産業廃棄物業界に関連する法令解説④PCB特措法
産業廃棄物業界に関連する法令は数多く存在し、そのひとつがPCB特措法です。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、かつて広く使用されていましたが、人体への有害性が確認され、製造が禁止されました。大量に残されたPCB廃棄物の処理を進めるために制定されたのが、PCB特措法です。廃棄物処理法とも関係する法律ですが、内容を十分に把握できていない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、
- PCB特措法が制定された背景
- PCB特措法の目的
- 産業廃棄物業界においておさえておくべきポイント
などについて解説しています。
最後まで目を通せば、PCB特措法について最低限知っておくべきポイントがわかります。産業廃棄物業界に携わる経営者、従業員の方はぜひお読みください。
PCB特措法の基礎知識
まずは、PCB特措法に関する基礎知識として、制定された背景、法律の目的などを解説します。
PCB特措法とは
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、絶縁性に優れる、燃えにくい、化学的に安定しているといった特徴を有する化合物です。その性質から、1960年代まで変圧器・コンデンサーなどに広く利用されてきました。
しかし、1968年に西日本を中心に「カネミ油症事件」が発生し、PCBは人体や自然環境へ悪影響をもたらすことが判明します。1972年には製造が中止され、出回っていたPCB使用製品の回収が指示されました。
とはいえ、PCBを安全に処理するのは困難です。処理はなかなか進まず、保管が長期化する事態に至ります。
そこで、処理を推進するために2001年にPCB特措法が制定されました。正式名称は「ポリ塩化ビフェニルの適正な処理に関する特別措置法」です。
法律により、PCB廃棄物の処理期限が定められました。期限は一度延長されましたが、高濃度PCB廃棄物の多くが既に期限を迎え、低濃度PCB廃棄物についても処分期間は2027年3月までとされています。
PCB特措法は2016年に改正されており、処分の義務付けなど、期限内に処理するために規制が強化されました。
まとめると以下の通りです。
年 | できごと |
~1960年代 | PCBが広く利用される |
1968年 | カネミ油症事件 |
1972年 | PCBの製造禁止 |
2001年 | PCB特措法制定 |
2016年 | PCB特措法改正 |
~2027年(3月) | PCB廃棄物処分期間 |
PCB特措法の目的
PCB特措法の目的は1条に記載されています。
この法律は、ポリ塩化ビフェニルが難分解性の性状を有し、かつ、人の健康及び生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質であること並びに我が国においてポリ塩化ビフェニル廃棄物が長期にわたり処分されていない状況にあることにかんがみ、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の保管、処分等について必要な規制等を行うとともに、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理のための必要な体制を速やかに整備することにより、その確実かつ適正な処理を推進し、もって国民の健康の保護及び生活環境の保全を図ることを目的とする。
条文を簡単にまとめると、
PCB廃棄物の確実・適正な処理を推進するために、
①保管、処分等について必要な規制を行う
②処理のための体制を整備する
こととされています。
この目的達成のために、PCB特措法には各種規定がおかれています。
産業廃棄物業界においておさえておくべき法令のポイント
PCB特措法の内容のうち、産業廃棄物業界に携わる方が最低限おさえておくべきポイントは以下の通りです。
PCB廃棄物の定義
PCB廃棄物に関する定義は、PCB特措法2条に記載されています。
法律上、PCB廃棄物とは「PCB原液、PCBを含む油またはPCBが塗布され、染み込み、付着し、もしくは封入された物が廃棄物となったもの」です。
ただし、環境に影響を及ぼすおそれが少ない以下のものは該当しません。
- PCBが1kgあたり5mg以下の廃油
- PCBが1ℓあたり03mg以下の廃酸・廃アルカリ
- PCBが付着・封入していない廃プラスチック類・金属くず
- PCBが付着していない陶磁器くず
- 上記以外の廃棄物については、PCBが1ℓあたり003mg以下のもの
PCB廃棄物を保管している事業者は、毎年保管状況を届け出なければなりません。譲渡や譲受けには制限があり、所定の期間内に処分する義務も課されています。
種類ごとの処理方法・処分期間
PCB廃棄物は、PCB濃度に応じて「高濃度PCB廃棄物」と「低濃度PCB廃棄物」に分けられます。PCB原液やPCB濃度が0.5%(1kgあたり5000mg)を超えるものは「高濃度PCB廃棄物」、それ以外は「低濃度PCB廃棄物」です。
いずれに該当するかによって処理方法が異なります。
高濃度PCB廃棄物については、処理が特に難しいです。そこで、全国に5箇所あるJESCO(中間貯蔵・環境安全事業株式会社)の処理施設でのみ処分がなされます。
高濃度PCB廃棄物の処分期間は、廃棄物の種類や地域により異なります。具体的には以下の表の通りです。
エリア | 変圧器・コンデンサー等 | 安定器・汚染物等 |
北海道 | 2022年3月31日まで | 2023年3月31日まで |
東京 | 2022年3月31日まで | |
豊田 | 2022年3月31日まで | 2021年3月31日まで |
大阪 | 2021年3月31日まで | |
北九州 | 2018年3月31日まで |
都道府県ごとにどのエリアに含まれるかが定められており、たとえば、東京都は東京エリア、岡山県は北九州エリアに該当します。
高濃度PCB廃棄物を保管する事業者は、エリアごとに定められた処分期間内に処分を委託しなければなりません。多くの期間が既に過ぎてしまっていますが、処分を委託することが確実であれば、都道府県知事への届け出によって、上記期間を1年延長できる特例が存在します。
処分期間のルールに違反すれば改善命令の対象です。改善命令に従わないと「3年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方」の刑罰が科されます。
低濃度PCB廃棄物については、JESCOの施設で処理する必要はありません。国に認定を受けた無害化処理認定施設や、都道府県が許可をした施設において処理がなされます。施設は各地にあり、岡山県にも所在しています。
低濃度PCB廃棄物の処分期間は、全国一律で2027年3月31日までです。改善命令や罰則については、高濃度PCB廃棄物と同様とする定めがおかれています。
PCB特措法と廃棄物処理法との関係
PCB特措法と廃棄物処理法は深い関係があり、PCB廃棄物の処理について、PCB特措法に定めていない部分は廃棄物処理法の定めるところによるとされています。
PCB廃棄物は、廃棄物処理法上の「特別管理産業廃棄物」に該当します。したがって、保管にあたっては特別管理産業廃棄物の保管基準に従う必要があり、運搬のためには特別管理産業廃棄物の収集運搬業の許可を得なければなりません。
産業廃棄物業界における法的トラブルは弁護士にご相談ください
ここまで、PCB特措法について、制定の背景、目的、産業廃棄物事業者が把握しておくべきポイントなどを解説してきました。
PCB特措法は、産業廃棄物業界に携わる方が把握しておくべき法律のひとつです。自社でPCB廃棄物を扱う場合はもちろん、直接の関係がない会社でも、経緯を含めて最低限の知識は知っておいた方がよいでしょう。
PCB特措法のほかにも産業廃棄物業界に関連する法規制は数多くあり、内容が複雑です。改正も頻繁にあるため、知らぬ間に法令違反になっている可能性も否定できません。
残念ながら、法令違反により、行政処分や罰則を受けてしまう事業者も存在します。PCB特措法はもちろん、各種法的問題にお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。