暴言や怒鳴る患者(モンスターペイシェント)に病院側弁護士ができること【弁護士監修】
本記事では、医療機関が直面する「ペイハラ(ペイシェントハラスメント)」について、その定義・判断基準・法的対応の可否を体系的に解説します。
近年、患者や家族からの不適切な言動が職員の精神的負担となり、医療現場の秩序や安全に悪影響を与えるケースが増加しています。どのような行為がペイハラに該当するのか、正当な苦情との線引き、訴えることが可能な場合の要件、また、日常的な対応の指針についても具体的にご説明いたします。
医療法人・クリニックの管理者の方にとって、金銭的・精神的な負担を未然に防ぐための実践的な知識を得られる内容ですのでぜひご覧ください。
ペイハラ(ペイシェントハラスメント)とは?
医療現場で問題視されている背景と社会的な注目
ペイハラとは、患者やその家族が医療従事者に対して行うハラスメント全般を指す言葉であり、暴言や暴力に限らず、過度な要求や侮辱的な態度も含まれます。
背景には、医療サービスの高度化・多様化により患者側の期待水準が上昇していること、またインターネットによる情報の錯綜で患者側の不満が助長されやすい環境があるといえます。
社会的にも医療従事者のメンタルヘルスが問題視される中で、ペイハラの認知は急速に広まり、医療法人やクリニックが組織的に対応を迫られる時代となっています。
定義・類型・他のハラスメントとの違い
ペイハラは、パワハラやモラハラのような「上位者から下位者へ」という構造ではなく、あくまで「サービス受給者による一方的な言動」である点が特徴です。
類型としては、
①言語的暴力(暴言・威圧的発言)
②身体的暴力
③過度な診療要求(不要な投薬、深夜の執拗な電話など)
④人格否定(蔑称、身なりへの侮辱)
などがあります。単発でも重大性があれば該当し得ますし、軽度なものでも繰り返されれば明確にハラスメントとされます。
ペイハラはどこから?判断基準を整理
正当な苦情とペイハラの境界線
患者や家族の不満や意見がすべてペイハラになるわけではありません。
診療内容に関する疑問、待ち時間への指摘、料金への問い合わせといった合理的な苦情は、適切に対応するべき正当な範疇です。
重要なのは、その言動が「医療提供の妨げになるレベルに達しているか」「人格攻撃を含んでいるか」「繰り返されているか」といった点で、これらが具体的な証拠として揃えばペイハラと判断される可能性が高まります。
言葉遣い・態度・繰り返し性などの判断ポイント
ペイハラの典型例として、「バカ」「殺すぞ」などの暴言、机を叩く・大声で威嚇するといった態度が挙げられます。また、一見穏やかでも、「無視する」「あえて怒鳴らないように脅す」といった巧妙な手口も無視できません。
判断材料としては、
①職員が明らかに精神的苦痛を受けている
②院内での秩序が乱れている
③他の患者に影響を及ぼしている
などの観点を設け、主観ではなく客観的な基準に基づく対応が求められます。
職員の主観だけに依存しない判断基準の作り方
院内での対応を属人的なものにしないためには、事前に「ペイハラ行為の具体例」や「対応フロー」をマニュアルとして整備しておくことが重要です。
例えば、暴言を受けた場合は即時記録、上長へ報告、必要なら警察相談といったステップを標準化することが現場の安心感につながります。さらに、複数の職員による評価や、録音・監視カメラ等の証拠も、客観的な判断の材料として機能します。
ペイハラに対して法的装置(訴えること)はできるのか?
民事上の請求(慰謝料・損害賠償)は認められるか
ペイハラが度を越えた場合、民法709条に基づく不法行為として損害賠償を請求することが可能です。
慰謝料の金額は行為の悪質性・継続性・被害の深刻度に応じて変動しますが、録音や記録が十分にあれば裁判でも認定される余地があります。
ただし、単発での軽度な言動に対して裁判を起こすことは難しく、複数回にわたって被害を受けた記録や具体的な損害のわかる資料(従業員が何人退職した等)などを併せて準備するのが望ましいです。
刑事事件(暴行・威力業務妨害など)としての扱い
身体的な接触(叩く・押す等)がある場合は暴行罪、業務妨害や脅迫的な発言が繰り返されれば威力業務妨害罪や脅迫罪が成立する可能性もあります。
刑事事件として取り扱うには、警察に被害届を提出する必要がありますが、職員の心理的負担を考慮し、まずは弁護士に相談した上で対応方針を練るのが現実的です。証拠が明確であれば、相手側に対し警察からの指導が行われることもあります。
訴訟提起のハードルと現実的な対応の選択肢
現実的には、訴訟や刑事告訴に至る前の段階で、警告文の送付や、弁護士による通知書によって相手の行動を牽制・抑止するケースが多く見られます。
これにより、相手が事態の重大性を認識し、以後のトラブルを回避することが可能です。訴訟のハードルは決して低くありませんが、「訴える」姿勢を見せることで抑止力となる場合も多く、適切な助言を受けながら進めるのが望ましい判断です。
病院・クリニックに求められるペイハラ対策とは?
就業規則・院内ルールでの位置づけと予防策
ペイハラ対策の第一歩は、就業規則や院内規程に明確な規定を設けることです。
「患者や家族によるハラスメント行為は、医療提供体制に重大な支障を及ぼす行為である」と位置付け、発生時の対応手順を具体的に明記しておく必要があります。また、院内掲示物やパンフレットなどを通じて、患者にも「適切な言動が求められること」を可視化することが予防的効果を発揮します。職員にとっても、明確なルールがあることで対応の一貫性と安心感が得られます。
職員研修による対応スキル向上と精神的ケア
ペイハラの現場では、職員がその場で対応を求められるケースが多いため、感情的に揺さぶられず適切に対処するスキルが重要になります。
定期的な研修を通じて、「危険信号の早期察知」や「言葉選び」「対応の切り上げ方」など実践的なノウハウを共有することが効果的です。また、ハラスメントを受けた職員の精神的ダメージを軽視せず、相談窓口やメンタルサポート体制を整えることも、長期的な人材定着の観点から欠かせません。
トラブル記録の取り方・初期対応フローの整備
ペイハラにおいて最も重要なのは、「記録」と「初期対応の迅速さ」です。
誰が・いつ・どのような言動を受けたか、簡易な記録様式を用いて全職員が一貫して報告できる体制を構築することで、後の検証や法的対応の根拠となります。さらに、現場でトラブルが発生した際の「一次対応」「報告ルート」「外部連携」の流れを院内でマニュアル化しておくことで、混乱を防ぎ、組織的な対応力を高めることが可能となります。
外部専門家との連携体制(顧問弁護士・警察など)
院内のみでペイハラ問題に対応し続けるのには限界があります。
顧問弁護士と連携することで、記録のリーガルチェックや警告書の発出、場合によっては投稿削除請求や告訴への移行までスムーズに対応できます。また、地域警察との定期的な連絡体制や、行政窓口との連携も、重大トラブル発生時の迅速対応に有効です。あらかじめ外部リソースとの協力体制を築いておくことが、重大なリスクの回避に直結します。
実際によくあるペイハラの事例と対応ポイント
診療方針への過度な口出し・再説明の強要
診療方針について意見を述べる患者は少なくありませんが、「他の医師の指示と違う」「別の治療をしろ」など過度な要求が繰り返される場合、医師の裁量や医療水準に支障を及ぼす恐れがあります。
このような行為が継続するとペイハラに該当する可能性があるため、適切な説明とともに病院側の立場を明示し、繰り返しの場合は対応記録を残しておくことが有効です。
暴言・名指し批判・威圧的態度
「金返せ」「無能だ」などの暴言や、「〇〇先生は失礼だった」といった特定職員に対する執拗な批判もペイハラの典型です。
こうしたケースでは、該当職員が対応を続けることで心身の負担が増し、離職のリスクが高まります。早い段階で上長が介入し、必要ならば担当変更や応対制限などの措置を講じるとともに、証拠記録を取っておくことが望まれます。
診察拒否の可否と法的リスク
繰り返しペイハラ行為を行う患者に対して、「もう診療しない」と伝えたくなる場面もあるでしょう。しかし、診療拒否には一定の要件があり、正当な理由なく拒否した場合は医師法上の責任を問われる可能性があります。
具体的には、他院への引き継ぎ措置を行ったうえで、院内ルールに基づき段階的に対応する必要があります。弁護士の助言を受けつつ、対応履歴の蓄積と慎重な判断が求められます。
ネット上での悪質な書き込み・SNSクレーム対応
GoogleレビューやSNSに「診察が雑だった」「金儲け主義」などといった書き込みが投稿されると、風評被害が拡大しかねません。
特に虚偽の内容や社会的評価を害するおそれのある投稿は、弁護士を通じて削除請求や損害賠償請求が可能です。実名でない場合も発信者情報開示請求が認められるケースがありますので、記録を保持したうえで早めに専門家に相談するのが得策です。
ペイハラから職員と医療現場を守るためにできること
「訴える」前に考える院内対話と線引きの共有
ペイハラに法的対応をとる前に、まず院内で「何がハラスメントか」「どこまでが苦情対応か」を明確にし、全職員で共通認識を持つことが不可欠です。
対応にばらつきが出れば、患者からの反発やクレーム増加にもつながります。実際のケースを共有しながら、線引きの感覚を揃えていくことが現場を守る第一歩になります。
制度と現場感覚のバランスを取った運用の工夫
制度を厳しくし過ぎると、柔軟な患者対応が難しくなることがあります。一方、現場感覚だけで動くとトラブル時の対応に一貫性がなくなります。
そのため、制度面のルールと、現場での裁量的判断の両立が求められます。一定の判断範囲を設けたマニュアルや、都度弁護士に相談できる体制があるとバランスの取れた運用が可能になります。
医療法人やクリニックにとって有利な体制を作るには
「泣き寝入りせずに対応したい」「職員を守りながらも過剰な対決姿勢は取りたくない」といった悩みを抱える医療機関は少なくありません。
当事務所では、あくまでご相談者様にとって有利でありながらも、冷静かつ実務的な対応を重視しています。トラブル発生時の方針決定だけでなく、予防や再発防止体制の構築にも対応しています。
ペイハラ(ペイシェントハラスメント)に対して弁護士ができること
ハラスメント防止規程・マニュアルの整備支援
病院・クリニックごとの規模や実態に合わせて、ペイハラ対策に特化した規程や対応マニュアルを弁護士が作成・助言します。既存の就業規則の見直しも含め、現場と法制度のギャップを埋める形で文書整備を支援します。
研修・職員指導・相談窓口体制の構築支援
定期的な職員研修の実施に加え、ハラスメントの相談窓口体制の設計も支援可能です。第三者性を確保しつつ、相談が寄せられた際の社内対応フローを明確化し、実効性のある体制を構築します。
投稿削除請求・損害賠償請求・告訴対応の代理
悪質な投稿や誹謗中傷、業務妨害に対しては、削除請求・損害賠償請求、警察対応の代理などを行います。証拠の整理、訴訟戦略の構築など、一貫してご相談者様の利益を守るための対応を実施します。
トラブル傾向の分析と定期フィードバック
継続的に顧問契約をいただいている場合、過去のトラブルやペイハラの傾向を分析し、リスク予防のための改善提案やマニュアルの見直しを随時行います。定期フィードバックによる改善サイクルの実装が可能です。
ペイハラに関するご相談は西村綜合法律事務所まで
ペイハラは、職員のメンタルヘルスを損ない、院内秩序を崩す深刻なリスクです。初期対応や証拠の収集、制度整備において不安がある医療法人・クリニックの皆様は、ぜひ当事務所へご相談ください。
地元岡山に密着した法律事務所として、初回相談は無料でご対応しております。また、オンライン面談も可能ですので、遠方の医療機関の方にもご利用いただきやすい体制を整えております。経験豊富な弁護士が在籍し、迅速かつ的確に対応いたします。
ペイハラに強い法的パートナーとして、貴院の安全と職員の安心を守る支援を提供いたします。ご相談をお待ちしております。