業務委託契約を締結する方法 – 必須級の取り決め事項や記載の注意点を企業側弁護士が解説
会社の業務を外注する場合には、業務委託契約を結びます。業務委託には、専門性のある業務を依頼できる、コストを抑えやすいといったメリットがあります。しかし、外部に委託することにより、「成果物に納得がいかない」「業務が遅延した」などのトラブルが発生する可能性も否定できません。
締結の際には業務委託契約書を作成しますが、注意すべきポイントが多数存在します。後のトラブルを防止するためには、内容をよく確認しておかなければなりません。
本記事では、業務委託契約に関する基礎知識や契約書における注意点を解説しています。業務委託契約を結ぶ予定のある会社の担当者の方が知っておくべき内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
業務委託契約に関する基礎知識
まずは、業務委託契約に関する基礎知識を解説します。
業務委託契約とは
業務委託契約は、企業が自社の業務を別の企業や個人に委託する際に結ぶ契約です。おおまかにいえば「仕事を外部に依頼する代わりに報酬を支払う」のが業務委託契約の内容です。契約を締結する際には、一般的に「業務委託契約書」を作成します。
業務委託契約書が必要になる場面としては、例えば以下が挙げられます。
・清掃の委託
・システム開発・保守
・コールセンター業務の外注
・OEM(受託製造)
・デザイナーへの依頼
この例を見ただけでも、業務委託契約には多様なバリエーションがあることがご理解いただけるでしょう。
業務委託契約を結ぶメリット・デメリット
業務委託契約には、次のメリットがあります。
- 自社では難しい専門性のある業務を依頼できる
- メインの事業に集中できる
- 自社で行うより費用を抑えやすい
他方で、以下のデメリットも指摘できます。
- 社内に技術やノウハウが残らない
- 依頼した相手によって成果に差が出やすい
- かえって費用がかかるケースもある
メリット・デメリットを踏まえ、自社の状況に応じて業務委託契約を利用するか否かを決定してください。
業務委託契約の注意点
なお、個人に委託する場合に注意して欲しいのが、雇用契約との違いです。
雇用契約も「仕事の代わりに報酬を支払う」点では業務委託契約と変わりありません。両者の大きな違いは、使用従属性の有無にあります。
例えば、雇用契約では、働く時間、場所について労働者に対して指示し従わせることが可能です。これに対して業務委託契約の場合には、契約の中心は仕事の内容や成果にあるため、場所・時間を細かく拘束できないのが一般的です。
「業務委託契約書」を結んでいたとしても、実態が雇用契約であれば労働法上の規制が適用される点には注意してください。
業務委託契約書に記載するべきポイント・注意点
業務委託契約契約書の基礎知識
業務委託契約書は、委託した業務に関するトラブルを未然に防止するとともに、トラブルが実際に発生したケースに備えるために作成されます。
法律上、業務委託契約は書面にすることが義務付けられておらず、契約書がなくても締結できます。口約束やメールのやりとりで契約を済ませることも可能です。
しかし、口約束は証明が困難で、業務が適切に実行されないなどの問題が発生しても泣き寝入りを強いられるリスクがあります。
メールは記録に残るものの、トラブルを想定した取り決めがなされていないケースも多いでしょう。
業務委託契約書を作成しておけば、以下のメリットを享受できます。
・委託内容や報酬が双方に明確になる
・解除・損害賠償などトラブルを想定したルールを定められる
・契約内容を簡単に証明できる
トラブルを避けるのはもちろん、万が一トラブルになっても解決しやすくしておくために、外注する際には業務委託契約書を作成しておくべきです。
個人に業務委託をするときに注意して欲しいのが、実態が雇用契約となっていないかです。
雇用契約の場合には、労働基準法や労働契約法の対象となり、労働時間の上限規制や解雇規制などが適用されます。社会保険への加入も必要です。
とはいえ、いずれの契約も仕事の対価として報酬を支払う点に変わりはなく、違いがわかりづらいかもしれません。
業務委託契約と雇用契約の大きな違いは「使用従属性」の有無にあります。
具体的には、業務を依頼された側にとって、
仕事の依頼を拒否できる
業務の進め方の自由度が高い
働く時間や場所を自由に決められる
報酬が成果によって決まる
などの事情があれば、業務委託契約と判断されやすいです。
反対に、
仕事を拒否できない
業務の進め方を細かく指示される
働く時間や場所を指定されている
報酬が労働時間によって決まる
といったケースでは、雇用契約とみなされやすいです。
ただし、様々な観点から総合的に判断されるため、「指示が細かいから雇用」などと簡単には決まりません。
また、いずれの契約にあたるかは、契約書の名称ではなく内実によって決まります。いくらタイトルが「業務委託契約書」となっていても、実態が雇用であれば雇用契約として扱われます。
委託する相手の行動を縛りすぎた結果、雇用契約とみなされることのないように注意してください。
業務委託契約は、おおまかに以下の種類に分けられます。どの種類にあたるかによって契約書で定めるべき事項がやや異なります。
毎月定額報酬型
継続を前提にして、毎月決まった報酬を支払う形の業務委託です。清掃の外部委託や、士業との顧問契約などが該当します。
金額が変動しないため、双方にとって収支の計画を立てやすい形態です。数字に表れるような明確な成果を求めない場合に適しています。
成果報酬型
業務の成果によって報酬が変わる形の業務委託です。営業代行などが該当します。
収支の予測は立てづらいものの、受託者のモチベーション維持につながりやすいです。成果が数字に表れやすい業務に適しています。
単発(スポット)型
継続を前提にせず、1回限りで委託する形態です。企業ロゴデザインの作成や社内研修講師の依頼などが考えられます。
単発型で始めて継続するケースもあるものの、基本的には不定期あるいは頻繁に発生しない業務の委託に適しています。
業務委託契約書に記載すべき事項
業務委託契約書に記載すべき項目としては、以下が挙げられます。
・業務内容
・報酬金額・支払い時期・支払い方法
・契約上の義務
・再委託の有無
・知的財産権の扱い
・秘密保持
・契約期間
・解約条件
・損害賠償
・反社会的勢力の排除
・管轄裁判所
この中でも、とりわけ重要なのが以下の3つの点です。
委託業務の内容は、契約の中心となる事項です。
業務内容を明記しておかないと、仕事が遂行されたか否かについて、委託者と受託者との間で認識にズレが出る可能性があります。
中心的な業務内容を記載するのはもちろんですが、付随する業務についても言及しておくことが考えられます。付随する業務はその範囲が拡大してしまいやすくトラブルになりがちです。
たとえば、デザインを依頼する場合には、
・完成したデザインの修正に応じるか
・修正に追加報酬は発生するか
・修正は何度までできるか
などを定めておけば安心です。
業務内容をめぐってトラブルにならないよう、できる限り明確に定めてください。
業務内容と同様に、報酬も契約の重要な要素です。毎月定額報酬、成果報酬、単発など契約の種類に応じて適切な定めをおく必要があります。
報酬金額は、税別・税込かも含めて必ず明確にしてください。成果報酬など依頼段階で金額が確定しない場合には、報酬の決め方を明記しましょう。金額だけでなく、支払い時期も定める必要があります。締め日や支払い日はもちろん、業務の進行に応じて分割して支払う場合にはその旨を明記してください。
支払い方法としては、一般的には銀行振込が考えられます。振込手数料の負担者も記載しておきましょう。
金銭面でトラブルになるケースは多いため、報酬に関しては必ず明確にしてください。
契約内容が遵守されるとは限りません。依頼内容が遂行できない場合の定めをおいて万が一の事態に備えましょう。一般的には、解除や損害賠償に関して定めます。
解除については、解除ができる条件や手続き(催告が不要である旨など)を記載します。解除にともなって発生する損害賠償責任についても、どちらが負うのか、範囲はどこまでかを明確にしておきましょう。
トラブルが発生した後の処理に関係する定めがあれば、契約の打ち切りや責任追求がしやすくなります。抜け落としがないようにしてください。
業務委託契約書作成時のポイント
業務委託契約書を作成するに際して、一般的に注意すべき事項をまとめました。
内容の明確性
これまでも触れてきましたが、内容の明確性は非常に重要になります。
契約書は、トラブルを防いだり、トラブルに対処したりするために作成する書面です。契約書の内容があいまいであれば、結局解釈をめぐって争いになってしまいます。
たとえば業務内容について「その他○○に関する一切の業務」と記載した場合に、業務範囲について双方で異なる認識を持っている可能性があります。業務に含まれるか否かでトラブルに発展するリスクが否定できません。
決めるべき内容が多く、契約書だけにすべてを記載するのが難しい場合には、別途覚書などの形で合意しても構いません。
いずれにしても、双方が同じ認識を持てる内容になるよう心がけてください。
収入印紙の貼付
契約の内容によっては、契約書に収入印紙の貼付が必要なケースがあります。
業務委託契約が民法上の請負契約に該当する場合には、収入印紙が必要です。請負契約とは、仕事の完成と引き替えに報酬を支払う形態の契約です。たとえば、デザインの委託は請負契約に該当すると考えられます。
請負契約に必要な収入印紙の額は記載された契約金額によって変わります。具体的な金額は国税庁のサイトを参照してください。
請負契約でなくても「継続的取引の基本となる契約書」に該当すれば、収入印紙が必要です。契約期間が3ヶ月を超え、更新の定めがあるものは、契約書に4000円分の印紙を貼付しなければなりません。
収入印紙はつい見落としてしまいがちですが、忘れずに確認してください。
弁護士等によるチェック
必要に応じて、弁護士などの法律の専門家にチェックを依頼してください。
契約書を作成する際には、業務効率化のためにひな形を活用している企業も多いでしょう。しかし、ひな形には一般的な条項しか記載されていません。
「業務委託契約書」とひとくちにいっても、委託内容は様々であり、ひな形が契約の実態にそぐわないケースがあります。必要な条項が入っていないことで、トラブルに適切に対応できないリスクが高まります。
特に初めて結ぶタイプの契約の場合には、弁護士等のチェックを受けるのがおすすめです。
業務委託契約を行う際の注意点
業務委託契約を結ぶ際に特に注意すべきポイントをまとめて解説します。
業務委託契約をめぐって発生しやすい紛争
そもそも、業務委託契約に関連して発生しやすいトラブルとしては主に以下が挙げられます。
- 受託者が仕事を最後までしない
- 成果物に納得できず委託者が報酬を支払えない
- 受託者が勝手に第三者に再委託していた
- 成果物が他人の権利を侵害していた
- 受託者が報酬額に不満を抱く
こうしたトラブルを防止するとともに、トラブルの発生を想定した規定を定めておくのが重要になります。
委託内容の明確化
まず重要なのが、委託する業務の内容を明確にすることです。
業務内容について食い違いがあると、受託者が「仕事が終わった」と考えていても、委託者が「まだだ」と主張するトラブルが発生しやすくなります。
トラブルを防ぐために、中心的な業務内容はもちろん、付随する業務についても、どこまでが範囲なのかを明確にしておくべきです。
例えばデザイナーに依頼する場合に、デザインする対象(会社のロゴなど)だけでなく、
- 完成したデザインに修正を要求できるか
- 追加料金は発生するか
- 修正は何回までか
などを明確にしておくとトラブルを避けやすくなります。
業務内容は、業務委託契約の根幹をなす事項であるため、できる限りはっきりしておくのが望ましいです。
再委託・解約に関する事項を定める
受託者が無断で第三者に任せる事態を防ぐためには、再委託について定めておく必要があります。
再委託をすると仕事のクオリティが低下する危険があるため、禁止するケースもあります。もっとも、再委託により効率的に業務が進むような場合には、条件をつけて容認するのもひとつの方法です。
具体的には、
- 再委託を禁止するか
- 再委託を可能とする場合の条件
- 再委託した場合でも本来の受託者に責任が生じること
などを規定してください。
また、相手の仕事内容に問題があった場合に備えて解約についての定めを用意しておきましょう。
委任契約においては、いつでも契約の解除ができると定められています(民法651条)。しかし委任と請負との区別がつけづらいケースもあり、場合によっては相手に生じた損害を賠償しなければならない可能性もあります。契約書で明確な規定を設けて備えることも検討してください。
解約について定める際には、
- 解約できる条件(例:いつでも解約できる)
- 解約により生じた損害を負担する者(例:解約の原因を作った側が負担する)
などについて定めておく必要があります。
報酬の支払い・損害賠償に関する注意
金銭面は非常に争いになりやすいため、報酬については確実に定めてください。
具体的には、
- 金額(事前に確定しない場合は金額の決定方法)
- 報酬の支払い時期(「月末締め翌月末払い」など)
- 報酬の支払い方法(銀行振込など)
などを明確にしてください。
「単発の業務か定期的な業務か」「決まった報酬か成果報酬なのか」などにより報酬の定め方は様々です。いずれにしてもルールをはっきりさせ、「金額が不足している」「支払いが遅い」といったクレームが相手から生じないようにしましょう。
また、何らかのトラブルが発生した場合の損害賠償についても定めておく必要があります。金額に上限を設けるケースもありますが、その場合には金額が妥当なものかに注意してください。
契約書に関するご相談は弁護士法人西村綜合法律事務所へ
ここまで、業務委託契約書に関して基礎知識や注意点を解説してきました。
業務委託契約は委任契約や請負契約に近い性質を持ちますが、委託する業務内容は多岐にわたるため、契約書の内容はケースバイケースです。効率化のためにひな形を利用するにしても、あらゆる場面で同じものを用いて作成すると、思わぬトラブルが発生してしまいかねません。
弁護士に契約書のチェックを受けることでトラブルを回避でき、トラブルが発生したケースでもスムーズに対応できる可能性が高まります。初めて外注する業務はもちろん、以前から外注してきた業務についても、弁護士の確認を通せば安心して契約できます。
弁護士法人西村綜合法律事務所では、多くの企業と顧問契約を結んでおり、契約書チェックも頻繁に行っています。業務委託契約書の内容に少しでも不安がある方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。