残業代の計算時の”基礎賃金”とは?基本給との違いを含めて弁護士が解説

従業員から残業代を請求されたときにその残業代が本来支払うべき金額か分からなくてお悩みの方がいらっしゃるかと思います。そこで、今回は残業代がどのように決まるかなどについてご説明させて頂きます。

残業代の計算方法について

まず、残業代の計算方法についてご説明させて頂きます。

計算式

残業代は、「時間単価×残業した時間×割増率」になります。そして、1時間あたりの時間単価の算出方法は、「基礎賃金÷1ヵ月の所定労働時間=1時間あたりの単価」となります。

算出をする際の注意点

算出をする際の注意点としては、基礎賃金に何が含まれるかに注意が必要です。残業代を従業員が請求する場合、基礎賃金に含まれない手当などを基礎賃金に含めて請求してくる可能性があります。そのため、企業としては、基礎賃金に何が含まれるかについて把握しておく必要があります。

基礎賃金と基本給の違い

基礎賃金と基本給は、残業代を算定する上では、別の概念です。そのため、以下では基礎賃金と基本給の違いについてご説明させて頂きます。

基本給に関する定義

基本給とは、手当を除いた給与の基本的な額に相当するものになります。基本給は、従業員の職業経験・能力に応じて支給される「職能給」、従業員の業績・成果に応じて決定支給される「業績・成果給」、従業員の勤続年数に応じて支給される「勤続給」などによって構成されることが多いです。基本給の趣旨・目的は、個々の従業員が経験、能力に応じて事業者に対してもたらす利益が違うのでその利益に応じた対価を従業員に支給することにあります。

基礎賃金に関する定義

基礎賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金」と労働基準法37条1項で定義されています。そして、労働基準法37条5項では、基礎賃金に家族手当や通勤手当その他省令で定める賃金を算入しないことを定めています。そして、労働基準法施行規則21条は、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金を基礎賃金に算入しないことを定めています。このように法律で基礎賃金から除外される賃金を除外賃金といいます。除外賃金は、限定列挙なので、上記で挙げた賃金以外を除外賃金とすることはできません。

つまり除外賃金は、

1 家族手当
2 通勤手当
3 別居手当
4 子女教育手当
5 住宅手当
6 臨時に支払われた賃金
7 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

に限られます。

ただし、固定残業代等のように実質的に割増賃金に充当する趣旨の手当については、基礎賃金に含めると、時間外労働に対して重複した手当が支給されることになるので、基礎賃金には含まれないと考えられています。

残業代の算出に向けたポイント

残業代の算出に向けたポイントについてご説明させて頂きます。

計算式のみではなく法令を理解した専門家への相談

計算式は上記の通りです。しかし、計算式の項目については法的解釈が必要となります。例えば、基礎賃金に算入されない除外賃金について名称が「家族手当」とされていない手当であっても扶養家族の有無や数に従って支給される手当であれば除外賃金となるケースがあります。他方で、「家族手当」という名称であっても扶養家族の有無・数と関係なく一律に支払われる場合は除外賃金とならないこともあります。他の除外賃金についても同様のことがいえます。「通勤手当」も通勤の距離・実費と関係なく一律に支払われるものは除外賃金に当たらないことがあります。「住宅手当」も賃貸住宅の家賃、持ち家のローン月額、管理費用等の住居に要する費用に応じたものではなく、賃貸住宅、持ち家等の住宅形態ごとに支払う場合は除外賃金に当たらないことがあります。

さらに、「残業した時間」というのは、機械的形式的に決まるものではなく、実質的な労働環境から判断されるものです。その上で、企業の指揮命令下で労働力を提供した時間と評価される時間が残業した時間といえるのです。そのため、計算式の項目にあてはまるかどうかについては慎重に判断しなければなりません。例えば、ビルの警備員が2交代制でビル内の仮眠室で休憩や仮眠をすることを認めていた事案において、休憩時間や仮眠時間も労働時間として認められることもあります。類似の事案において、最高裁判所は、休憩時間や仮眠時間について、労働からの解放が保障されていないことを理由に、労働時間にあたるとしています。そして、「割増率」も労働した時間帯、日数によって変動するので一律に算出できるものではありません。

また、従業員から残業代を請求されるケースで、計算式のみに従って残業代を算出することは危険です。例えば、従業員からいつまでに回答するよう要求されている場合、回答期限に間に合うように焦って計算式に沿った金額を提示してはいけません。そもそも、回答期限に法的拘束力はありません。そのため、回答期限までに回答することよりじっくり検討することが必要です。退職した従業員から入社から退社までの全期間分の残業代を請求してきた場合も、計算式に沿って残業代を支払ってはいけません。なぜなら、残業代については時効期間が定められているからです。つまり、時効期間が経過した残業代について時効を主張(援用)すれば残業代を支払う義務はないのです。逆に、時効期間を超えた部分に支払ってしまうと、時効期間を経過した残業代についても「債務の承認」をしたことになり、後から時効によって支払い義務が消滅したことを主張(援用)できなくなる可能性があります。

また、安易に残業代請求に応じることによって、他の従業員も簡単に支払いに応じてもらうことができるのではないかと追随し、個別の労働問題が他の従業員に拡大し、会社経営全体を揺るがす問題となることもあります。そのため、安易に残業代請求に応じることは控えなければなりません。

上記のように、計算式のみによって残業代を支払うことは非常にリスクがあるため、残業代について検討する際には、法的知識が豊富な専門家に相談することが重要となります。

各種残業代計算ツールの活用

インターネットのサイトで残業代を計算することができるものが多く存在しています。このような、残業代計算ツールを活用することで、残業代の目処を一定程度つけることができます。しかし、先ほど述べた通り、ツールに入力すべき金額や時間については法的解釈や事実の評価が必要となることがあります。そのため、これらのツールによって算出された金額を鵜呑みにすることは避けたほうがいいでしょう。

請求金額を算出することで請求を未然に予防する対策を検討

残業代の請求金額を算出することは、請求されることを未然に予防することに繋がります。残業代請求が高額になる従業員については、別れ方が重要です。退職時に高額な残業代を請求したケースとして残業代請求のきっかけが、従業員が退職を申し出たときに社長から「恩知らず」などという言葉を浴びせられたことだったケースがあります。逆に、退職前に残業代請求を計画していた従業員が送別会やサプライズのプレゼントを用意されていたことにより、残業代請求をやめたケースもあります。

残業代がどれだけ発生するのか事前に検討しておけばその従業員に対してどれくらいの費用をかけて残業代請求をしようと思わせなくて済むほどの満足度をもった形で企業から退職してもらえるかを検討することができます。

また、全従業員についての残業代の請求金額を算出して今までの残業代が高額になる場合は、今後の残業代について発生しないように対策することも必要です。ノー残業デーを作ったり、所定労働時間になったら帰宅を促すアナウンスや音楽を流したり、一斉消灯やオフィスの施錠をしたりするといった対策を検討することが必要です。また、残業代を算出した結果、人員を新規に採用することが支払う賃金をかえって抑えることができることもあります。さらに、無許可残業が行われている場合は、調査が必要です。管理者による監視、監視カメラの設置、業務日報の作成義務化、サーバー等によるパソコンの使用状況の確認、他の従業員からのヒアリングによって把握することを検討すべきです。

職場に残って業務と無関係の私的なことを行っている従業員に対しては、帰宅を促すことを徹底するように指導することも重要です。

未払い残業代に関する対応は弁護士にご相談ください

未払い残業代に関する対応については、法的知識や法的解釈が必要となってきます。そのため、未払い残業代に関する対応については、是非一度法律家の専門家である弁護士にご相談ください。

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