残業代請求された際の3つのリスク!時効延長や対処法についても弁護士が解説

皆様の会社では、時間外労働やそれに対する対価である、いわゆる残業代の管理・支払は問題なく行われているでしょうか。

残業代に関するトラブルによって、対応のために多くの時間を割かなければならなくなる可能性や金銭を支払う必要が出てくる可能性もあり、会社経営者の方々にとって経営上大きな負担となります。他の紛争と同様に、初動対応が最も重要であることは、労働者から残業代を請求された場合にも変わりはありません。

本記事では、残業代請求に関する最近の動向や残業代請求によって生じうるリスクを踏まえ、経営者の方々がとるべき残業代請求に対する最初の方法を紹介していきます。

残業代請求に関する最近の動向

まずは、残業代請求に関する最近の動向を紹介していきます。

残業代請求案件の増加

厚労省の報告¹を見ると、令和2年度の不払割増賃金が是正された件数は減少しているようにも思えます。しかし、同報告は、あくまで労基署の監督指導によって不払割増賃金が是正された事件のみを集計しているにすぎません。実際に、経営者の方々からの相談をお受けしている弁護士の体感からしますと、残業代請求案件が同報告の結果のように減少しているとは思えず、むしろ増加しているように感じられます。

労働者側弁護士の増加

実際に、様々な法律事務所が労働者の残業代請求を一つの業務分野としている傾向を感じられます。従前との違いは、労働者の残業代請求に注力して取り扱う事務所が目立つ点です。これらの事務所は、労働問題を集客や売上の一つの柱としているため、必然的に取扱件数が多くなり、専門性を身につけているという評価をすることができます。

経営者の方々としては、こうした弁護士を相手に、労働問題に取り組むこととなり、非常に大きな負担となります。

残業代請求権の時効延長

さらに、令和2年民法改正に伴い、労基法の時効期間も改正されました(労基法115条、115条の2参照)。これにより、従前「2年」だった時効期間が、「3年」に延長されることとなりました。あくまで3年とするのは経過措置であり、ゆくゆくは民法にあわせて「5年」となることが想定されます。

残業代請求をされたことで起きる企業のリスク

以上のような状況下では、今後も残業代請求案件は増加することが見込まれます。

次に、残業代請求をされたことで起きうる企業のリスクを紹介していきます。

リスク①-刑罰の可能性

残業代とは、時間外労働に対する割増賃金のことをいいますが、使用者には労働者に対し、時間外労働に対する割増賃金を支払う義務があります(労基法37条1項)。同項所定の金額の残業代を支払わない場合、「六箇月以下の懲役または三十万円以下の罰金」(労基法119条柱書、同条1号)という刑事責任を負う可能性があります。この責任は、代表者や取締役等の役員のみならず、現実に従業員に指揮命令をした管理職も負う可能性があるうえ、企業たる法人が責任を負う可能性もあります(労基法121条)。

リスク②-他従業員からの度重なる請求

2つ目に、企業には、請求者と同様の勤務形態で働いている従業員がいることと思われますが、一人の従業員の残業代請求が認められたとすると、他の従業員が便乗して請求してくることが考えられます。そして、勤務形態が同様であったことからすると、他の従業員についても残業代を支払う必要があることとなるでしょう。

そうすると、支払う残業代総額が非常に多額になる可能性もあります。

リスク③-社会的責任

最後に、残業代請求が頻繁に事件化されたという類のネガティブな情報は、当事者となった従業員や、周囲の従業員によって瞬く間に広まってしまうことが考えられます。こうした情報が出回ることにより、残業代が適正に支払われない、いわゆるブラック企業の一つとして考えられてしまい、企業のイメージは大きく損なわれることとなります。

また、昨今の就活生は、待遇面の一つとして、残業代がきちんと支払われるかという点にも関心を向けており、そうした情報は集めることにも注力しています。就活生が、志望を予定している企業において残業代の未払が頻繁に起こっていることを知ってしまった場合、おそらくその就活生は応募あるいは入社を控えることとなるでしょう。人材の安定的な確保が損なわれるということは、企業の継続的な発展の点から、大きなリスクと評価せざるをえません。

さらに、こうした情報は匿名でなされることが多く、企業側が是正するにも時間と手間がかかってしまいます。

従業員から残業代請求されたら?最初にとるべき対処法

それでは、以上のようなリスクをふまえ、従業員から残業代請求をされた場合に最初にとるべき対処法を説明していきます。

①残業代請求の反論の余地の有無の確認

まずは、残業代請求に対して反論できないかを検討します。

(1)「管理監督者」

従業員が、「管理監督者」(労基法41条2号)に当たる場合、時間外労働規制の適用が除外される(同条柱書)ため、残業代を支払う必要はありません。もっとも、労基法上の「管理監督者」と、いわゆる管理職とは別の概念であることには注意が必要です。

行政通達では、「第41条第2号に定める『監督若しくは管理の地位にある者』とは,一般的には,…,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきもの」²とされています。

裁判例もこの通達と概ね同様の基準を用いており、「管理監督者」に該当するための要件は、

  1. 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
  2. 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
  3. 一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること

とされている³。

管理職とされている労働者がこうした要件を全て充足し、「管理監督者」に該当することは多くはないと思われますが、一度検討する必要はあるでしょう。

(2)時効期間

次に、労働者が請求している残業代が、いつ、発生したものなのかを確認しましょう。先述したように、残業代請求権は、発生してから3年で時効によって消滅します。既に消滅した部分が含まれていないかを検討しましょう。例えば、労働者が入社から退職までの全期間の残業代を請求している場合には、既に時効が成立している部分も含まれていると考えられます。

なお、2020年4月1日以前に発生した残業代請求権については、既に時効が成立しています。

②支払う必要のある残業代の計算

次に、従業員が請求している残業代の金額について、割増の基礎となっている基礎賃金額や実労働時間が適切に算出されたものであるかを確認しましょう。

(1)基礎賃金の計算

基礎賃金は主に基本給によって構成されていますが、家族手当や通勤手当等(労基法37条5項、労基規則21条1号ないし3号)、「臨時に支払われた賃金」(労基規則21条4号)、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」(同5号)は、その算定基礎とはなりません。なお、家族手当や通勤手当という名目が付されていても、扶養家族の有無や通勤費用額などの個人的事情を度外視して一律の額で支給される手当(またはその部分)は、除外賃金には含まれない⁴、とされています。

(2)実労働時間の計算

次に、残業代は、法定労働時間を超過した場合に、超過した部分について、割増賃金が支払われるとするものです。労働時間について、双方が持っている資料を照らし合わせて、法定労働時間を超過した労働時間を1日ごとに的確に把握し、適正な残業代を算出しましょう。

③従業員への対処方法について検討

最後に、請求者や他の従業員に対してどのように対応をするべきかを説明します。

請求者からの残業代請求に不誠実に対応してしまうと、その後の処理も難航してしまうこととなりますので、まずは、一切支払わないという態度ではなく、相手方の言い分をきちんと聞き、精査の上で支払うなどと説明するなど、真摯な態度で臨むようにしましょう。このとき、残業代請求をされたことが第三者に漏れることを防ぐため、話し合いによる穏便な解決を図るために無暗に第三者に口外しないように伝えることが望ましいでしょう。

同時に、他の従業員に対しても未払残業代が発生している可能性が高いため、社内規程や給与の支払実態を再確認することも必要となります。

残業代請求に関する会社側での対応について相談対応しております

以上のように、従業員から残業代請求を受けた場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。この際には、「管理監督者」該当性等、法的に複雑な判断が必要となる場合もあります。そもそも、潜在的に存在している問題点を事前に洗い出すことで、未払残業代の問題を防ぐことも可能となります。

当事務所では、人事労務に関する豊富な知識と経験をもとに、経営者の皆様の悩みに迅速に対応いたします。残業代に関してお悩みをお持ちの場合、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。

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