病院・クリニック・医療機関の理事の選任・変更について【弁護士監修】

医療法人の理事変更は、単なる形式的な手続ではありません。

理事の構成や理事長の交代は、経営権や意思決定体制に直結し、医療機関のガバナンスを左右する極めて重要な問題です。

このページでは、理事の法的な位置づけ、選任・変更の正しい手続、親族経営のリスク、等について詳しく解説します。医療法や実務を踏まえて、法的な安定性と経営の継続性を両立するためのポイントを整理しました。

医療法人における親族経営の限界

理事の過半数を親族で占める場合のガバナンス問題

医療法人では、理事の過半数を親族で構成すること自体は違法ではありませんが、実務上はガバナンス上のリスクが非常に高くなります。

理事会の意思決定が恣意的になり、外部監督機関からの「同族支配」として行政指導を受ける可能性があります。特に、理事会が実質的に理事長の意向で動いている場合、法人の透明性が損なわれ、金融機関や取引先からの信用低下にもつながります。

厚生局・都道府県による監督と指導の実例

厚生局や都道府県は、医療法第52条に基づき医療法人に対して監督権限を持ちます。

理事構成や決議手続に問題がある場合、「是正指導」や「業務改善命令」が出されることがあります。

「名義貸し理事」「形だけ理事」の法的リスク

理事の名義を借りる、実際には経営に関与していない人物を理事に置く行為は、医療法上重大な違反です。

理事は登記上の責任者であり、業務執行に対して民事・刑事責任を負います。医療事故や不正経理が発覚した際、形式上の理事であっても責任追及を免れることはできません。

法人運営の透明性を確保するための第三者理事・監事の起用

安定した医療法人経営には、外部理事・第三者監事の登用が有効です。

学識経験者や医療経営に精通した外部人材を理事会に加えることで、意思決定の客観性を高め、行政監督や融資審査でもプラスに働きます。法人の永続性を考えるうえで、「血縁中心の運営」から「機関としての運営」へ移行する意識が必要です。

医療法人における「理事」とは

理事の法的な位置づけ(医療法46条の2などの概要)

医療法第46条の2により、理事は医療法人の業務執行機関として位置づけられています。

理事は法人を代表し、業務の遂行に責任を負う存在であり、取締役に相当するポジションです。法人の経営判断や契約締結など、医療機関の運営全体を統括する役割を担います。

理事会の役割と権限 ~理事長・理事・監事の関係~

理事会は法人の最終的な意思決定機関であり、理事長単独の判断ではなく、理事全員の合議によって業務方針が決定されます。

理事長は業務を総理し、法人を代表しますが、理事会の決議を無視して独断専行することは認められません。監事は理事会の業務執行を監査し、不正・不当な行為を発見した場合には報告義務を負います。

理事会と社員総会とは

社員総会(社団医療法人の場合)は、法人の最高意思決定機関であり、理事の選任・解任、定款変更など重要事項を決議します。

理事会は社員総会の決議を執行する立場です。両者の権限関係を混同すると、決議の無効や手続違反につながるため、定款上の権限分配を常に確認しておくことが重要です。

理事長の責任と権限の範囲(法的地位について)

理事長は医療法人を代表する唯一の代表権者として、法人の行為について民事・刑事の両面で責任を負います。

税務・労務・医療事故など、理事長の署名捺印がある行為はすべて法人責任の対象となります。理事長が交代した際には、登記・行政届出を怠ると、旧理事長の名前で契約が行われるなど、重大なリスクを招くため注意が必要です。

医療法人の理事の種類と選任要件

常勤理事・非常勤理事の違い

常勤理事は日常的に業務執行を行う理事であり、病院やクリニックの経営判断に関与します。

非常勤理事は週数回の理事会参加や監督的役割を担うことが一般的です。常勤理事が少なすぎる場合、理事会決議の実効性が疑われ、行政からの指導対象となることもあります。

外部理事・親族理事の構成バランス(同族経営の制限)

医療法人の理事構成において、親族が多数を占める場合、外部理事を加えることでガバナンスを補完できます。

行政上は明確な制限がないものの、第三者理事を置くことで運営の透明性が高まり、承継・M&A時の信頼性も向上します。

理事の資格制限(医師資格・禁錮刑・暴力団関係者等)

医療法第46条の5では、拘禁刑を受けた者等は理事になれません。

特に理事長候補者にこれらの経歴がある場合、所轄庁への届出が認められないことがあります。

社員総会による選任手続と議事録の整備

理事の選任は社員総会の決議によって行われます。

議事録には選任理由、任期、出席者を明確に記載し、登記申請時に添付します。

形式的な決議や署名漏れは、後に理事地位確認訴訟の火種となるため注意が必要です。

医療法人の定款に基づく選任ルールの確認

各医療法人の定款(寄附行為)は理事の人数、任期、選任方法を具体的に定めています。特に「理事長は理事会の互選によって選任する」といった条項を無視して任命した場合、手続無効を主張されるおそれがあります。

病院・クリニック・医療機関における理事の変更の手続と注意点

理事の変更は、書類の差し替えや名義の更新といった単純な作業ではありません。

医療法人において理事は、診療報酬請求、雇用契約、金融取引などあらゆる対外的な行為に関与する「法人の意思決定権者」です。したがって、変更を誤ると契約の効力や行政手続にまで影響が及ぶことがあります。
とくに理事長交代時には、理事会決議・社員総会・登記・届出といった複数の段階が存在し、いずれも順序と内容を正確に押さえる必要があります。

理事の変更手続きってどんな時に行われる?

理事の変更が発生する典型的な場面は、理事の「辞任」「死亡」「任期満了」「新任」「理事長交代」などです。

たとえば、長年理事を務めていた院長が引退し、後継の医師に理事長を譲るケースでは、理事会・社員総会での決議を経て、登記と行政届出を行う必要があります。一方で、勤務医から経営参画を求められ理事に加える場合は、外部理事の選任要件(親族構成・資格制限等)にも注意が必要です。

また、理事が健康上の理由で業務を続けられなくなった場合や、法人内部の意見対立により辞任を申し出るケースもあります。いずれの場合も、「いつ」「どのような理由で」「どの理事が」変更されるのかを明確にしておかないと、後に理事会決議の有効性を争われるおそれがあります。

変更手続の基本的な流れ(理事会決議 → 社員総会 → 登記申請)

理事変更は、「理事会の承認 → 社員総会での正式決議 → 所轄庁への届出 → 法務局での登記」という流れで進めます。

理事会で候補者を決定し、社員総会で選任を確定。その後、都道府県(所轄庁)に変更届を提出し、登記簿上でも新理事を反映させます。

ここで注意すべきは理事会決議の手続きに瑕疵があると決議が無効となるリスクが生じます。招集手続きの瑕疵(例:理事への通知を怠った)等があった場合には、理事会決議が無効となり、その結果、誰が権限を有するのか混乱が生じることもあります。

 

辞任・解任の正当理由とトラブル事例

理事の辞任・解任は、法人内で最も揉めやすい局面です。

「院内の方針を巡る対立」や「経営上の不信感」「不正経理への関与」など、表向きの理由が曖昧なまま解任を進めると、解任された理事から「地位確認請求」や「損害賠償請求」が提起されるケースもあります。

例えば、経営方針をめぐって理事長と他の理事が対立した場合に、理事長が多数派理事とともに「不信任」を理由に少数派を解任することがあります。しかし、解任理由が「単なる意見の不一致」にすぎない場合は、正当理由を欠くとされる可能性が高く、訴訟では法人側が不利になります。

弁護士としては、解任に踏み切る際には「客観的根拠(議事録・報告書・会計資料など)」を整え、感情ではなく法的正当性を明示することを強く推奨します。

再任・任期満了時の手続ミスで無効になるケース

理事には任期が定められており、たとえば「2年」「4年」など、定款により期間が異なります。

任期満了後に再任決議を行わないまま業務を続けていると、形式上は理事資格が失われている状態になります。この状態で行った理事会決議や契約は、後に「無資格理事による無効行為」とされるおそれがあります。

実際、理事長が再任決議を忘れたまま金融機関と融資契約を締結したケースで、「理事長の権限が消滅していた」として契約無効を主張された事例もあります。任期管理は地味ながら極めて重要で、法人内部で「任期管理カレンダー」を作成しておく、または弁護士・司法書士に定期チェックを依頼することが望ましいです。

親族間トラブルを避けるための第三者理事の活用

医療法人の理事変更で最も多いのが、親族間の経営権争いです。

たとえば、理事長である父親が高齢になり、後継者として長男を指名したところ、次男や配偶者側の親族が異議を唱え、理事会が分裂するケース。こうした対立は、感情的な対話では解決が難しく、法的手続を経ずに決議を行うと、解任無効訴訟や登記抹消請求へ発展しかねません。

そのようなときに効果的なのが、第三者理事の起用です。外部の医療経営者や法律専門家を理事に加えることで、意思決定に客観性が生まれ、親族同士の「どちらが正しいか」という対立を防ぐことができます。第三者理事が議長を務め、議事録を適正に作成すれば、行政や金融機関への説明責任も果たしやすくなります。

弁護士としては、理事変更時にあえて**「血縁以外の人材」を理事に入れる**ことで、手続の透明性を担保し、今後の承継リスクを減らすことを強く推奨します。

理事変更に伴う外部ステークホルダーとの調整

理事や理事長の変更は、法人内部の問題にとどまりません。

金融機関、取引先、医師会、保険者など、外部関係者との信頼関係を維持するためにも慎重な対応が求められます。

変更を怠ると、融資契約が一時停止されたり、保険医療機関指定の更新が滞るなど、日常業務に支障が出るおそれがあります。ここでは、理事変更に伴う実務上の調整ポイントを解説します。

理事長変更に伴う銀行・リース・取引先契約の変更手続

理事長交代の際には、金融機関との契約更新が最優先です。

銀行は登記上の代表者変更を確認するまで、融資枠や口座振替を一時凍結することがあります。新理事長名義への印鑑登録、署名権限の再設定、借入契約書の差替えなどが必要です。

リース契約や医療機器のメンテナンス契約でも同様で、契約主体が法人であっても、代表理事の署名が変更されていないと支払い処理が止まるケースもあります。

また、薬品・材料仕入れ業者など主要取引先には、書面による「代表変更通知」を出すことが望ましいです。突然の交代で信頼関係を損ねないためにも、理事長交代の背景や新体制の方針を丁寧に伝えることが、経営上の安定につながります。

行政・医師会・保険者など外部機関との連携・報告義務

理事変更時には、都道府県(所轄庁)や厚生局への「変更届出」が必要です。

届出を怠ると、行政監査時に「運営体制の不備」として指摘を受けることがあります。

また、保険医療機関指定・介護保険事業者指定を受けている場合、理事長変更に関する届出が別途求められます。遅延すると、診療報酬や介護報酬の請求に支障をきたす恐れもあります。

さらに、医師会・地域連携病院・大学附属機関などとの協力関係を維持するためには、理事変更のタイミングで挨拶文や報告書を送付することが望ましいです。単なる形式ではなく、「法人としての継続性」を明確に伝えることが、医療法人の信用維持に直結します。

理事変更に伴う院内体制の再整備(権限委譲・意思決定のパワーバランス)

理事変更は、人の交代だけでなく、院内の意思決定構造を見直す好機でもあります。

新理事長が就任しても、旧体制のまま権限が移行されず、「誰が最終判断を下すのか」が不明確な状態になるケースは少なくありません。これにより、現場の指示系統が混乱し、経営・診療の両面で摩擦が生じます。

このような混乱を防ぐためには、権限委譲書・職務分掌規程・決裁ルールを再整理し、理事会決議で承認しておくことが重要です。とくに、理事長と事務長、理事会と管理職の間で「どこまで判断できるか」を明文化しておくと、後のトラブル防止につながります。

理事の変更を弁護士に相談するメリット

医療法人の理事変更は、単なる登記・届出手続ではなく、経営・法務・人事・行政が複雑に絡み合う問題です。弁護士が関与することで、法的リスクを最小化しつつ、効率的かつ透明な手続を実現できます。

法的要件・登記・届出まで理事会のトラブルを一括サポート

理事会決議・社員総会・議事録作成・登記申請・行政届出など、一連の手続を一括してサポートします。法的な順序を誤らないことで、後の「決議無効」「届出不備」といったトラブルを防止できます。

内部紛争・理事間対立の予防・解決支援が可能です

親族間対立、経営方針の不一致、理事長交代をめぐる争いなど、医療法人特有の紛争にも対応しています。感情的な対立を避けつつ、法的に有効な形での和解や体制再構築を図ることが可能です。

理事変更後の体制設計・承継支援までトータル対応

理事交代に伴う組織図・職務権限・承継契約の整備も、弁護士がサポートします。承継後のトラブル予防を前提にした「事前設計型の理事変更」を行うことで、後の混乱を防ぐことができます。

サポートを受けることで本来の業務に集中できる

理事会手続や登記対応に追われることなく、医療機関としての本来業務――診療・経営・職員管理――に集中できます。弁護士が手続面を包括的に担うことで、経営者の時間と精神的負担を大幅に軽減できます。

医療法人の理事変更・ガバナンス整備のご相談は当事務所へ

医療法人の理事選任・変更は、単なる書類手続ではなく、経営体制そのものの再設計に関わります。

西村綜合法律事務所では、医療法人の理事変更、事業承継、内部統制整備まで幅広く対応しています。初回相談は無料かつオンライン面談にも対応していますので、県外の医療法人や医療法人設立予定の方も安心してご相談ください。経験豊富な弁護士が、法令遵守と経営安定の両立を目指し、迅速かつ戦略的にサポートいたします。

 

「病院・クリニック・医療機関の理事の選任・変更について【弁護士監修】」の関連記事はこちら

弁護士法人 西村綜合法律事務所の特化サイト

お気軽にお電話ください 03-3237-3515  
お問合せ・無料電話相談 9:00~18:00