新型コロナウイルス感染対策と労働問題

はじめに

この度の未曾有のコロナウイルス問題により,景気も後退し,各企業・団体の皆様におかれては労働問題に対して難しい対応を取る必要がでてきていると推察致します。今回,私の専門である労働分野において,コロナ対策に関する労働問題について以下詳述させていただきましたので,ご参考にして頂きご質問がある場合は,西村(nishimura@nishimurualawoffice.com)までお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いです。

項目

第1 賃金

第2 使用者による自宅待機命令

第3 時差出勤・テレワーク

第4 解雇・雇止め

第5 内定取消し

第6 退職勧奨

第7 残業・長時間労働

第8 休暇

第9 ハラスメント

第10 派遣

第11 感染予防

第12 経営悪化への対応策

 

第1 賃金

Q1 コロナの影響により業績が不振となり会社を休みにした場合も,労働者に賃金を支払う必要はありますか?

A1 労働者が就労できないことにつき,使用者に「責めに帰すべき事由」がある場合には休業手当を支払う必要があります。

【解説】

国や地方自治体から自粛の要請を受けたことを理由にする場合であっても,労働者において労務の提供が可能であるのに,使用者自らの判断によって休みにする場合には,使用者に「責めに帰すべき事由」(労働基準法26条)があるとして,原則として休業手当の支払を拒むことは出来ません。会社側の都合により労働者を休業させた場合,休業させた所定労働日について,平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければなりません。

この点,休業手当について定めた労働基準法26条は強行規定ですので,同条が定める基準を下回る合意は無効です。したがって,労働者の同意の有無にかかわらず,休業手当の支給は必要であると考えます。

なお,民法536条2項の要件を満たす場合,労働基準法26条の規定にかかわらず,労働者は使用者に対し賃金全額の請求をすることが出来ます。もっとも,民法536条2項にいう「責めに帰すべき事由」は労働基準法26条にいう「責に帰すべき事由」よりも狭く,故意・過失又はこれと同視しうる事情を指します。

したがって,コロナウイルスの影響により休業の判断をせざるを得なくなったという場合には,基本的に休業につき使用者に故意・過失又はこれと同視しうる事情があったとはいえないので,賃金の全額を支払う必要はないものと考えます。

また,政府の非常事態宣言や都道府県知事の都市封鎖に伴う通勤不能の場合などは,労働者が就労出来ないことについて使用者に「責に帰すべき事由」(労働基準法26条)があるとはいえないので,休業手当の支払も必要ないと考えます。

 

Q2 シフト削減により労働者が就労出来なくなった場合も賃金を支払う必要はありますか?

A  この場合も上記Q1と同様です。

 

Q3 在宅勤務への変更を理由として賃金を減額することは出来ますか?

A  労使間での合意がなければ出来ません。

【解説】
労働条件の変更には原則として労使間の合意が必要です(労働契約法8条)ので,使用者が賃金を一方的に引き下げることは出来ません。

また,労使間の合意によって賃金を減額する場合であっても,当該合意が労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的理由が客観的になければ,労働者の真意に基づかないものとして無効とされる場合もありますので,合意を交わす場合には慎重に行うことが求められます。

 

Q4 新型コロナウイルスに感染し出勤出来ない労働者にも賃金を支払う必要はありますか?

A  賃金や休業手当を支払う必要はありません。

【解説】

新型コロナウイルスは,2020年2月1日から,指定感染症(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,「感染症法」といいます。) 6条8項)に定められました(令和2年政令第11号第1項,令和2年政令第22号)。

そして,新型コロナウイルスに罹患した場合,その病原体を保有しなくなるまでの期間,就業が制限されます(令和2年政令第11号第3条により読み替えられた感染症法18条1項,同条2項,感染症法施行規則11条3項2号)。

そのため,労働者において労務の提供が不能な状態に置かれているといえるので,ノーワークノーペイ(民法624条1項)の原則に基づき,当該労働者に対して賃金の支払を行わないことも許されます。また,この場合,労働者が労務の提供を出来ないことについて使用者に「責めに帰すべき事由」があったとも言いがたいので,休業手当(労働基準法26条)の支給も必要ないと考えます。

もっとも,そうすると労働者に何らの生活保障がされなくなるので,使用者としては,傷病手当がある場合にはその支給を検討したり当該労働者に年休が存在する場合には年休を取得するか確認したりすることが望ましいでしょう。

なお,労働者がコロナウイルスに感染した場合,当該感染情報は個人情報にあたりますので,これを公開することにあたっては,トラブル防止の観点から本人の同意を得ましょう。また,社内で感染予防を励行する必要がある場合であっても,感染者の氏名を公表しない方法で行うことが望ましいです。

 

第2 使用者による自宅待機命令

 

Q1 感染疑いのある労働者に自宅待機命令を出すことは可能ですか?

A  可能です。

【解説】

使用者は労働契約上安全配慮義務を負っている(労働契約法5条)ので,他の労働者の健康にも配慮して,感染疑いのある労働者に対し自宅待機命令を出すことは可能です。

 

Q2 感染疑いのある労働者に自宅待機命令を出した場合,賃金を支払う必要はありますか?

A  感染が強く疑われる労働者に対しては,賃金も休業手当も支払う必要はありません。

【解説】

単に感染が疑われているだけの場合には,労働者に就業制限は課されません。

また,労働者自身が感染したわけではなく,その家族に感染者が出たにすぎない場合も同様です。

もっとも,昨今の情勢に鑑みると,37.5度以上の発熱がありコロナウイルスへの感染が強く疑われる労働者については,労務提供が出来ない状態にあると取り扱うことも許容されるというべきでしょう。この場合,ノーワークノーペイ(民法624条1項)の原則に基づき,当該労働者に対して賃金の支払を行う必要はありません。また,この場合,労働者が就労出来なくなったことについて使用者に「責めに帰すべき事由」があったとも言いがたいので,休業手当(労働基準法26条)の支給も必要ないと考えます。もっとも,第1のQ4で述べたとおり,使用者としては,当該労働者に対し年休の取得をするか確認することが望ましいでしょう。

 

第3 時差出勤・テレワーク

 

⑴ 時差出勤

Q1 労働者に対し一方的に時差出勤を命じることはできますか?

A  就業規則,雇用契約に始業時刻や終業時刻を変更する場合があるとの記載がない限り,一方的に時差出勤を命じることはできません。

【解説】

始業時刻,終業時刻は労働契約によって定められます。労働契約の内容を変更するためには,原則として労使間の合意が必要となります(労働契約法8条)。

したがって,労働者に時差出勤をさせるためには,始業時刻や終業時刻について改めて労使間で合意をする必要があります。

他方,就業規則に「業務の都合その他やむを得ない事情により,始業時刻,終業時刻を繰り上げ,または繰り下げることがある」という規定がある場合は,同規定を根拠に,時差出勤を命じることができます。

新型コロナウイルスの感染予防が「やむを得ない事情」に該当するかについて,現在,政府も感染予防のため人混みを避けるよう要請していることに鑑みると,自動車通勤等人混みを避ける通勤方法を取れない労働者に対して時差出勤を命じることは,「やむを得ない事情」に該当すると考えられます。

 

Q2 時差出勤を導入した場合,始業時刻の繰り上げ,終業時刻を繰り下げた分の残業代を支払う必要がありますか?

A  始業時刻,終業時刻を共に,繰り上げ若しくは繰り下げた場合であっても,1日の実際の労働時間が8時間を超えない場合には,時間外労働の割増賃金は発生しません。

【解説】

時間外労働の割増賃金は,実際の労働時間が1日8時間を超える場合に発生します。そのため,時差出勤導入前に,「始業時刻9時,終業時刻18時,休憩1時間」であった会社が,時差出勤の導入により,「始業時刻10時,終業時刻19時,休憩1時間」とした場合には,1日の労働時間は8時間を超えないため,時間外割増の残業代は発生しません。

もっとも,始業時刻,終業時刻の繰り上げ,繰り下げにより,これらの時刻が午後10時〜午前5時にまたがる場合には,深夜割増の残業代(通常の賃金の1.25倍)の割増賃金が発生する(労働基準法37条4項)点には,留意が必要です。

 

Q3 時差通勤の導入に伴い始業時間の繰り下げを行った分,労働時間を短くし,労働時間短縮分の賃金を減額することも可能でしょうか?

A  労働時間を短くする場合についても,労使間の合意が必要になります。賃金の減額をする場合も同様です。

【解説】

労働時間及び賃金は労働契約の内容となっているため,これを変更する場合には,原則として労使間の合意が必要となります(労働契約法8条)。

裁判実務上,賃金減額の合意については,①労働条件の変更により従業員にもたらされる不利益の程度,②従業員が合意をするに至った経緯及びその態様,③合意に先立つ労働者への情報提供又は説明内容等を考慮して,賃金減額の同意が従業員の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要とされています。

そのため,賃金減額を伴う短時間勤務を導入する場合には,労働者と十分に協議を行い,その過程を書面に残すなどして,労働条件の変更について同意を得る必要があります。

なお,会社によっては,就業規則・賃金規定に賃金表・賃金テーブル等が存在し,支給する給与の最低限の金額が定まっていることがありますが,賃金減額の合意内容が,この賃金表・賃金テーブルの最低金額を下回る場合には,就業規則の最低基準効(個別の雇用契約の内容が就業規則の内容を下回る場合には,就業規則の内容が優先して適用されるという効果)により,就業規則を下回る給与金額での合意の部分が無効となります。この場合,就業規則・賃金規定の変更が必要となりますので,ご留意ください。

 

⑵ テレワーク

Q テレワークにより労働者の労働時間を管理出来なくなったとして賃金を減額することは出来ますか?

A 使用者には労働者の労働時間を管理する義務があるので,出来ません。

【解説】

事業場外みなし制(労働基準法38条の2)の適用は厳格に判断され,簡単に認められるものではありません。

事業場外みなし制は,労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間など一定時間労働したものとみなす制度ですが,この「労働時間を算定し難いとき」(労働基準法38条の2)という要件は厳格に解されています。情報通信技術が発達した現代においては,携帯電話やインターネットにおいて,事業場外における労働者の勤務状況を把握することは容易だからです。

テレワークについて,事業場外みなし制が適用されるのは,

①在宅業務が私生活を営む自宅で行われ,
②情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされておらず,
③在宅業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われるものではない,

という3つの要件を全て満たす場合に限られるとしています(解釈通達(平成16年3月5日基発0305001号))。

また,テレワークを実施する場合にも労働基準法が適用されることはもちろん,使用者は,労働時間の適正把握する義務があり,「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日厚生労働省策定)に基づいて適切に労働時間管理をしなければなりません。

 

第4 解雇・雇止め

 

Q1 会社経営の悪化を理由として労働者を解雇することは出来ますか?

A  一定の要件を満たす場合にのみ認められます。

【解説】

新型コロナウイルスによる経営悪化を理由に労働者を解雇する場合は,使用者の経営上の理由による解雇といえ,いわゆる「整理解雇」にあたります。

整理解雇は,労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではないので,一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約が課されています。

 

整理解雇は以下の4つの要件(要素)で正当性が判断されています。

① 人員削減の必要性があること

② 解雇を回避するための努力が尽くされていること

③ 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること

④ 事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしていること

 

具体的には,経営状況を踏まえ,諸経費の削減,役員報酬の削減,新規採用の見送り,配置転換,一時帰休(労働者を一時的に休業させる),残業規制,賃金・賞与のカット,希望退職者の募集等を検討し,その検討結果について対象となる労働者に対して説明,協議をする必要があります。また,新型コロナウイルスに影響を受ける事業主に対する雇用調整助成金(経済上の理由により,事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が,雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度)の特例措置の拡大等の雇用維持支援策や,資金繰り支援等の政府等からの支援策に関する検討の有無についても考慮した上で,事業縮小・人員整理に踏み切るか否かの判断をすることも重要です。

また,使用者は,労働者を解雇する場合,労働者に対して30日以上前に告知するか,解雇予告手当を支払う必要があります(労基法20条1項)。

 

Q2 経営悪化を理由に有期雇用契約で雇っている労働者を雇止め・解雇することは出来ますか?

A  一定の要件を満たした場合にのみ認められます。

【解説】

⑴ 雇止め(期間満了)

契約期間が定まった労働契約の契約期間満了時に,使用者が次の更新を拒絶して雇用を打ち切ることを「雇止め」といいます。

労働契約法19条は,下記①又は②に該当する場合には,正当な理由(客観的合理的理由と社会通念上の相当性)がなければ雇止め出来ないと規定しています。

① 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたものであって,雇止めをすることが期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められる場合(労働契約法19条1号)

② 労働者が当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理性があると認められる場合(労働契約法19条2号)

上記①②に該当するか否かは,従事している業務の内容(臨時的なものか恒常的なものか),更新回数・通算期間,更新手続き・管理の厳格さ,雇用継続を期待させる使用者の言動等の諸事情を勘案して判断されます。多数回ないし長期間契約が更新されていたり,更新手続きが曖昧で形骸化していたりするような場合等には,期間満了というだけで契約終了とすることができない可能性がありますので注意が必要です。

 

⑵ 期間途中の解雇

契約期間が定まっている労働契約であっても,契約期間の途中で契約を打切る場合は,雇止めではなく,解雇となります。

この場合の解雇は,約束した契約期間の途中で契約を打ち切ることになるので,期間の定めのない労働契約における解雇よりも厳格に規制され,「やむを得ない事由」が必要とされています(労働契約法17条1項)。

そして,「やむを得ない事由」は,期間の満了を待つことができないほど緊急かつ重大なものでなければならないと解されており,通常の経営悪化程度では「やむを得ない事由」があったとは認められず,労働者が負傷・疾病により就労不能となった場合や,天災事変や経済的事情により事業の継続が困難となったこと等が必要であると考えられます。

 

第5 内定取消し

 

Q 経営悪化を理由に採用内定の取消しをすることは出来ますか?

A 一定の要件を満たした場合にのみ認められます。

【解説】

採用内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合には,当該採用内定通知により労働契約が成立したと認められます。

したがって,通常の解雇同様,内定取消しについても,客観的合理的理由が存し,社会通念上相当といえない限り行うことは出来ません(労働契約法16条)。

そして,新型コロナウイルスによる経営悪化を理由とする内定取消しの場合は,先述したいわゆる整理解雇の4要件(要素)によって,その有効性が判断されます。

この点,内定取消しの回避努力を行ったというためには,雇用調整助成金の特例措置を利用できないか,行政機関や金融機関が出す雇用維持支援策を利用できないか,テレワークを活用できないかを検討する等誠意をもって対応することが必要です。

 

第6 退職勧奨

 

Q コロナウイルスの影響で事業再開の目処が立たないので従業員の数名には辞めてもらおうかと考えています。どのような点に注意すれば良いでしょうか?

A 執拗に退職を迫るなど,労働者の真意を害する態様での退職勧奨は避けましょう。

【解説】

労働者がその一方的な意思表示によって労働契約を解約することを「辞職」といい,労使間の合意に基づいて労働契約が終了することを「合意解約」といいます。

これらは,労働者の意思に基づくものである点で解雇とは異なります。

もっとも,労働者の意思は真意に基づくものでなければならず,使用者が労働者に対し執拗に辞職を求めるなど労働者の人格的利益を侵害する態様で退職勧奨が行われた場合には,当該辞職や合意解約は労働者の真意に基づかないものであるとして取消される可能性があります。また,それだけではなく,執拗な退職勧奨が不法行為にあたるとして損害賠償を求められる可能性もあるので注意が必要です。

なお,労働者本人が解雇されたと誤解を受けないように,解雇ではなくきちんと退職勧奨であると明確に伝えることも大切です。

他方,自主的な退職に応じてくれる労働者に対しては,今後の生活保障等の観点から一定の配慮をすることも検討した方がよいでしょう。具体的には,退職金の加算や解決金の支給を行うことなども柔軟に検討することが望ましいですし,もし労働者からの補償等の要求があった場合にも誠意をもって対応すべきです。また,離職票の作成時には退職理由を定める必要がありますが,「会社都合」とすることで失業給付金の支給開始日や支給日数等の点で従業員には有利になります(ただし,キャリアアップ助成金など各種助成金を利用している場合,現時点では会社都合退職とすることにより助成金が不支給となったり返還を求められることがありますのでご留意ください)。

 

第7 残業・長時間労働

 

Q1 コロナウイルスの影響で業務量が増えた場合,労働者に法定時間を超える労働をさせることは出来ますか?

A  「災害その他避けることのできない事由によって,臨時の必要がある場合」にあたるとして労基署から労基法第33条1項に基づく許可を受けた場合には,36協定なしに法定時間外労働を命じることができます。

【解説】

労働者に対し1日8時間又は週40時間を超える労働を命じる場合には,原則として労使協定(いわゆる「36協定」)を結ぶ必要があります(労働基準法36条)。

36協定は,事業場に労働者の過半数で組織する組合が存在する場合には当該組合との間で,過半数組合がない場合には労働者の過半数を代表する者との間で書面によって締結しなければなりません。もっとも,コロナウイルスの影響で36協定の締結がままならないという場合もありうるかと思います。

この点,労働基準法33条1項は,「災害その他避けることのできない事由によって,臨時の必要がある場合」に該当し,労基署から労基法第33条1項に基づく許可を受けた場合には,36協定がない状態であっても時間外労働を命じることができると規定しています。

ここでいう「臨時の必要がある場合」の該当性は一般的に限定的に解釈されるものとされていますが,厚労省は「新型コロナウイルスに関するQ&A」において,例えば「新型コロナウイルスの感染・蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液,治療に必要な医薬品等を緊急に増産する業務」はこれに該当するとの考えを示しています。

なお,労働基準法36条や33条1項によって労働者に時間外労働を命じる場合には,労働基準法37条に基づき割増賃金を支払わなければなりません。

また,使用者は労働契約上安全配慮義務を負っている(労働契約法5条)ので,労働者に時間外労働を命じる場合であっても,労働者の健康に配慮しなければならない点に注意が必要です。

 

第8 休暇

 

Q 自治体からの自粛要請を受け,休業日を設けることになりました。この休業日を年次有給休暇の取得日にあててよいでしょうか?

A 法的に休業日に年次有給休暇を取得することはできないと考えられます。また,原則として年次有給休暇の取得日を使用者が指定することはできません。

【解説】

年休権は一定の要件を満たした労働者に法律上当然に発生する権利であり(労働基準法39条1項),労働者が時季指定権を行使することによって労働義務の消滅という効果が発生します。そうすると,年次有給休暇を取得することができるのは,労働者に労働の義務がある日と言えます。休業日については,労働者に元々労働の義務はありませんので,休業日として使用者が指定した日に年次有給休暇を取得させることは出来ません。そもそも,時季指定権の行使は労働者の意思によるので,原則として使用者が年休の取得日を指定することは出来ません。

 

第9 ハラスメント

 

Q 客から理不尽なクレームを受けることがあり,従業員は疲弊しています。どう対応したらよいでしょうか?

A 個人の対応に任せず,組織や仕組みの問題として対応しましょう

【解説】

⑴ 増えるカスタマーハラスメント

客による労働者に対する嫌がらせをカスタマーハラスメントと言います。使用者には職場環境配慮義務があります(労働契約法第5条)ので,カスタマーハラスメントについても,労働者個人の対応に任せず積極的に対応する必要があります。

⑵ 見えやすい位置に予め断り書きを掲示しておく

想定できる苦情に備えて予め客の目に触れる場所に断り書きを掲示しておくこともカスタマーハラスメントの予防策として考えられます。

⑶ マニュアルを整備する

マニュアルを整備することも有効であると言われています。事前に想定されるクレーム,理不尽な要求について,何をどこまで話せばよいか,どの段階で警察に通報して良いかを事前にまとめておくことは有効です。

 

第10 派遣

 

Q1 コロナの影響で事業場を休業せざるを得なくなりました。当社では派遣会社から派遣社員も受け入れていますが,派遣元会社への派遣料金の支払いは必要でしょうか?

A 派遣元会社との間で交わされている派遣契約の定めに従って処理されることになります。派遣料金についての条項が存在しない場合には,民法の原則に従い,休業が派遣先の責めに帰すべき事由に基づくものかどうかで派遣料金支払いの要否が決定されます。

【解説】

休業した場合の派遣料金の支払い方法も,契約の定め(派遣基本契約書や派遣個別契約書に定められている可能性があります)に従って処理されるのが原則です。

派遣先会社・派遣元会社間で交わされた契約書に対応条項がない場合は,民法の原則に基づいて判断されることになります。すなわち,派遣先の「責めに帰することができない事由」に基づいて休業した場合には派遣料を支払う必要はありませんが(民法536条1項),派遣先の「責めに帰すべき事由」に基づいて休業した場合には,派遣料金を支払う必要があります(民法536条2項)。

例えば行政からの営業停止の指示に基づき休業した場合には,通常,派遣先に「責めに帰すべき事由」はないといえ,派遣料金は発生しないと考えられます。

 

Q2 当社では派遣会社から派遣社員を受け入れていますが,コロナの影響から派遣契約を打ち切らなければならなくなりました。この際留意すべきポイントはありますか?

A 派遣元との契約内容に基づき適切な対応を行う必要があります。

【解説】

派遣元会社との間で期間中に派遣契約を解除するにあたり,契約内容に従い次の措置をとる必要があります。(これらの措置は厚労省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に記載されているものであり,同指針に基づき,派遣契約の内容として通常定められているものです)。

① 派遣元事業主の合意を得ることはもとより,あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと

② 当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により,当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること

③ 派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には,派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし,これができないときには,少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行うこと

④ 派遣先は,労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合であって,派遣元事業主から請求があったときは,労働者派遣契約の解除を 行った理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすること

 

第11 感染予防

 

Q1 労働者にマスク着用を命じることは出来ますか?

A 会社が費用を負担してマスクを用意するのであれば,マスク着用を命じることは可能と考えます。そうでない場合には,マスク着用を命じることは難しく,協力を求めることができるにとどまると考えます。

【解説】

使用者は労働契約上労働者の生命,身体等の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。したがって,使用者としては労働者の感染防止のためにマスク着用を命じることはできますが,それは使用者においてマスクを用意している場合に限られるものと考えます。なぜなら,マスクを入手出来ない労働者にマスク着用を命じることは,労働者に対し無理を強いるものだからです。

 

Q2 マスクを着用の指示に従わない労働者を懲戒処分にすることは出来ますか?

A  指揮命令違反が懲戒事由になることを就業規則で定めており,当該処分を行うことに相当性も認められる場合には懲戒処分とすることが出来ます。

【解説】

懲戒処分を行うには,①懲戒処分規定の存在,②懲戒事由該当性,③懲戒の相当性が必要です(労働契約法15条)。したがって,マスクを着用しないことを理由に懲戒処分をするためには,予め就業規則で労働者が使用者の指揮命令に違反したことが懲戒事由となることを定めておく必要があります。

そして,懲戒事由該当性が認められる場合であっても,処分が重すぎるような場合には,当該懲戒処分に相当性が認められなくなるので,労働者の違反の程度と労働者に課す処分の程度は均衡の取れたものにしましょう。

 

第12 経営悪化への対応策

 

現在,経済産業省において資金繰り支援等各種の支援策が行われていますので,こちらもご参照ください。

https://www.meti.go.jp/covid-19/(経済産業省HP)

 

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