この記事では、労働審判が会社側にとってどのような手続きなのか、どのように進めるべきか、そして労働審判を未然に防ぐための対策について詳しく解説します。
労働審判は従業員側に都合が良い要素を多く含みますが、適切に対応すれば会社にとって不利なものではありません。適切な準備と戦略をもって臨むことで、スムーズな解決を図ることが可能です。
労働審判は会社側に不利ではありません
労働審判でトラブルを解決するメリット
通常の訴訟より早期解決(3ヶ月程度)が見込める
労働審判は、原則として申し立てから3回の期日で結論が出るため、通常の訴訟と比較して早期に解決することが可能です。
通常の訴訟では1年以上かかるケースもありますが、労働審判は3ヶ月程度で終結することが多く、会社側の負担を軽減できます。
早期解決によりバックペイや付加金を低く抑えやすい
労働審判を迅速に解決することで、未払賃金(バックペイ)や付加金の発生を最小限に抑えることができます。
長引けば長引くほど、会社が負担する金額が増えるリスクがあるため、早期解決のメリットは非常に大きいです。
非公開の手続きであるため、情報が漏れにくい
労働審判は裁判とは異なり、非公開で進行します。
そのため、社内の評判や取引先への影響を最小限に抑えることが可能です。企業のイメージを守りながら問題解決ができる点も大きなメリットといえます。
労働審判を進める際に難しいとされている点
会社側の準備期間が短い
労働審判は迅速な手続きを重視するため、会社側の準備期間が非常に短いのが特徴です。
例えば、従業員から労働審判の申し立てがあった場合、会社側は通常1か月程度で答弁書を提出しなければなりません。そのため、証拠の整理や反論の準備が不十分になりがちです。
そのため、事前に労務管理を徹底し、迅速な対応ができる体制を整えておくことが重要です。
労働法そのものが従業員側に都合が良い
労働審判は、労働者保護の観点から運用されるため、確かに会社側が不利になりやすい側面があります。
例えば、労働基準法では解雇に関して厳しい要件が課されており、正当な理由がない限り無効とされる可能性が高くなります。また、未払賃金が争点になった場合、会社側が支払いを証明できなければ、労働者側の主張がそのまま認められるケースもあります。
そのため、会社側が適切な主張を行わなければ、不利な判断を受ける可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
労働審判が会社に与えるダメージ
金銭的な負担
労働審判では、未払賃金や慰謝料の支払いが命じられるケースが多く見られます。
例えば、従業員が残業代未払いを理由に労働審判を申し立てた場合、会社に労務管理上の落ち度があれば、数百万円単位の支払いが発生することもあります。
これに加えて、審判が長引いた場合には、会社側の対応コストも増加し、経営資源を圧迫する原因となります。
答弁書の作成や審判への出席などのリソース面の負担
労働審判に対応するには、企業側が十分な主張を準備する必要があります。
そのためには、答弁書の作成や証拠の整理といった業務を進める必要があり、これに多くの時間と労力がかかります。例えば、労働時間の管理が不適切であった場合、勤務記録を遡って整理するだけでも相当な手間がかかるでしょう。また、解雇事案の場合には、問題行動の記録等を確認し、裁判所を説得できる型に沿ったストーリを準備する必要があります。
また、審判期日には原則としては会社の担当者が出席する必要があり、本来の業務に支障をきたす可能性があります。特に中小企業では、経営者や管理職が直接対応しなければならないケースも多く、労働審判が決裂して訴訟になるなどして長期化すると、経営戦略や業務運営にも影響を与えることになります。
他の従業員からのマイナスイメージ等の士気の低下
労働審判を申し立てられると、社内の他の従業員にも影響を及ぼす可能性があります。「会社は労働者に対して冷淡である」といった印象が広がると、従業員の士気が低下し、退職者が増えるといったリスクもあります。
会社側から見た労働審判の流れ
(1)従業員が労働審判を申し立てる
労働審判は、従業員が会社に対して未払賃金の請求や不当解雇の撤回などを求める手続きです。申し立てが行われると、会社側は正式に労働審判の対象となり、対応を求められます。従業員側は弁護士に依頼して申し立てを行うことが多いため、会社側も適切な対応を迅速に取る必要があります。
(2)審判の日程(期日)が指定される
労働審判の申し立てが受理されると、裁判所が第1回期日を指定します。この日程は通常、申し立てから40日以内に設定されるため、会社側の準備期間は非常に限られています。この間に、会社は証拠を集め、法的な主張を整理する必要があります。
(3)答弁書を作成・提出する
会社側は、労働審判に対応するために「答弁書」と呼ばれる書類を提出しなければなりません。この答弁書には、従業員の主張に対する会社の反論や、会社側の正当性を示す証拠を記載する必要があります。例えば、「従業員の残業代未払いの主張に対し、実際には適正な賃金が支払われていた」等の主張を具体的な証拠を提示することが求められます。
(4)審判が開かれる
労働審判は、原則として3回以内の期日で解決する仕組みになっています。第1回期日では、労働審判官と2名の労働審判員(使用者側・労働者側の代表)が出席し、双方の主張を確認した上で調停の方向性を探ります。会社側はこの段階で、審判官らの質問に的確に回答し、論理的かつ説得力のある主張を行うことが重要です。
(5)調停成立しない場合は、訴訟へ移行します
労働審判で審判官らは調停(和解)に向けて双方に働きかけます。多くは和解で終わりますが、和解で終わらない場合には、審判という裁判所の判断が出されます。
審判に従業員または会社が納得しない場合、訴訟に移行することになります。訴訟となると、審理が長期化し、金銭的・時間的な負担が増大するため、可能な限り労働審判の段階で解決を図ることが望ましいです。
労働審判を会社側にとって有利に進めるには
合理的な妥協点を見つけ、なるべく早く終わらせるようにする
労働審判は迅速な解決を目的としており、企業側にとっても長期化することでデメリットが増えます。そのため、必要以上に争わず、妥協点を見つけることが得策です。例えば、未払賃金の請求がなされた場合、すべてを争うのではなく、一部を譲歩することで早期解決を図るのも一つの方法です。
第1回期日の段階で丁寧かつ客観的な主張を行う
労働審判は基本的に3回以内で決着するため、第1回期日が非常に重要になります。初回の審判で会社側の主張が弱ければ、以降の交渉が不利になりやすいため、最初から十分な証拠と論理的な主張を準備することが求められます。
審判員が理解できるよう、分かりやすい説明を心がける
労働審判では、裁判官と審判員が公正な判断を下します。そのため、具体的な事例や証拠を示しながら説明を行うことが有効です。例えば、残業代の計算根拠を示す際には、簡潔で視覚的に分かりやすい資料を準備することが望まれます。
企業法務に強い弁護士へ相談する
労働審判は法的な専門知識を要するため、企業法務に精通した弁護士の助言を受けることが重要です。労働法は従業員側に有利な内容となっているため、会社側が適切に対応しなければ、不利な判決を受ける可能性があります。弁護士のアドバイスを活用することで、最適な戦略を立てることができます。
労働審判を弁護士に相談するメリット
判例や経験に基づいた最善策をとることが出来る
労働審判では、過去の判例や事例を基に判断が行われるため、経験豊富な弁護士に相談することで、最善の解決策を見つけることが可能になります。例えば、同様の事例において、どのような主張が有効だったかを把握することで、適切な対応を取ることができます。
答弁書の作成や証拠の整理、審判への出席などを依頼できる
弁護士に依頼することで、答弁書の作成や証拠の整理を任せることができます。これにより、企業は本来の業務に集中しながら、法的な対応を専門家に任せることができます。また、弁護士が代理人として審判に出席することで、企業側の主張を的確に伝えることが可能になります。
※労働審判では会社側のご事情をよく知っている方と決裁権限を持っていらっしゃる方にも必ずご出席いただくことになります。その場合でも弁護士がサポートするため、期日当日に慌てず回答ができます。
重要な第1回期日に万全の体制で臨むことができる
労働審判は第1回期日が特に重要であり、この段階で適切な対応をしなければ、その後の流れが不利になる可能性があります。弁護士が事前に戦略を立て、証拠を整理することで、第1回期日に万全の体制で臨むことができます。
労働審判を未然に防ぐには
労働審判を未然に防ぐためには、日頃から適切な労務管理を行うことが重要です。具体的には、就業規則の整備や適正な労働環境の確保が求められます。また、顧問弁護士を活用し、労務管理の適正化を図ることで、労働審判に発展する前に問題を解決することが可能になります。
例えば、未払い残業代の問題が発生しないよう、労働時間の管理を徹底したり、ハラスメント防止のための社内研修を定期的に実施することも有効です。さらに、就業規則を定期的に見直し、法改正や最新の判例に対応できるようにしておくことも大切です。
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