教員からの残業代請求ってあり!?学校の残業代について弁護士が解説

教員の残業代については、公立か私立かで異なる扱いになっています。

公立学校では、一律の教職調整額が支払われる代わりに、残業代が発生しません。他方で私立学校では、一般企業の会社員と同様のルールで残業代が発生します。

すなわち「教員には残業代を支払わなくてよい」とは限らないのです。私立学校で教員から残業代請求を受け、支払いが必要になる可能性もあります。

本記事では、

  • 公立学校教員の残業代事情
  • 私立学校教員の残業代事情
  • 教員からの残業代請求への対処法

などについて解説しています。

教員の残業代に関してお悩みの学校関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

公立学校教員の残業代事情

一般の労働者とは異なり、公立学校の教員には残業代は支払われません。代わりに「教職調整額」が支給されています。教職調整額は一律であり、いくら残業しても金額は増えません。

以下で、 公立学校教員に残業代が支払われない理由や、代わりに支払われる教職調整額について詳しく解説します。

公立学校教員に残業代が支払われない理由

公立学校の教員に残業代が支払われないのには、次の理由があります。

法制度による制約

法律上の理由としては「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)の存在が挙げられます。給特法は、公立学校の教育職員の給与に関して、労働基準法とは異なる定めをした法律です。

教育職員は児童・生徒を相手にする職務を担い、自発性・創造性が求められます。したがって、一般の公務員と同様の厳格な時間管理をするのに適しません。

詳しくは後述しますが、給特法では残業代を教育職員に支払わず、代わりに教職調整額を支給するとされています。

給与体系における特異性

一般の公務員には支払われる残業代が、公立学校の教員には支給されません。反面、公立学校の教員の基本給は、一般の公務員と比べて高くなっています。基本給において優遇されている点も、残業代が支払われない要因のひとつといえるでしょう。

公立学校教員の残業代は「給特法」により支払いがない

公立学校教員の残業代は「給特法」の定めにより支給されません。このルールの影響で、教員の残業時間が長くなっている側面があります。

 「給特法」の詳細と適用範囲

給特法では「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」とされています(3条2項)。労働基準法37条が適用されず、時間外労働や休日労働に対する残業代が支払われないということです。

3条2項の「教育職員」に、校長・副校長・教頭は含まれません。その他の教諭、養護教諭などが対象です。

「給特法」による労働環境の影響

給特法6条1項とそれを受けて制定された政令では、教育職員に正規の勤務時間を超えて労働させられるのは、以下の4つの業務に限られています。

  • 校外学習など生徒の実習に関する業務
  • 修学旅行など学校行事に関する業務
  • 職員会議に関する業務
  • 非常災害時などやむを得ない場合に必要な業務

もっとも、上記以外にも長時間の残業が発生しているのが実情です。

教諭の1日あたりの在校等時間の平均は、平日で小学校10時間45分、中学校11時間1分です。土日でも1日あたりの平均で、小学校36分、中学校2時間18分の在校等時間があります(参考:教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】|文部科学省)。

平成28年度に実施された前回調査と比べると時間が減少しているものの、1日8時間、週40時間という労働基準法上の法定労働時間と比べると長いです。

給特法により残業代が支払われない影響で、教員が長時間労働を強いられている側面は否定できません。

公立学校教員には「教職調整額」が支給される

公立学校の教員には残業代が支払われませんが、代わりに「教職調整額」が支給されています。

「教職調整額」の計算方法と機能

教職調整額は、給料月額の4%です。実際に働いた時間に関わらず、一律4%で計算されます。たとえば、月給30万円であれば1万2000円です。

教職調整額は、残業代を支給しない代わりの手当としての意味を有します。4%という数字は、給特法制定前の昭和41年の調査による教員の残業時間をもとに算出されました。

「教職調整額」の利点と欠点

教員に残業代が支払われずに教職調整額で対応されているのは、教員の仕事には自発性・創造性が必要であり、厳格な時間管理になじまないためです。たしかに、教員の仕事を時間の長さだけで評価するのは適切ではないでしょう。

しかし、一律4%の教職調整額のみ支給して、教員に長時間労働を強いている側面は否定できません。給特法制定当時と比べて、教員の残業時間は長くなっています。労働環境の悪化により、教員志望者が減少しているのも現実です。

現在は、処遇改善による教員確保のため、教職調整額の増額をめぐって議論が進んでいます。

私立学校教員の残業代事情

解説した通り、公立学校の教員には給特法により残業代は支払われず、代わりに教職調整額が支給されます。

対して私立学校の教員には、給特法は適用されません。労働基準法が適用されるため、一般企業の会社員と同様に残業代が発生します。

私立学校教員の労働環境と給与体系

私立学校でも、公立学校と同様に、生徒・保護者対応、部活動の顧問など教員が様々な業務を担います。長時間労働が常態化している教員も少なくないでしょう。

私立学校においては、長時間の残業に対して、労働基準法にしたがって残業代を支払う必要があります。もっとも、残業代を時間数に応じて都度支払っている私立学校は多くありません。教職調整額にならって、時間数に関わらず定額で残業代が支払われているケースが多いです。

私立学校での残業代請求の実情と問題点

残業代を定額にすること自体は合法です。

しかし、定額で残業代を支払う場合には、

  • 通常の労働時間分の賃金と残業代とを区別できる
  • 定額残業代を支払った時間分を超える残業をしたら別途残業代を支払う

などの要件を満たさなければなりません。

教員を定額で長時間働かせ、時間数に見合う残業代を支払っていないと、未払い残業代を請求される可能性があります。「定額を支払っていればいい」わけではない点に注意してください。

学校教員が起こした残業代請求訴訟について

学校教員が残業代請求訴訟を提起するケースもあります。

過去の訴訟例とその結果

公立学校の教員が残業代を請求した訴訟においては、請求が認められない判決が続いています(東京高裁令和4年8月25日判決など)。公立学校の残業代に関しては、給特法の持つ意味が大きいといえるでしょう。

もっとも、私立学校には給特法が適用されません。残業代を適切に支払っていないと、教員による請求が認められるリスクがあります。

訴訟を起こされた際の注意点と準備

もし私立学校で教員から残業代請求訴訟を起こされた場合、定額残業代や労働時間該当性が問題になる可能性が考えられます。

前述の通り、定額残業代は、

  • 通常の労働時間分の賃金と残業代とを区別できる
  • 定額残業代を支払った時間分を超える残業をしたら別途残業代を支払う

といった要件を満たさなければなりません。

適法な定め方になっているかを確認し、想定した時間数を超える残業には別途残業代を支払うようにしておく必要があります。

 

もうひとつの労働時間該当性は、どの時間を労働時間とカウントするかの問題です。

たとえば、昼休みの生徒対応や、休日の部活顧問などは、労働時間と判断される可能性があります。「教員が自発的に対応していた」と反論しても、学校側が指示していた、黙認していたと判断されるケースもあるので注意が必要です。普段の労働時間管理も重要になります。

教員の残業代請求対応については西村綜合法律事務所まで

ここまで、教員の残業代について、公立と私立に分けて解説してきました。

公立学校では、給特法により残業代の支払いは必要ありません。しかし、私立学校では残業代の支払い義務があります。教員から請求されたときの対応はもちろん、事前の対策も不可決です。

弁護士による支援とアドバイスの概要

学校法人の就業規則の作成や労務管理などに関してアドバイスをいたします。

中でも定額残業代は特に問題になりやすいため、適法な制度設計が不可欠です。残業許可制を導入する場合でも、適正に運用されるようチェックいたします。

残業代請求を受けないようにするには、まずは制度を整えておくのが重要です。

弁護士と連携して行う残業代請求対応

万が一教員から残業代請求を受けた場合にも、交渉から裁判所を利用した手続きまで徹底的にサポートします。

教員の主張する労働時間は過大ではないか、定額残業代の支払いで足りていないかなど、法的に反論ができないかを検討します。学校に代わって弁護士が対応するため、面倒な手続きも安心してお任せください。

教員の残業代に関してお悩みの学校関係者の方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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