環境基本法って?罰則や事業者の責務について | 産業廃棄物業界に強い弁護士
産業廃棄物業界に関する法令は多数存在し、廃棄物処理法など、事業を営む上で必ず知っておくべき法令もあります。
環境基本法は、環境保全に関する基本的な事項を定めた法律です。環境に関する法律すべての根幹になっているため、環境に関与する産業廃棄物業界とも無縁ではありません。しかし、環境基本法の内容を理解している方は意外と少ないのではないでしょうか?
そこで本記事では、
- 環境基本法の位置づけ・成り立ち
- 環境基本法の目的・理念
- 環境基本法の罰則
などについて解説しています。
最後まで目を通せば、環境基本法に関して産業廃棄物業界の方が知っておくべきポイントがわかります。産業廃棄物業に携わる経営者、従業員の方はぜひお読みください。
環境基本法の基礎知識
環境基本法は、日常業務ではあまり馴染みのない法律かもしれません。
ここでは環境基本法とは何か、目的はどういった点にあるかなど、環境基本法に関する基礎知識を解説します。
環境基本法とは
環境基本法の位置づけ、成り立ちは以下の通りです。
環境に関する基本理念を示した法律
環境基本法は、我が国の環境関連法令の基本となる理念を示した法律です。
一般的に「基本法」は、特定の分野に関する国の基本的な政策の方向性を示します。基本法を受けて、具体的な権利義務を定めた「個別法」が存在しているという関係です。
環境に関する個別法としては、たとえば以下が挙げられます。
- 廃棄物処理法
- 大気汚染防止法
- 水質汚濁防止法
- 土壌汚染対策法
- 省エネ法
- 化管法
上記の例からわかるように、環境基本法は、廃棄物はもちろん、各種公害、化学物質、地球温暖化問題、生物多様性など、環境に関するあらゆる法律の基本となっています。
環境基本法の成り立ち
環境基本法は1993年に制定されました。
環境基本法が制定される以前は、公害対策基本法と自然環境保全法で環境対策が行われてきました。これらの法律が制定された1960年~70年代は、環境問題の中心が公害であった時代といえます。
しかし、時代が進むにつれて、温暖化・オゾン層の消失・熱帯林の破壊といった地球規模の環境問題が取り上げられるようになりました。環境基本法の成立前年にあたる1992年には、ブラジルのリオデジャネイロで「地球サミット」が開催されています。
環境基本法は、公害のみならず、地球規模の環境問題に対応するために制定されました。公害対策基本法は廃止されて内容が環境基本法に引き継がれ、自然環境保護法も環境基本法に沿って改正されています。
環境基本法の目的
環境基本法の目的は1条に定められています。
この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。
条文に記載された目的は以下の点です。
- 環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進する
- 現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する
- 人類の福祉に貢献する
これらの目的を達成するために、
- 基本理念を定める
- 国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明らかにする
- 環境の保全に関する施策の基本となる事項を定める
といったポイントが指摘されています。
ここでは、まずポイントの1番上の基本理念について確認します(他の点は、下記「産業廃棄物業界においておさえておくべき法令のポイント」にて触れます)。
環境基本法の基本理念は以下の通りです。
- 環境の恵沢の享受と継承等(3条)
現在・将来世代の人間が環境の恵みを享受し、人類存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるべきことを定めています。
- 環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等(4条)
社会経済活動による環境への負荷をできる限り減らし、すべての者の公平な役割分担のもとで、環境への負荷が少ない持続的発展が可能な社会を構築すべきことを定めています。近年話題になっている「SDGs」と通ずるものといえるでしょう。
- 国際的協調による地球環境保全の積極的推進(5条)
我が国の能力をいかして、国際的協調のもとで地球環境保全を積極的に推進すべきことが定められています。
環境基本法の罰則や「事業者の責務」って?
環境基本法に関して、産業廃棄物業界の方がおさえておくべきポイントは以下の通りです。
具体的な義務は規定されていない
環境基本法には、具体的な義務は規定されていません。基本的な方向性が書かれた法律であり、「環境基本法違反により罰則が科される」といった性質はないためです。
とはいえ、環境基本法の理念は大切です。環境を破壊するおそれがある産業廃棄物事業者にとっては、環境基本法は頭に入れておくべき法律といえます。
事業者の責務が定められている
環境基本法8条では、環境保全のための事業者の責務が定められています。
内容をまとめると次の通りです。
- 事業活動にともなって生じるばい煙、汚水、廃棄物等の処理など、公害を防止し自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる(1項)
- 物の製造、加工、販売などにあたって製品などが廃棄物となった場合に、適正処理のために必要な措置を講ずる(2項)
- 製品などの使用・廃棄による環境への負荷をおさえるとともに、再生資源など環境負荷の低下に役立つ原材料などを利用するように努める(3項)
- 国・地方公共団体が実施する環境保全施策に協力する(4項)
これらの責務は、産業廃棄物事業者と深く関わります。
すなわち、産業廃棄物事業者においては、
- 公害が発生しないように廃棄物を適切に処理する
- 不法投棄はしない
- 可能な範囲で廃棄物の再利用を進める
- 国・地方公共団体の環境対策に従って行動する
などが求められています。
環境基準とは
環境基本法16条では「政府が大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音の条件について、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定める」とされています。これが「環境基準」です。
環境基準とは「維持されることが望ましい基準」とされており、達成は義務づけられていません。あくまで努力目標になります。
これに対して、「規制基準」は罰則の適用があるなど、強制的な基準です。環境基準よりはハードルが低く設定されており、企業は規制基準を守って事業を営まなければなりません。その上で、最終的には環境基準を達成するのが理想的とされています。
産業廃棄物業界における法的トラブルは弁護士にご相談ください
ここまで、環境基本法について、位置づけ・成り立ち、目的・理念、産業廃棄物事業者が把握しておくべきポイントなどを解説してきました。
たしかに、環境基本法は具体的な義務を定めた法律ではありません。それゆえ、あまり内容を知らないとしても仕方がない側面はあります。しかし、環境基本法の理念は非常に重要であり、とりわけ事業者の責務については産業廃棄物業界の方も心に留めておくべきといえるでしょう。
産業廃棄物業界には、環境基本法の他にも廃棄物処理法をはじめとした法令があり、違反により行政処分を受けてしまうケースもあります。法律に反しないで事業を進めるためには、弁護士への相談が有効な手段です。
当事務所では、これまで産業廃棄物業界の法律問題を数多く取り扱ってきました。業界特有の事情を理解した上で、誠心誠意対応いたします。お困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。