病院における医師や看護師の鬱・適応障害などへの対応【弁護士監修】

このページでは、病院における医師や看護師がうつ病や適応障害を訴えた場合に、病院側がどのように対応すべきか、法的・実務的観点から整理します。

精神疾患を理由とした労務管理は、非常にデリケートかつ訴訟リスクを含む分野であり、誤った対応は病院側にとって深刻な損害となり得ます。

休職制度の適切な運用、診断書への対処、復職・解雇判断の基準、そして悪質対応への防衛策まで、病院経営者や人事責任者が知っておくべき実務知識を体系的に解説します。

職員のうつ病・適応障害に、なぜ慎重な対応が必要なのか?

精神疾患を主張する医師・看護師への対応でお困りの方へ

医師や看護師が「うつ病」「適応障害」などを主張した場合、病院側は対応に極めて慎重にならざるを得ません。

労働契約上、使用者には安全配慮義務が課せられており、精神的健康を損ねた場合に、義務違反とされることもあります。

特に医療従事者は患者と直接関わる立場にあり、職場環境の些細なトラブルでも過敏に反応する可能性があります。そうした状況においては、初動対応の失敗が労災申請・労基署通報・民事訴訟と連鎖する危険があるため、常に法的観点での裏付けが必要です。

「メンタル不調=保護すべき」という思い込みは逆効果になる場合も

「精神疾患を訴えているから何も言ってはいけない」「とりあえず休ませるしかない」という対応は、かえって病院側に不利な証拠を積み重ねる結果になることもあります。

たとえば、過度な配慮が業務上の評価や配置に影響を与えたとされ、パワハラと主張されるおそれがあります。また、明確な基準もなく復職を許可した結果、再発・事故につながるケースもあります。

精神疾患であることと労働能力との関係は必ずしも一致せず、状況を整理しながら客観的な対応を取ることが必要です。

病院という専門性の高い現場ならではの事情とは

医療現場は患者の命に直結する業務であり、通常の職場以上に職員の判断力・集中力・協調性が問われます。

そのため、精神状態に不安がある職員が現場に立ち続けることは、他のスタッフへの悪影響や患者の安全に直結する問題となります。

また、医療専門職は「業務内容の高度さゆえに代替人員を確保しづらい」という構造的な問題も抱えており、早期の対応ができないと人員全体のバランスが崩れやすい特徴があります。病院特有の現場事情を踏まえた労務管理が不可欠です。

実際に起こりうるトラブルとその影響~医師や看護師のメンタル不調~

対応ミスで訴訟や労基署案件に発展するケース

精神的な不調を訴えた職員に対して、「軽率な指導」「復職圧力」「配置転換の不備」などがあったとされると、労働審判・民事訴訟・労災申請等に発展するリスクがあります。

特に、過去の判例では、企業側が「医学的な裏付けのない復職判断」や「休職制度の形骸化」を行っていた場合に、損害賠償が認められた事例も見られます。病院においても同様の対応は裁判所に厳しく見られる傾向があります。

他のスタッフへの負荷・職場全体のモラル低下

精神疾患を理由に長期間の休職が続くと、その職員の業務を他のスタッフが肩代わりする必要が生じます。

これによりチームの業務負荷が増加し、看護師やメディカルスタッフのモラル低下を引き起こすこともあります。特に勤務体制がシフト制の場合、欠員による代替勤務が集中しやすく、他の職員の健康にも影響が波及します。これは結果として「第二のメンタル不調者」を生む温床となりかねません。

長期的な雇用管理コスト・人材損失

精神的不調が長引く職員に対して、適切な管理を行わずに放置した場合、当該職員の処遇が曖昧なままとなり、最終的に配置も異動もできず、解雇もできない「グレー状態」が続くことになります。

このような状態が続くと、賃金・福利厚生の負担、採用・研修の計画の不整合など、病院全体の人事計画に支障をきたすおそれがあります。中長期的にはコスト・労力ともに大きな損失となります。

医療法人・クリニックにおける人事労務の法的な注意点

精神疾患の主張があったとき、病院側に求められる義務

病院側には「安全配慮義務」として、職員の心身の健康を損なわないよう適切な職場環境を維持する法的義務があります。

したがって、うつ病や適応障害を申告された場合には、医師の意見や職場状況をふまえた調整が求められます。ただし、すべての申告に対し過度な対応をする義務があるわけではなく、「合理的に予見可能か」「業務と因果関係があるか」など、実態を冷静に把握したうえでの判断が必要です。

「解雇が有効」と判断される条件とそのハードル

精神的疾患を理由とした解雇は、法的には非常に慎重な運用が求められます。

裁判例では「労働能力が著しく低下し、改善の見込みがなく、かつ休職制度等の対応を尽くしてもなお就労不能である場合」に限定して、解雇が有効と認められています。したがって、すぐに解雇を検討するのではなく、段階的に「休職 → 復職支援 → 業務不能の確認 → 解雇判断」と進める必要があります。

「休職制度」を活用した段階的な対応策とは?

病院が整備すべき対応フローとして最も重要なのが、私傷病による休職制度の的確な活用です。

制度に基づき、休職期間中に必要な医師の診断書提出を求める、定期的な健康確認を行う、就業困難な場合は復職を拒否できる体制を作っておくことで、病院側に有利な立場を確保できます。制度があっても実態が運用されていないと「無効」とみなされるおそれもあるため、日頃からの規則整備と記録管理が重要です。

初動で間違えないために──症状を訴えられたときの対応手順

診断書を受け取った時点でやるべきこと/やってはいけないこと

職員から「うつ病」や「適応障害」などの診断書を提出された場合、まずは慌てずに対応の整理を行う必要があります。

最初に確認すべきは、「休職を希望しているのか」「就労制限があるのか」「診断書の内容に業務との因果関係が示されているか」といった情報です。

一方で、安易に口頭で休職を認めたり、感情的な言葉をかけたりすることは避けてください。誤った対応が記録に残ると、後のトラブルで不利に扱われるリスクがあります。必ず書面をベースに、冷静かつ記録を残す形で初動をとることが肝要です。

就業制限?配置転換?復職許可?法的根拠に基づく判断を

診断書に「軽度の業務なら可」や「ストレスの少ない配置を希望」などの記載がある場合、その指示に従うべきか悩むことがあります。

病院としては、法的には「合理的な範囲で就業制限や配置転換に配慮すべき」とされていますが、それが業務運営を大きく妨げる場合には、応じなくても違法とされるわけではありません。復職を許可するか否かは、医師の診断だけでなく、本人の勤務態度、職場の状況、再発リスク等を総合的に判断する必要があります。

復職許可を出す場合は、勤務条件を明確に書面で提示しておくことが後の紛争予防につながります。

医師との連携のとり方/「産業医がいない」中小規模病院の対応策

大規模な病院であれば産業医を活用できますが、中小規模の医療機関では産業医が不在というケースも少なくありません。

その場合、主治医の診断書のみを鵜呑みにするのではなく、第三者の医師による意見書取得(セカンドオピニオン)や、本人との面談記録、上司からの観察報告なども総合して判断材料とする必要があります。

弁護士としては、精神的疾患に関する判断こそ「多角的な情報による裏付け」が重要であり、医師の一筆だけで就業判断を下さないことが最善の方策と考えます。

休職制度の運用で気をつけたい実務ポイント

就業規則上のルールと、現実的な運用のすり合わせ

私傷病による休職制度を導入している場合、まずは就業規則の内容を確認することが基本となります。

休職の発令要件、期間、更新、復職の条件、休職満了後の取扱い(自然退職か、解雇か)など、規則上明記されていないと、いざという時に不利益な扱いとされてしまいます。実際に制度が整っていても、職員がその内容を把握していなかったり、院内で運用が統一されていなかったりすると、後に無効を主張されかねません。制度の有無だけでなく「説明・同意・記録」の3点を徹底しておく必要があります。

私傷病休職と解雇をつなぐ“グレーゾーン”の注意点

休職期間が満了した後、復職できない職員については「自然退職」または「普通解雇」という形で雇用関係の終了を検討することになります。

しかし、その判断を性急に進めると、解雇無効・地位確認請求・バックペイ請求に発展するリスクがあります。特に裁判例では、休職期間中の連絡状況や復職努力の有無、復職可否の判断材料の質などが厳しく問われます。事前に弁護士と協議したうえで、「段階的な通知」「復職の可否確認」「本人との協議記録」を積み重ねることが不可欠です。

「復職不可」と判断する際の留意点と証拠の整え方

復職不可の判断は、単に「主治医が就労不可能と書いたから」では足りません。

職場として復職を受け入れる環境があるか、受け入れた際に支障が出るかどうか、同僚・管理職の声、事故リスクなど、病院側の合理的な理由を明示できるかが鍵です。そのため、復職面談記録や人事担当者の意見、業務内容説明書、本人の意向など、関係資料を事前に収集・整理しておく必要があります。

万一に備え、弁護士が復職判断書や通知書の作成を支援することも有効です。

悪質・不誠実な言動がある場合の対応

精神疾患を盾にするハラスメント/職場秩序の乱れ

精神疾患を訴えている職員の中には、「精神的に不安定だから叱責しないでほしい」と主張しつつ、職場で同僚や部下に対して強圧的な言動を繰り返す者もいます。

このような状況は職場秩序を著しく乱し、放置すれば組織全体の機能不全を招くおそれがあります。精神的疾患を主張していても、他人へのハラスメントや業務妨害行為に対しては、別途の懲戒処分を検討する必要があります。精神疾患の有無と職場秩序の維持義務は切り離して考えるべきです。

注意指導や書面記録の積み上げが後の決め手に

問題行動がある職員に対しては、精神疾患の有無に関わらず、業務指導を適切に行い、その経過を記録に残すことが非常に重要です。

口頭注意だけでは証拠にならず、後に「いきなり解雇された」と主張されるリスクがあります。指導時は、内容・日時・場所・出席者・本人の反応などを記録に残すことが推奨されます。また、可能であれば改善要求書や指導書を文書で渡し、本人の署名を得ることで、後の正当性を主張しやすくなります。

懲戒処分の対象となるかどうかの判断基準

精神疾患を持つ職員であっても、業務命令違反や無断欠勤、虚偽報告、職場内トラブル等の行為があれば、懲戒処分の検討は可能です。

ただし、精神的状態が行動に影響を及ぼしていたか否かを慎重に判断し、懲戒処分の理由書や議事録などを整えておくことが必要です。職場秩序を守るためには、あいまいな対応ではなく、病院としての一貫した姿勢を文書化し、証拠として積み重ねる運用が求められます。

顧問弁護士を活用することで得られるメリット

対応方針を事前に決めておくことで、安定した退所が可能

メンタル不調の職員対応は「対応を間違えた後」に相談を受けるケースが多いですが、本来は「問題が起きる前」に方針を定めておくべきです。

顧問弁護士がいれば、就業規則や休職制度の設計段階からサポートを受けられるため、問題発生時も迷わず対応できます。初動での判断を誤らないことが、病院経営にとって極めて重要です。

「主張されたら困ること」を作らない就業規則・文書整備

就業規則や人事制度に曖昧な記載が残っていると、職員が訴訟時に「知らなかった」「説明を受けていない」と主張する根拠を与えてしまいます。

顧問弁護士は、こうした抜けを事前にチェックし、改訂や通知文案の作成を通じてリスクの芽を摘むことが可能です。訴えられてから弁護士を探すのではなく、訴えられない体制を作ることが、経営的にも合理的です。

予防・初動・交渉・解雇判断まで一貫サポートが可能

顧問契約を結んでおけば、相談のたびに契約手続きを行う必要がなく、電話一本で迅速な対応が可能です。

初動対応から交渉、解雇通知の文言調整、さらには裁判対応まで一貫して任せられるため、病院側の負担を最小限に抑えることができます。特に精神疾患に関する対応では、状況の変化が激しく、タイミングを逃すと取り返しのつかないリスクもあるため、継続的な支援体制の整備が極めて有効です。

メンタル不調や休職トラブルにお困りの場合は西村綜合法律事務所へご相談ください

西村綜合法律事務所では、医療機関で発生する労務トラブルに精通した弁護士が、病院様の経営目線に立って対応方針を提案します。岡山を拠点に、地域密着で多数の医療法人や中小病院のご相談を受けており、迅速かつ実践的な支援が可能です。

初回相談は無料ですので、「診断書を出されたがどう対応すべきかわからない」「休職の期間管理が不安」「そろそろ解雇も検討したいがリスクが怖い」といったお悩みをお持ちのご相談者様は、ぜひ一度ご相談ください。

オンライン面談にも対応しており、遠方の病院様やご多忙な院長・事務長の方にもご利用いただきやすい環境を整えております。問題の長期化や損害拡大を防ぐためにも、まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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