悪質な口コミ・名誉毀損って訴えることは可能?対処法や開示請求について弁護士が解説

最近、SNSなどの普及により企業に対する様々な口コミが多くの人が書くことができ、見たりすることができるようになるとともに、口コミが企業に大きく影響するようになってきました。そこで、今回は企業経営者が知っておくべき口コミ対応へのポイントをご紹介します。

名誉毀損となる口コミの例や悪影響

まず、口コミによって企業が被る被害として風評被害という言葉がよく出てきます。そこで、風評被害に関する基礎知識についてご説明させて頂きます。

風評被害とは、事実無根の噂やデマによって、企業や個人に対して悪影響を与えることを意味します。悪影響の中には名誉毀損や信用低下を含みますが、企業にとって最終的に重要なのは悪影響によってもたらされる経済的被害となってきます。

例えば、自らレストランの食事の中に異物を混入させてそれを写真で撮影し、「この店の衛生管理はずさんである。」と、事実とは全く異なる事実を、SNSやインターネット上に拡散する口コミは、虚偽の事実に基づいて、レストランの名誉を毀損する悪質な口コミといえます。

悪質な口コミを放置することによる企業のリスク

悪質な口コミによって組織の信用やブランドの価値が低下してくことによって、企業の売上や、組織の活動に損失が発生します。具体的にどのようなリスクがあるのかについてご説明させて頂きます。

リスク①(例:売上への影響)

企業の悪質な口コミが広がることによって消費者から見た企業のイメージが低下することが考えられます。イメージダウンによって消費者はその企業の商品を買うことをためらい、企業の売上が減少していくリスクがあります。

リスク②(例:既存顧客の離脱)

悪質な口コミによって既存顧客が、自分の信じていた企業に裏切られたと感じ、今まで購入してきた企業の商品を買うことをやめるリスクがあります。最悪の事態としては既存顧客が次々と、企業の商品を購入しなくなり、既存顧客が離脱することが想定されます。

リスク③(例:従業員の離職)

悪質な口コミによって企業のイメージが低下すると、イメージが悪い企業で働くことに疑問を感じる従業員が増加し、他企業へ転職していく可能性が生じます。最悪のケースとしては、優秀な人材がライバル社に流出するというケースが想定されます

悪質な口コミがあった際の対処法

前述の通り、悪質な口コミは企業にとって大きな損害をもたらすリスクがあります。そこで、悪質な口コミにどのように対処すべきかについてご説明させて頂きます。

対処法①(例:削除請求)

書き込みが虚偽で、企業の名誉を毀損するものであればサイトの管理者等に対して削除を要求することが可能です。原則として、公然と事実を摘示して、個人や法人の評価を低下させる行為は名誉毀損として違法な表現行為となります。そのため、違法な表現行為については、表現者であるサイトの管理者等に対して削除を求めることができます

削除を請求する方法としては、

(ⅰ)ウェブフォームやメールにより行う方法
(ⅱ)プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインに則した方法
※(通称「テレサ書式」と呼ばれる書式(以下では、「テレサ書式」といいます。)を用いた送信防止措置依頼)
(ⅲ)仮処分の申立て及び本案訴訟の提起をする裁判手続きが挙げられます。

基本的には(ⅰ)または(ⅱ)による方法でサイトの管理者等に削除請求をして任意に応じてくれない場合に(ⅲ)の方法で削除請求をするのが通常です。

対処法②(例:発信者情報開示請求)

悪質な口コミが匿名で書き込まれている場合、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下では、「プロバイダ責任制限法」といいます。)に基づいて悪質な口コミの書込みをした人物を特定する手続きをすることができます。まず、書込みが行われた口コミサイト等の管理事業者に対し、書込みを行った者を特定する情報開示を要求します。これを発信者情報請求といいます。

基本的には、コンテンツプロバイダやホスティングプロバイダに対してテレサ書式による発信者情報開示請求書を送付することによって発信者情報開示請求を行い、IPアドレスや、タイムスタンプ等の開示を受けます。もっとも、プロバイダ責任制限法が開示要求できる要件として「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」などを定めていることから、この要件が明らかでないことを理由に開示を拒む事業者もいるので、裁判上の手続によって開示を求めることになることもあります。裁判上の手続きとしては、発信者情報開示の仮処分の申立てをすることになります。

そして、判明したIPアドレスをもとにインターネットプロバイダを特定し、当該インターネットプロバイダを特定し、当該インターネットプロバイダに対して発信者開示請求を行い、発信者の情報開示を受けます。ただし、この開示請求は本案訴訟で行うことになることが多いです。なぜなら、インターネットプロバイダが安易に開示をしてしまうと、発信者からの損害賠償請求の可能性があるため、テレサ書式による開示請求に応じることが稀であるからです。

このように、2段構えの手続きを踏むことになり、発信者情報が判明するまで半年から9ヶ月ほどかかっていました。しかし、令和3年4月の法令改正により、「発信者情報開示命令」という非訟手続が創設されたので施行される令和3年10月からであれば、この非訟手続が利用し、今までよりも短期間で発信者情報の開示を受けることが期待できます

対処法③(例:訴訟等での対応)

発信者情報開示請求によって、悪質な口コミの書込みを行った者が特定できた場合、書込みを行った者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をし、書込みによって生じた損害を回復する手段をとることが考えられます。ただし、書込みを行った者に十分な財産がなければ訴訟を提起して勝訴したとしても、訴訟費用と時間等がかかるだけで空振りとなる可能性もありますので、相手によっては交渉をし、和解を成立させ、短期間で実現可能な回収方法を模索することも必要な場合もあります。なお、交渉自体は本人でもできますが、交渉の段階から専門家である弁護士を入れることによってスムーズに適切な条件で和解を成立させることもできる場合があります。

開示請求の基礎知識と進め方

発信者情報開示請求に関する基礎知識

発信者情報開示請求を行う権利は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、「プロバイダ責任制限法」といいます。)」の第5条1項に定められています。

まずは、プロバイダ責任制限法の目的や、発信者情報開示請求の制度目的を確認しましょう。

悪質な口コミの増加

冒頭にも触れましたが、インターネット上での誹謗中傷や悪質な口コミが増加し、大きな社会問題となりました。もっとも、匿名者による表現であることが、被害回復の大きなハードルとなっていました。同時に、表現の場としてのプラットフォームを提供する事業者(「コンテンツプロバイダ」と呼ばれます。)が、そのようなコンテンツを提供し、誹謗中傷に当たりうる表現を放置していることを理由に損害賠償を受けることや、反対にコンテンツプロバイダが自己判断で投稿を削除した場合には投稿者の側から損害賠償を受けてしまうということもあり、事業者が板挟み状態になってしまうことが想定されました。

そこで、被害者の円滑に被害回復ができるような制度を作り、かつ、事業者の責任範囲を制限することで、上記の状態を解消するという目的で、プロバイダ責任制限法が制定されました。

発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法5条1項に規定されている、プロバイダに対して発信者の情報を開示することを求める制度です。

発信者の表現行為に対して損害賠償を求める訴訟をする場合には、発信者の氏名や住所が必須となります。その前提として、発信者情報開示請求は大きな意味があります。

発信者情報開示請求を行うことによるメリット

発信者情報開示請求によって、上述のように裁判を行うことができるようになるというメリットがあります。

また、発信者情報開示請求や民事訴訟は、一つ一つの投稿に対して行うもので、その後に同じような投稿を行うことを完全に抑止することはできません。しかし、裁判によって金銭的請求をすることによって、投稿者に対して強い抑止効果を与えることができるということもメリットといえます。

次に、どのような場合に発信者情報開示請求が可能なのか、プロバイダ責任制限法5条1項の定める要件を説明してまいります。

「発信者情報」への該当性

開示を求めることのできる発信者情報は、プロバイダ責任制限法の発信者情報を定める省令に規定されています。この省令の規定は、限定列挙と解されており、規定されていない情報の開示を求めることはできません。

省令には、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」、「発信者の電話番号」、「発信者の電子メールアドレス」、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス及びポート番号」、「侵害情報に係る携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号」、「侵害情報に係るSIMカード識別番号」、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」が規定されています。

権利侵害の明白性

権利侵害の事実と、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを意味します。

違法性阻却事由とは、例えば、意見を投稿することによる名誉権侵害の場合、①公共の利害に関する事実に係ること、②専ら公益を図る目的に出たこと、③意見の前提事実の重要部分が真実であるという証明があること、または、当該事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があること、④表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見や論評として逸脱したものでないこと、という事実を言います。これらの事実が全て認められる場合には、表現行為は特定人の権利を侵害する場合であっても違法ではないこととなり、名誉権の侵害を理由とする損害賠償責任を負担しないこととなります。

発信者情報開示請求の要件として、これらの事実の存在をうかがわせるような事情が存在しないことが必要となります。

発信者情報開示請求を行う必要性

開示を請求する者が発信情報を取得することの合理的な必要性を有していることを意味します。「合理的な必要性」とは、単なる必要性のみではなく、情報を開示される発信者側の受ける不利益も考慮したうえで、情報を開示することが相当であるという意味も含んでいます。

発信者情報開示請求を行う際の流れ

それでは、実際に発信者情報開示請求を行う際の流れを確認しましょう。

(1)証拠収集

まず、権利を侵害している投稿があることの証拠を集めます。

その後の手続を行っている際中に、投稿者が削除する可能性もあるため、この時点で十分に証拠を保全しておく必要があります。プリントアウトや写真(スクリーンキャプチャも可。)で保存しておくのがいいでしょう。このとき、URL(「http://」で始まる文字列)が鮮明になるように保存しておくことをおすすめします。

(2)サイト運営元にIPアドレスやタイムスタンプの開示請求

次に、サイト運営元(サイト管理者)に対し、情報発信に使用されたIPアドレスや情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)の開示を求めます。

開示を求める方法は、サイト管理者が用意しているウェブフォーム等に対して任意の開示を求める方法、テレコムサービス協会ガイドライン書式によって書面申請をする方法、発信者情報開示請求仮処分を行う方法がありますが、基本的には、発信者情報開示仮処分を選択します。理由は、当該管理者が任意開示に応じるか否かは不明であり、発信者情報の保存期間が短いためです。

(3)IPアドレスから発信者のプロバイダを特定する

情報発信に使用されたIPアドレスから、発信者が当該発信をする際に用いたプロバイダが判明します。ここでいうプロバイダとは、インターネットへの接続サービスを提供している事業者を指します。

(4)プロバイダに情報開示請求とアクセスログの保存を申請する

判明したプロバイダに対して、開示されたIPアドレスを使用していた契約者の住所氏名を開示請求します。この場合は、基本的には、発信者情報開示請求訴訟をします。理由は、プロバイダは契約者情報の開示には、非常に慎重であり、任意の開示請求には応じることは稀であるためです。

同時に、発信者情報開示請求訴訟に先立ち、アクセスログの保存も申請しましょう。プロバイダのIPアドレスの割当記録が、訴訟の準備中に削除されてしまうことを防ぐためです。プロバイダは、ログの保存には協力する場合が多いです。協力を得られない場合には、保存の仮処分を申し立てるしかありません。

(5)プロバイダから発信者の個人情報を開示してもらう

発信者情報開示請求訴訟で認容判決を得て、プロバイダから発信者の個人情報が開示されます。

氏名又は名称、住所、電子メールアドレス、電話番号等が開示されることとなります。

発信情報開示請求を行う際の注意点

最後に、発信者情報開示請求を行う際に注意すべき点を説明してまいります。

権利侵害の主張の証拠が十分か

権利侵害の明白性の要件を充足していることが、十分な証拠をもって説明できることが必要です。

実名や会社名が明らかにされている投稿であれば問題は少ないですが、当該投稿が自身ないし自社のことを指していることが必要となります。ハンドルネームなどが用いられている場合には、自身との結びつきを示す証拠が必要となります。さらに、表現内容が名誉権侵害等の行為に当たりうるかが、証拠上判明するかについても注意が必要です。

裁判での対応策の検討

発信者情報開示請求訴訟において、被告となるプロバイダから名誉権侵害がないという反論が出てくる可能性もあり、対応を検討する必要があります。

具体的には、当該表現の対象となった者と原告(情報開示を求める者)と同定できない、同定可能性がないといった反論や、当該表現によって対象となった人の社会的評価が低下していないといった反論が想定されます。

悪質な口コミでお困りの方は弁護士にご相談ください

インターネット上で、配慮に欠けた発言を行う者は、匿名性を盾にして、その対象の方にバレないと思ってやっているケースがほとんどです。

しかし、現在では、発信者情報開示請求等を行うことで、自らのしたことの責任を追及することが可能となっています。

悪質な口コミを長期間に渡り、放置しておくと企業にとって取り返しのつかないダメージに繋がる場合もあるので、迅速に対応する必要があります。専門家である弁護士に相談することによって適切かつ迅速に対応することができます。

悪質な口コミでお困りの方は、一度弁護士にご相談ください。

¹ 中澤雄一『インターネットにおける誹謗中傷法的マニュアル(第4版)』37頁以下、(㈱中央経済社,2022年)

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