発信者情報開示請求とは?具体的な手続きと実施をする際の注意点

インターネットの普及により、誰でも、不特定多数の人に向けて、自分の意見を発信することができるようになりました。このような技術の進歩により、情報流通が広く速くなった一方で、特定人の権利を容易く侵害することもできるようになってしまいました。個人の方にとってみれば、誹謗中傷や虚偽事実の流布、また、法人にとってみれば悪質な口コミなどが想定されます。そのような表現行為をされた方は、発信者に対して法的責任をとってほしいと感じるのが通常かと思われますが、現在の裁判手続上、匿名者を匿名のまま法的責任を負わせることはできません。

そこで、匿名の発信者の情報を開示させることができる手続が、発信者情報開示請求手続です。本記事では、発信者情報開示請求手続の概要や実施時の注意点を紹介してまいります。

なお、本記事では、典型的な類型である、電子掲示板管理者に対する投稿IPアドレスの開示請求と投稿IPアドレスからのアクセスプロバイダに対する住所氏名開示請求についてのみ紹介します。

発信者情報開示請求に関する基礎知識

発信者情報開示請求を行う権利は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、「プロバイダ責任制限法」といいます。)」の第5条1項に定められています。

まずは、プロバイダ責任制限法の目的や、発信者情報開示請求の制度目的を確認しましょう。

悪質な口コミの増加

冒頭にも触れましたが、インターネット上での誹謗中傷や悪質な口コミが増加し、大きな社会問題となりました。もっとも、匿名者による表現であることが、被害回復の大きなハードルとなっていました。同時に、表現の場としてのプラットフォームを提供する事業者(「コンテンツプロバイダ」と呼ばれます。)が、そのようなコンテンツを提供し、誹謗中傷に当たりうる表現を放置していることを理由に損害賠償を受けることや、反対にコンテンツプロバイダが自己判断で投稿を削除した場合には投稿者の側から損害賠償を受けてしまうということもあり、事業者が板挟み状態になってしまうことが想定されました。

そこで、被害者の円滑に被害回復ができるような制度を作り、かつ、事業者の責任範囲を制限することで、上記の状態を解消するという目的で、プロバイダ責任制限法が制定されました。

発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法5条1項に規定されている、プロバイダに対して発信者の情報を開示することを求める制度です。

発信者の表現行為に対して損害賠償を求める訴訟をする場合には、発信者の氏名や住所が必須となります。その前提として、発信者情報開示請求は大きな意味があります。

発信者情報開示請求を行うことによるメリット

発信者情報開示請求によって、上述のように裁判を行うことができるようになるというメリットがあります。

また、発信者情報開示請求や民事訴訟は、一つ一つの投稿に対して行うもので、その後に同じような投稿を行うことを完全に抑止することはできません。しかし、裁判によって金銭的請求をすることによって、投稿者に対して強い抑止効果を与えることができるということもメリットといえます。

発信者情報開示請求を行う際の要件¹

次に、どのような場合に発信者情報開示請求が可能なのか、プロバイダ責任制限法5条1項の定める要件を説明してまいります。

「発信者情報」への該当性

開示を求めることのできる発信者情報は、プロバイダ責任制限法の発信者情報を定める省令に規定されています。この省令の規定は、限定列挙と解されており、規定されていない情報の開示を求めることはできません。

省令には、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」、「発信者の電話番号」、「発信者の電子メールアドレス」、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス及びポート番号」、「侵害情報に係る携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号」、「侵害情報に係るSIMカード識別番号」、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」が規定されています。

権利侵害の明白性

権利侵害の事実と、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを意味します。

違法性阻却事由とは、例えば、意見を投稿することによる名誉権侵害の場合、①公共の利害に関する事実に係ること、②専ら公益を図る目的に出たこと、③意見の前提事実の重要部分が真実であるという証明があること、または、当該事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があること、④表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見や論評として逸脱したものでないこと、という事実を言います。これらの事実が全て認められる場合には、表現行為は特定人の権利を侵害する場合であっても違法ではないこととなり、名誉権の侵害を理由とする損害賠償責任を負担しないこととなります。

発信者情報開示請求の要件として、これらの事実の存在をうかがわせるような事情が存在しないことが必要となります。

発信者情報開示請求を行う必要性

開示を請求する者が発信情報を取得することの合理的な必要性を有していることを意味します。「合理的な必要性」とは、単なる必要性のみではなく、情報を開示される発信者側の受ける不利益も考慮したうえで、情報を開示することが相当であるという意味も含んでいます。

発信者情報開示請求を行う際の流れ

それでは、実際に発信者情報開示請求を行う際の流れを確認しましょう。

証拠収集

まず、権利を侵害している投稿があることの証拠を集めます。

その後の手続を行っている際中に、投稿者が削除する可能性もあるため、この時点で十分に証拠を保全しておく必要があります。プリントアウトや写真(スクリーンキャプチャも可。)で保存しておくのがいいでしょう。このとき、URL(「http://」で始まる文字列)が鮮明になるように保存しておくことをおすすめします。

サイト運営元にIPアドレスやタイムスタンプの開示請求

次に、サイト運営元(サイト管理者)に対し、情報発信に使用されたIPアドレスや情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)の開示を求めます。

開示を求める方法は、サイト管理者が用意しているウェブフォーム等に対して任意の開示を求める方法、テレコムサービス協会ガイドライン書式によって書面申請をする方法、発信者情報開示請求仮処分を行う方法がありますが、基本的には、発信者情報開示仮処分を選択します。理由は、当該管理者が任意開示に応じるか否かは不明であり、発信者情報の保存期間が短いためです。

IPアドレスから発信者のプロバイダを特定する

情報発信に使用されたIPアドレスから、発信者が当該発信をする際に用いたプロバイダが判明します。ここでいうプロバイダとは、インターネットへの接続サービスを提供している事業者を指します。

プロバイダに情報開示請求とアクセスログの保存を申請する

判明したプロバイダに対して、開示されたIPアドレスを使用していた契約者の住所氏名を開示請求します。この場合は、基本的には、発信者情報開示請求訴訟をします。理由は、プロバイダは契約者情報の開示には、非常に慎重であり、任意の開示請求には応じることは稀であるためです。

同時に、発信者情報開示請求訴訟に先立ち、アクセスログの保存も申請しましょう。プロバイダのIPアドレスの割当記録が、訴訟の準備中に削除されてしまうことを防ぐためです。プロバイダは、ログの保存には協力する場合が多いです。協力を得られない場合には、保存の仮処分を申し立てるしかありません。

プロバイダから発信者の個人情報を開示してもらう

発信者情報開示請求訴訟で認容判決を得て、プロバイダから発信者の個人情報が開示されます。

氏名又は名称、住所、電子メールアドレス、電話番号等が開示されることとなります。

発信情報開示請求を行う際の注意点

最後に、発信者情報開示請求を行う際に注意すべき点を説明してまいります。

権利侵害の主張の証拠が十分か

権利侵害の明白性の要件を充足していることが、十分な証拠をもって説明できることが必要です。

実名や会社名が明らかにされている投稿であれば問題は少ないですが、当該投稿が自身ないし自社のことを指していることが必要となります。ハンドルネームなどが用いられている場合には、自身との結びつきを示す証拠が必要となります。さらに、表現内容が名誉権侵害等の行為に当たりうるかが、証拠上判明するかについても注意が必要です。

裁判での対応策の検討

発信者情報開示請求訴訟において、被告となるプロバイダから名誉権侵害がないという反論が出てくる可能性もあり、対応を検討する必要があります。

具体的には、当該表現の対象となった者と原告(情報開示を求める者)と同定できない、同定可能性がないといった反論や、当該表現によって対象となった人の社会的評価が低下していないといった反論が想定されます。

悪質な口コミでお困りの方は弁護士にご相談ください

インターネット上で、配慮に欠けた発言を行う者は、匿名性を盾にして、その対象の方にバレないと思ってやっているケースがほとんどです。しかし、現在では、発信者情報開示請求等を行うことで、自らのしたことの責任を追及することが可能となっています。

悪質な口コミ等でお困りの方は、当事務所に一度ご相談ください。

 

 

 

¹ 中澤雄一『インターネットにおける誹謗中傷法的マニュアル(第4版)』37頁以下、(㈱中央経済社,2022年)

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