残業代の未払いが発生してしまう要因は?企業経営に大きく影響を与える未払い残業代を発生させないポイント

残業代というのは、一人一人の各月で見ると低額のように見えます。しかし、累積していくと、いざ残業代を支払わなければならないと気づいたときには、企業の経営を圧迫するほどに膨れ上がっている場合があります。そのため、企業は、残業代について注意を要します。そこで、以下では残業代の未払いについてご説明させて頂きます。

残業代の未払い問題の発生増加

残業代未払い問題の発生は増加しており、厚生労働省の統計によれば令和3年度に残業代について是正の対象となった企業の数は1069企業で、前年度より7企業増加しました。是正対象の企業数は最近まで減少傾向になっていました。しかし、令和3年度の企業数は増加という結果になってしまいました。もっとも、是正対象の企業数はここ10年間、1000を切ったことがありません。そのため、残業代の問題を抱えた企業が少ないとは決していえない状況が続いています。

残業代の未払いが発生してしまう要因

残業代の未払い問題が増加しているのはどのような背景があるかご説明します。

労働者側弁護士の増加

一つの要因が、弁護士の増加にあります。日本弁護士連合会の統計によれば毎年約1000人ずつ弁護士は増加しており、2021年における弁護士は4万3206人で、2004年における弁護士の数が2万224人であることと比べると2倍以上になっています。このような弁護士増加が、労働者側の弁護士として活動する弁護士の増加につながっているようです。労働者側の弁護士の増加は、残業代の未払い問題を顕在化させる一つの要因となっているようです。

残業代請求権の時効延長

2020年4月1日、残業代の時効が2年から3年に延長されました。そのため、残業代を請求できる期間が長くなり、今まで時効を理由に諦めていた残業代について労働者が請求できるようになりました。このことが、残業代の未払い請求の潜在的な可能性を広げるものとなっています。

働き方改革による意識変化

2019年4月1日から働き方改革に関する法律が施行されています。特に、法律で残業時間の上限を定めるようになりました。原則として、月45時間、年360時間が上限となっています。なお、中小企業についても2020年4月1日からこの上限規制は、施行されています。このような政策の背景は、長時間労働の是正にあります。そのため、長時間労働については企業も労働者も注目しています。その結果、労働者は自己の労働時間を見直し、残業代を把握するようになりました。このことが、労働者が、会社に対してきっちり残業代を請求する意識を持つことに繋がったと思われます。

未払い残業代が発生してしまう要因

以上の通り、残業代について労働者が請求することが多くなっています。そのため、企業としては、未払い残業代を発生させないことが重要です。そこで、未払い残業代の発生要因についてご説明させて頂きます。

労働時間管理の曖昧さ

企業が、従業員の労働時間を管理することが重要です。現状での従業員の労働時間を把握し、どの程度の時間外労働が平均的に発生し、どの程度の残業代を支払う必要があるのかを理解しておくことが必須となります。

従業員の労働時間をきちんと企業側で把握できる体制をとっておかなければ、従業員の主張する残業時間のうち、どこまでが残業時間といえるのかが不明瞭となってしまいます。

例えば、在宅勤務やモバイルワークなどでは、従来のオフィスワークと異なって出社・退社を基準とする労働時間管理が困難になります。また、クラウドなどを使って、就業時間後に自宅において職場と同様に職務を行うことが可能な場合があります。従業員が就業時間後に自宅で職務を行っていたとき、許可を取っていなくても会社が黙示に指示をしていたとして労働時間としてカウントされてしまう可能性があります。

就業規則と合わない労働時間

労働時間が、企業内に従業員がいる時間ではないことに注意が必要です。判例上、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間が労働時間となります。つまり、就業規則で午前9時を勤務開始時刻と定めていたとしても、午前8時半から勤務開始が命じられれば午前8時半から労働時間と裁判所が認定する可能性があります。そのため、就業規則通りに賃金を払っていても、実態からすると残業代の未払いが発生してしまうことがあります。

従業員の残業代への意識の高まり/組織に対する不満

従業員は、ワークライフバランスという観点からできるだけ長時間労働を回避するようになってきています。そのため、長時間労働をさせられた場合、企業に対して通常より長く働かせられた分の残業代を請求することへの従業員の意識が非常に高くなっていると思われます。

また、勤務先での仕事を続けようと考えている最中は、勤務時間を超えたサービス残業をしていても従業員は勤務先とのトラブルを回避するために残業代を請求しないことが多いです。しかし、会社に対して不満をもって退職の覚悟をしたときに、勤務先に対して残業代請求をしてくることがあります。そのような場合、企業としては、従業員が残業代を請求してこない間は、残業代の発生を気にしておらず、急に従業員が残業代を請求したときに残業代の存在を把握することになります。そのため、企業としては、従業員が請求してこないからといって残業時間を軽視してはいけません。

未払い残業代が発生していることによるリスク

未払い残業代の発生によりどのようなリスクがあるかについてご説明させて頂きます。

一定の期間による高額な残業代請求

残業代は累積して増えていきます。残業代の未払いを長期間放置した結果、高額な残業代を請求されてしまうことがあります。特に時間外手当は通常の賃金の1.25倍を支払う必要があるため、通常の賃金よりも高くなります。そのため、通常の賃金の未払いより残業代の未払いの方が支払額は、大きくなります。

ドミノ倒し的な複数の従業員からの請求

残業代を従業員が請求してきた場合、会社側が支払いに応じることによって、他の従業員も追随し、会社全体の経営を揺るがしかねない事態に発展するおそれがあります。

このような危険性を踏まえると、残業代請求に安易に応じることはしない方がいいともいえます。そのため、残業代請求をされた場合には、従業員側に残業代請求の算定根拠を明らかにするように求めることも必要です。

既存で雇用している人材のモチベーション低下

勤務先とトラブルを回避するために未払いの残業代を請求しない従業員が、未払いであることを理由に仕事に対するモチベーションを失う可能性があります。その結果、残業代が未払いであることに不満を持ち、他の企業へ転職してしまう可能性があります。

未払い残業代を発生させないポイント

未払い残業代を発生させないために企業ができることについてご説明させて頂きます。

就業規則の見直し

実態の労働時間にあった就業規則への見直しが重要です。このような就業規則の見直しにより、就業規則に沿った賃金の支払いをもって未払い残業代の発生を防止することができます。

適正な労働時間管理

労働時間の管理をしっかりしておくことも未払い残業代の発生の防止に繋がります。典型的な管理方法としては、タイムカードが考えられます。出社から退社まで業務を行う従業員であればタイムカードで労働時間を管理することが可能です。しかし、営業職や配送職の従業員のように、出社と退社まで業務を行うわけでない従業員については、タイムカードでは労働時間を管理することが難しいかもしれないです。しかし、これらの職種も労働時間を管理することは可能です。まず、営業職の中で一度会社に出社してから営業に出るケースや直行直帰で営業を行うケースがあると思います。一度会社に出社するケースであればまずは出社時間と退社時間は把握できます。そして、営業に出ている時間は携帯電話で常時連絡、指示できる状態であり、休憩時間なども営業日報等で把握することができるので、比較的労働時間の把握は容易にできます。直行直帰のケースであれば会社に出勤することがないので業務の開始と終了が把握できないとも思われます。しかし、スマートフォンの出退勤管理アプリなどを使用するとGPS等によって従業員がどこにいるかを把握できます。配送職の従業員もさまざまな仕組みを使うことで労働時間の管理をすることは可能です。

適正な労働時間管理は、残業を正式な計算に基づき支払うことで未払いとなるリスクがなくなります。特に営業職は未払残業の争いとなる業種なので細心の注意が必要です。

従業員のエンゲージメント向上

残業代の未払い解消は、従業員は業務した時間に基づき給与が支払われることになります。そのため、従業員は、企業に対して安心感を持ち、離職率の低下に繋げることができます。

残業代請求に関するご相談は使用者側弁護士である西村綜合法律事務所へ

残業代請求に関する対応には、法的知識に基づいて適切に行うことが必要となります。そのため、残業代請求の対応に関してお悩みの方は是非一度法律の専門家である弁護士にご相談ください。

 

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