同一労働同一賃金(1)

同一労働同一賃金の論点1 基本給その1

1 ガイドラインの分析
そもそも,ガイドラインは,正規社員と非正規社員との間において,基本給の決定基準・ルールが同一であること,職務内容,配置の変更の範囲の同一が前提としたものですが,実際は同一はまれといえますのでガイドラインをそのまま適用する場面は少ないのではないかと思います。

すなわち,ガイドラインを分析しますと,ガイドラインは,①能力又は経験②業績または成果③勤続年数について,賃金決定の要因が同一であることを想定した記述となっています(職能給vs職能給、成果給vs成果給)。しかしながら、実務上は、正社員と非正規とで、賃金決定の要因が同一であるケースは極めて稀ではないかと思うのです。実務上は、賃金決定の要因について多様な趣旨を含みうるものであり、ガイドラインの示すような単純な基準に基づくケースは稀であるといえます。

特に,基本給は複合的な基準によって規定している会社がほとんどであると思います。①能力又は経験②業績または成果③勤続年数という複数の基準によって規定している会社が多数であると思います。そうなりますと,正規と非正規との間において,基本給の定め方を同一にしているケースは少ないでしょう。

他方,正規と非正規の間において基本給の定め方を同一にしている場合は要注意といえます。

また,実務上は正社員と非正規とで職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな違いが認められるケースが多いことからも,ガイドラインがそのまま適用される場面は少ないといえるでしょう。

他方,正規と非正規の間において職務の内容及び配置の変更の範囲を同一にしている場合は要注意といえます。

 

なお,ガイドライン(注)1には気を付ける必要があります。

具体的には,「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の取扱いとしては,通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短 時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「通 常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では 足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、通常の労働者と短時間・有期 雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の 事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない」というものです。同一性がないとしても,会社としてはその区別については具体的な説明ができるようにしておく必要があります。

 

2 現在の裁判例の分析
実際の裁判例においても、上記①②③の基準のうち,いずれの基準にも分類できないケースが争われています。

裁判例においては、(1)基本給全体の金額比較を行った上で、(2)その相違が不合理か否かの判断が行われており、その際に職務内容の相違や異動範囲の相違を主たる理由に掲げて不合理性を判断する傾向にあります。まずは(1)同一の職務についている正社員と非正規の基本給全体の金額比較を行い、(2)相違がある場合には、職務内容や異動範囲などの点を理由に不合理ではないと説明が可能かどうかの検証をすることがポイントとなっています。検証の結果、そのような説明が困難な場合は、基本給制度の見直しを行うなどの対応を検討することとなるでしょう。

なお、職務範囲や異動範囲等の違いについては、社内規程等の整備によって明確化しておくことが有用であると思います。

 

3 まとめ
ガイドラインは、賃金の決定基準・ルールが同一で、かつ職務の内容及び配置の変更の範囲がほぼ同一の場合に妥当します。それらが異なる場合には、正社員と非正規とでは将来の役割期待が異なる等の主観的・抽象的な説明では足りず、客観的・具体的な実態に照らして不合理と認められないように留意することが必要です。

 

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