎたものについては、労働者は支払いを求める請求ができなくなります

企業は時効の利益を受ける意思を相手に伝えること(消滅時効を援用すること)によって、時効となった未払い残業代を支払う必要がなくなります。
賃金は給料日に会社から支払われますから、給与支払い日の翌日から起算して未払い残業代の消滅時効は進行します。

残業代請求の時効についてはこちらのページで詳しく解説しておりますのでご覧ください。

(2)従業員・元従業員の主張している労働時間は本当ですか?

タイムカードや出退勤管理システム、オフィスの入退館記録などに記録がある勤務時間のすべてが労働時間となるわけではありません。

休憩時間はもちろんですが、頻繁なタバコ休憩や早退などで実際に労働をしていない時間は、実労働時間から除外されます。
従業員から未払い残業代の請求があった場合は、相手が主張する労働時間が本当であるのか確認をしてみるべきです。

(3)会社の制度で残業を禁止していないですか?

会社が従業員に対して残業を禁止する命令をしているにもかかわらず、命令に反して残業を行っている場合には、従業員からの未払い残業代の請求が認められない場合があります

しかし、会社が従業員に対して、残業の禁止を義務付けているものの、実態として残業が発生し、残業が常態化している場合や、会社として残業を禁止していること、また、残業をするには会社の許可が必要であることが十分に従業員に周知されていない場合、会社側が従業員の残業を黙認していると認められ、未払い残業代が発生することがあります。

(4)本来であれば残業代が発生しない管理監督者ですか?

一般的に、課長などの管理監督者として労働に従事している者に対して未払い残業代は支払われないという認識をお持ちの方は多いかと思います。

会社は管理職(法律上の管理監督者)に対して未払い残業代を支払う義務はありませんが、管理職と名がつけば直ちに未払い残業代を支払わなくてもよいというわけではありません。
管理職である労働者についても、管理監督者としての実質を備えていない場合には、未払い残業代を支払わなければなりませ

管理監督者の範囲については、「一般的に労務管理について、経営者と一体的な立場にある者」とされ、管理職という名称・肩書にとらわれず、実態に即して判断するべきものとされています。
ただし、管理監督者であっても、深夜労働に対する割増賃金支払義務が免ぜられることはありませんので注意が必要です。

(5)固定残業代や定額残業代として既に支払っていますか?

固定残業代とは、従業員に一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働があった場合、それに対して会社側が定額で支払う割増賃金のことです。
割増賃金の支払い方法としては様々です。会社側が毎月定額の残業手当を支給する方法、また、基本給等に割増賃金相当分を含ませて定額の総賃金を支払うといった方法が採用されていることもあります。

「定額残業代」や「みなし残業代」などの名目で、毎月固定の残業代を従業員に対して支給していませんか?
固定残業代制度を導入している会社でこれを適切に運用している場合は、従業員からの残業代請求に対して、固定残業代として支給された部分は支払い済みであると主張することができます

(6)非雇用契約ではありませんか?

雇用契約ではなく、請負契約である場合には、原則として、会社側は未払い残業代を支払う必要はありません

雇用契約が、一方が労働に従事することを約し、他方がその労働の対価として報酬を与えることを約束するものであるのに対し、請負契約は、請負人が仕事の完成を約し、注文者がその仕事の結果(成果物)に対し、報酬を支払うことを約束するものです。
つまり、雇用契約を締結している場合は、仕事が完成していなくても労働者に給与が支払われますが、請負契約では、仕事が完成しなければ報酬は支払われません。

ただし、名目上は請負契約となっていても、実質として、労働基準法上の労働者とみなされた場合は、未払い残業代請求をされた際、これに応じる義務が生じるケースもあるので注意が必要です。

未払い残業代請求を受けたら?企業側の対処法を解説

近年、従業員の権利意識の高まりとともに、未払い残業代請求などの労務トラブルの数は増加傾向にあります。
もし、会社として従業員に支払っていない未払い残業代がある場合、これまでに従業員から未払い残業代の請求を受けていないからといって安心してはいけません。

それでは、従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、会社側にはどのような対応が必要となるのでしょうか?

以下では、従業員から未払い残業代の請求を受けた場合に会社がとるべき手順について解説します。

(1)未払い残業代見込み額を計算する

従業員から未払い残業代の請求があった場合、早急に請求内容を確認し、未払い残業代見込み額の検討をおこないます
給与明細や給与台帳、就業規則、雇用契約書、タイムカードや出退勤簿、PCのログデータなどの資料から、実際の勤務時間、勤務日数、適正な賃金が支払われていたかについて確認します。

(2)和解と反論のどちらの方向で解決を図るか方針を決定する

従業員からの未払い残業代請求に対し、会社としてどのような対応を行うか検討をする必要があります。
対応の仕方としては、大きくわけて、和解をするか、もしくは反論を行うかのどちらかとなります。

和解を試みる場合、従業員と話し合いの機会をもち、双方が納得した額を支払う形となります。
一方、未払い残業代は存在しないとして、反論を行う方法もあります。本格的な争いとなった場合、労働審判や訴訟で会社側の正当性を主張・立証することとなります。

(3)他の社員への波及防止に努める

従業員より未払い残業代の請求を受けたことが社内で広まってしまった場合、他の社員からも同様に未払い残業代の請求をされる恐れがあります

複数の従業員から未払い残業代を請求されてしまうと、零細企業の場合、会社が潰れてしまうこともありえます。
未払い残業代請求をされた場合、直ちに給与・賃金制度を見直し、労務管理を徹底していく必要があります。

(4)弁護士へ相談する

労働基準監督署から指導や監査をうけたり、従業員が弁護士を立てて未払い残業代の請求をしてきた場合は、従業員からの未払い残業代請求には未払い残業代が存在するという証拠がある程度揃っていると考えられます。

労基署からの調査によって会社に違法状態が認められると、会社に対して是正勧告がなされ、これを放置していた場合、最悪の場合においては、刑事告訴されてしまう恐れもあります。

対応の遅れが、会社の不利益となることのないよう、早急に解決を図る必要があります。

 

未払い残業代請求の裁判例

従業員側の請求が認められたケース

未払い残業代請求に関する事件は数多くありますが、ここでは、未払い残業代請求について争われた裁判例のうち、有名なものを、2件ご紹介させていただきます。
今回ご紹介する裁判例は、いずれも会社側が敗訴し、従業員側の未払い残業代請求が認められたものとなっています。

(1)日本マクドナルド事件(東京地H20.1.28)

ファストフード店の店長が監督者にあたるのかが問題となった事例です。この裁判例により、いわゆる、「名ばかり管理職」という言葉が広まりました。
裁判所は管理監督者に該当するか否かを、
「①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役職手当等)及び一時金において管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべき」
とし、店長という名称だけで管理監督者と判断するのではなく、管理監督者としての実態を備えている必要があるとしました。
このケースでは、上記の諸点から裁判所の判断が下され、裁判所は、同店の店長は管理監督者に該当しないとして、未払い残業代およびその5割にあたる付加金の支払いを命じました。

(2)医療法人康心会事件(最判H29.7.7)

病院を解雇された医師が、深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めた事件です。
このケースでは、賃金は年俸性をとっており、雇用契約上は、年俸には時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を含むとの合意がありましたが、時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分の金額等が明らかにされていなかった為に、医師による残業代請求が認められました。

未払い残業代の請求が認められなかったケース

次に、従業員側の未払い残業代請求が認められなかったケースを2件ご紹介いたします。

(1)イクヌーザ事件(東京地H29.10.16)

基本給に含まれていた、月80時間の時間外労働に対する固定残業代の定めは無効であるとして、会社に対し時間外労働及び深夜労働に対する賃金の支払いを求めた事例です。

このケースでは、裁判所は、雇用契約上、固定残業代の定めが明確であり、固定残業代の額とその対象となる時間外労働時間が明示されていること、また、直ちに固定残業代の定めが公序良俗に反するとはいえないと判断し、月80時間の時間外労働に対する基本給組込型の固定残業代の定めが有効と判断されました。

(2)日本ケミカル事件(最判H30.7.19)

従業員が会社に対し、時間外労働があったのに残業代が支払われていないとして、未払いの時間外割増賃金の支払いを求めた事案です。
この事案では、定額残業代の有効性が問題となりました。

裁判所は、次のように判断しました。
雇用契約書、採用条件確認書、また賃金規定によって、業務手当が時間外労働の対価として支払われる旨が記載され、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われていたと言えるうえ、実際の時間外労働時間と、手当が想定する時間外労働時間は大きく乖離していないことから、固定残業代が時間外労働に対する対価として支払われているものとして判断し、残業代の請求は認められませんでした。

未払い残業代請求をされた時の対応が遅れるとどうなる?

従業員から残業代を請求されてしまった場合、会社側には、未払い残業代は存在しないだろうという勘違いや、未払い残業代はあるが、無視しても問題ないだろうという勝手な思い込みによって、会社が従業員からの残業代請求を放置している場合が、度々見受けられます。

それでは、会社が従業員からの未払い残業代請求を放置してしまった場合、会社にはどのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか。

以下では、従業員からの未払い残業代請求を放置した場合における会社側の4つのリスクをご説明いたします。

(1)未払い分の残業代・延滞利息(延滞損害金)の支払い

従業員からの残業代請求が認められた場合、企業が未払い分の残業代を支払うのはもちろんのこと、延滞利息(遅延損害金)も併せて支払う義務が生じます。
毎月1回、賃金の支払いをしている企業の場合、延滞利息(遅延損害金)は各月の賃金の支払い日の翌日から発生します。

(2)付加金の支払い

裁判により未払い残業代請求が認められた場合、会社は未払い残業代の支払いに加えて、付加金の支払いを命じられることがあります。

付加金とは、賃金の法的保護を目的とし、労基法違反に対する一種のペナルティーとして、使用者(会社)の義務違反の態様や、従業員の受けた不利益などを考慮し、裁判所が付加金の支払いを妥当と判断した場合には、残業代の額と同額までの範囲で課されます

(3)他の従業員からも残業代の請求をされたり、従業員のモチベーションが低下し、社内全体の士気が低下する

会社内の情報は従業員同士の会話といった、コミュニケーションを媒介として、瞬く間に広まります。
特に、残業代の未払いといった、会社にとって好ましくない話題が広まってしまった場合、従業員は会社に対する信頼を失い、労働意欲が低下しかねません。こうなってしまった場合、企業全体の生産性の低下、さらには、従業員の離職へとつながる恐れがあります。

(4)企業イメージの低下・悪評が広まる

労働問題に対しては、会社側は労働者に対する対応だけでなく、企業イメージの低下につながらないように心がける必要があります。
労働者(従業員)が労働基準監督署に相談をし、会社がその労基署の指導に従わない場合、企業名の公表がされる恐れがあります。

また、インターネット上で、口コミとして残業代の未払いがあったことが広まってしまった場合、急激な企業イメージの低下の可能性や、社会からブラック企業というイメージを持たれる恐れがあります。いったんイメージが低下すると、信頼回復にはかなりの時間がかかることが予想されます

後からサービス残業をさせられたと主張される可能性

本来支払うべき賃金が支払われない時間外労働のことを一般的にサービス残業と呼ぶことがありますが、労働時間の管理が杜撰な場合は、サービス残業がなされていると主張される可能性があります。

労働者としては、上記のとおり、未払残業代請求訴訟の中で、サービス残業がなされていると主張し、未払残業代を請求する場合もありますが、訴訟を提起しなくても、インターネット上の掲示板や転職サイト、SNSなどでその旨を書き込む可能性があります。
インターネット上の投稿は、不特定多数の人物が目にする、あるいは、一度行った投稿が半永久的に削除されないという特徴があるため、想像以上の影響力を持つ場合があり、企業のレピュテーションに大きな影響を及ぼす可能性があります。

また、サービス残業が生じる場合、労働基準法第32条、第37条に違反する可能性が存在するところ、これらの違反については、労働基準法第119条1号が、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を定めています。
そのため、(刑事上の罰則が適用される事例は多くありませんが)サービス残業が生じていたことを理由にして、使用者が処罰を受ける可能性も存在します。

特に、労働基準法第10条は、使用者を単に事業主だけではなく、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者もいうとしていますから、時間外労働に関する権限を有している個人も処罰の対象になる可能性が存在します。

また、労働者がサービス残業をさせられたと主張する場合、労働者が労基署に相談を行い、聞き取りや調査が実施される可能性が存在します。
聞き取りや調査の結果、違法状態が確認された場合は是正勧告が行われ、事案が悪質な場合は企業名が公表されるという可能性も存在します。

労働時間管理の考え方と企業側に課せられた義務

ノーワークノーペイの原則

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するかどうかは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるとされています(最判平12.3.9労判778・11)。

いわゆるノーワークノーペイの原則により、使用者は労働者の労働時間に対して賃金の支払い義務を負うことになりますから、適正な賃金の支払いのためには適正な労働時間の管理が必要になります。

会社には労働時間を把握する義務がある

労働基準法第32条、第36条、第37条は、労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結と割増賃金の支払いを行うことを使用者に要求しています。
このことから使用者である会社には労働者の労働時間を把握する義務があるとされています

平成29年1月20日には、厚労省において「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定され、会社がどのように労働者の労働時間を把握すべきかについて言及がなされています。

また、いわゆる働き方改革の関連法案が平成31年4月1日から順次施行されていますが、医師による面接指導を確実に行うため、労働安全衛生法上も使用者である会社に労働者の労働時間を把握する義務を規定しています(労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生法規則第52条の7の3)

もっとも、厚労省のガイドラインの対象となる労働者は割増賃金支払対象者に限られ、管理監督者といった労働基準法第41条に定める者や事業外みなし労働時間制が適用される労働者、裁量労働制が適用される労働者が対象から除外されているのに対し、労働安全衛生法の労働時間の把握義務については、高度プロフェッショナル制度の対象者を除き、労働安全衛生法の面接指導の対象となる全ての労働者が対象になるという点で違いが生じています。

自己申告制の会社は要注意

厚労省のガイドラインにおいても、労働安全衛生法においても、使用者である企業は、原則として、自ら現認する方法あるいはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、労働者の始業・終業時刻を確認し、記録することが求められています。

そして、やむを得ず客観的な方法により労働者の始業・終業時刻を把握し難い場合は、労働者の自己申告により始業・終業時刻を把握することも認められていますが、この場合は、以下の措置を採ることが求められています。

①自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の状況の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

②実際に労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

③自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。

④自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。
このため、事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該阻害要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

さらに、労基法の定める法定労働時間や36協定により延長することができる時問数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

上記のように、会社には労働時間を把握する義務があると考えられており、適正に労働時間の管理がなされていない場合、使用者である会社自身が労働時間を把握する義務を守っていないことになります。そのため、そのような会社のコンプライアンス軽視の姿勢が労働者にも蔓延し、法令違反行為等のコンプライアンス違反を助長するリスクが大きくなります。

さらに、労働時間管理がなされていない場合、長時間労働が生じやすくなり、生産性の低下、労働者のモチベーションの低下といった問題も引き起こします。あまりにも労働者の長時間労働が常態化した場合、労働者に健康被害が生じるなど、ときには深刻な社会問題に発展する可能性すら存在しています。このような観点から、企業が労働時間を適正に管理することが重要であると考えられています。

未払い残業代請求のトラブルは西村綜合法律事務所へご相談ください

未払い残業代請求をされた場合、会社側は早急な対応に努めることが大切です。

従業員からの残業代請求を放置したり、対応が遅れてしまった場合は、会社にとって大きな不利益となってしまう場合があります。未払い残業代請求をされた場合、なるべく早期の段階で解決することが望ましいです。

従業員からの未払い残業代請求でお困りの際は、ぜひ当事務所までご相談ください。

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