知っておくべき不動産取引の法律!消費者契約法との関係も弁護士が徹底解説
不動産は、私たちの生活や事業の本拠となり、その財産的価値も高いものです。そのため種々の法律が不動産に関する取引について規制しています。不動産を取り扱う場合には、そのような規制について理解しておく必要があります。
本記事では、不動産取引に関係する法律を概説し、不動産取引に潜むリスクを説明します。
不動産取引に関する法令について
不動産取引に関する法令のうち、代表的なものとして、民法、宅地建物取引業法、借地借家法、消費者契約法があります。
以下、順に解説していきます。
民法
まずは、民法です。
取引という用語を法律用語で捉えなおすと、「契約」となります。この契約に関する法律が民法です。例えば、売買契約、賃貸借契約について原則的な規律をしているのが民法という法律です。
民法で扱う内容について(不動産取引上関与すること)
まず、意思表示に関する規定(民法93~96条)です。
契約は、申し込みと承諾という意思表示によって構成されています。そのような意思表示に瑕疵がある場合に、契約の効力にどのように影響があるかということが規定されています。
外形的に表示された行為に対応する意思が存在しない場合(心理留保 93条)、真意でない意思表示(虚偽表示 94条)、意思表示をした者の認識と事実とが一致しないにされた意思表示(錯誤 95条)、欺罔によって錯誤に陥った状態でされた意思表示(詐欺 96条)、畏怖させられた状態でした意思表示(強迫 96条)について、規定されています。
次に、契約不適合責任に関する規定(民法562条~566条)です。
契約不適合責任とは、目的物の引渡しを受ける者が、契約の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、引渡債務者に対して、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる(562条1項)という権利です。また、引渡しを受ける者は、引渡債務者がこのような履行の追完をしない場合には、代金の減額を請求することができます(563条1項)。契約不適合責任は、目的物の引渡しを受ける者の権利となるため、買主、あるいは賃借人の権利となります。
さらに、契約の解除(545条)や、契約解除、契約の不履行に伴う損害賠償責任(415条)についても規定しています。
宅地建物取引業法
次に、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」とします。)です。
宅建業法は、宅地建物取引業について、免許制を採用し、免許取得者である宅建業者の業務を規制する法律です。この法律は、宅建業の適正な運営によって宅地建物の流通の円滑化を図るとともに、取引相手の利益を保護することを目的としています。
宅地建物取引業法で扱う内容について(不動産取引上関与すること)
不動産業者は、契約締結に先立ち、契約相手方に対し、対象となる物件に関する重要事項を説明する必要があります(35条)。重要事項は、「対象となる物件に関する事項」「取引条件に関する事項」に大別することができ、それぞれの事項に対して説明が義務付けられている項目が細かく定められています。
この重要事項を説明する書面が重要事項説明書であり、実務上、「35条書面」ということがあります。この重要事項説明書に記載不備があれば、宅建業法違反として業務停止や免許停止等の行政責任を課される可能性があり、また、契約相手方との間でも契約解除や損害賠償等の民事責任を追及される可能性があります。
次に、契約成立時に関する重要な規定として、37条があります。
契約の成立時に、同条の規定する諸事項を記載した書面を交付することと定められており、このときに交付する書面を「37条書面」ということがあります。
37条書面に関しては、業者が契約書を作成する際に宅建業法37条所定の事項を記載し、宅地建物取引士が記名押印をすることで、その契約書を37条書面とみなすことが可能となっており、契約書と37条書面とは一通の書面で兼ねられていることが一般的です。
借地借家法
借地借家法は、特に賃貸借契約について機能します。賃貸条件等の面で、賃借人の方が劣位になりやすいため、賃借人を保護し、社会生活の安定を図る法律です。
民法の特別法であり、不動産賃貸借契約においては、民法よりもこの借地借家法が優先的に適用されます。
借地借家法で扱う内容について(不動産取引上関与すること)
前述のとおり、借地借家法は、借主保護のための法律です。そのため、私人間の契約の大原則である契約自由の原則、すなわち、全ての人は契約内容を自由に決めることができる、という建前でさえも借地借家法によって修正されることとなります。
借地借家法においては、法定期間よりも短い期間で賃貸借契約を締結したとしても、その合意は無効となり、法定期間の間、契約は存続します(3条、29条)。また、借地借家法は同法の規定に反し、借主に不利な特約は無効とするという規定を置いています(9条、30条)。
本記事では割愛しますが、契約の終了時においても賃借人を強固に保護する規定があります。
契約時において、借地借家法の規定に反していないかを検討する必要があります。
消費者契約法
消費者契約法は、法人又は個人事業主(事業者)が個人(消費者)との間で不動産取引を行う際に機能する法律です。一般的に、価格相場等の取引条件について事業者側の方が優位な立場にあるため、劣位な立場にある消費者を保護することが法律の目的とされています。
消費者契約法で扱う内容について(不動産取引上関与すること)
一般的には、不動産取引は事業者と消費者との間で行われることが多いと思われます。この場合には、当該契約には消費者契約法が適用されます。
不動産取引において、留意すべき消費者契約法の中心的な規律は、民法よりも広く消費者の取消権が認められていること、消費者の利益を不当に害する条項は無効とされることの2点です。
まず、消費者契約法4条は、事業者側の不当な勧誘行為によって消費者が影響を受けた場合の消費者の取消権を規定しています。
具体的には、事業者側の不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知によって消費者側が誤認した場合には、消費者は当該誤認によって締結した契約を取り消すことができます(4条1項2項、誤認類型)。また、事業者側の不退去、退去妨害、不安をあおる告知、恋愛感情等の不当な利用、判断力低下による不当な利用、霊感等による知見を用いた告知、契約締結前の債務内容実施、契約締結を目指した活動による損失補償の請求によって消費者側が困惑した場合には、消費者側は当該困惑によって締結した契約を取り消すことができます(4条3項 困惑類型)。
次に、消費者契約法により、消費者の利益を不当に害する条項は無効とされます。
この規律によって、民法の原則である契約自由の原則が制限されることとなります。
消費者契約法は、事業者の責任を免責あるいは制限する条項や損害賠償金額を予定する条項は無効としています(それぞれ8条、9条)。不動産取引との関係では、契約不適合責任を免除する条項などが、8条に抵触する可能性があります。
さらに、消費者契約法10条は、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定し、包括的に消費者の権利利益を保護しています。数々の裁判例があり、不動産取引との関係では、敷引特約の有効性や更新料条項の有効性について、消費者契約法10条の適用の有無が争われています。
不動産取引に関連する法令を把握していないことのリスク
以上、不動産取引に主に関連する法令を紹介してまいりました。
最後に、これらの法令を把握していない場合のリスクを説明します。
各種関連法令が複雑に絡む分野
まず、不動産取引の分野は、各種関係法令が複雑に絡み合う分野です。
不動産が衣食住の「住」を担うものであり、事業の本拠地となるものである以上、自然と取引数も多くなり、規制が必要となることから、やむをえないことと言わざるを得ません。
想定外の取引に至ってしまう可能性
次に、想定外の取引に至ってしまう可能性があります。
借地借家法や消費者契約法によって、契約自由の原則は制限されることとなります。そのため、契約締結時の合意内容が後に無効となり、法所定の規律による契約内容になる危険性があります。これにより、合意時に想定していた利益が生まれなかったり、場合によっては不利益を被ったりという事態が起こりえます。
不動産業の経営に大きな影響
最後に、不動産業の経営に大きな影響が生じる可能性があります。
宅建業法違反に対する制裁には、業務停止、免許取消があり、業務そのものを継続できなくなってしまう危険性があります。また、民法や消費者契約法に違反した契約によって利益をあげていた場合、取消権や損害賠償請求権が行使され、利益を返還しなくてはならないおそれもあります。
不動産取引に精通した弁護士にご相談を
本記事では、不動産取引に関係する法令を紹介してまいりました。
不動産取引については、法律のみならず各種ガイドラインも制定されており、取引に当たって確認するべき事項は多岐にわたっています。そのようなあらゆる規制に手当てした形で契約を締結する必要があります。
不動産取引にお悩みの方は、一度当事務所にご相談ください。