異動や配置転換を拒否する社員への会社としての対応を解説

この記事では、人事異動や配置転換を拒否する問題社員に対する対応について、解雇が可能となる条件や、企業側が取るべき具体的な手順を解説します。

さらに、企業の人事権や従業員の権利についての基礎知識を提供し、弁護士に相談することのメリットについても詳しく説明します。

企業の経営者および人事担当者の方に特にお読みいただきたいページとなっております。

人事異動/配置転換の拒否をするタイプの問題社員は解雇できる?

異動・配置転換の拒否で解雇が認められやすくなるケース

人事異動や配置転換を拒否する社員に対して解雇を行う場合、企業側には厳格なハードルが設けられているのが現状です。以下ではそれぞれの具体的な内容を解説いたします。

業務上の合理性(必要性)があったこと

企業が異動や配置転換を命じる場合、それが業務上の必要性に基づいていることが重要です。たとえば、以下のようなケースであれば合理的と言えるでしょう。

事業拡大に伴う人員補充:
新規拠点の立ち上げや、急成長中の部署で専門スキルを持つ人材が不足している場合。例えば、営業拠点が全国に展開する中で、地元の市場を熟知している従業員を適切な拠点に配置するケースです。

業務効率化や組織再編:
複数部署での重複業務を整理し、効率化を図るための配置転換。たとえば、IT部門の人員を集中させることで、新システム導入を効率的に進める必要がある場合です。

上記の例のように、業務の円滑化や成長に資する異動・配置転換であるにも関わらず社員が拒否をしてしまっている場合については、最終的な手段として解雇が認められる可能性があります。

従業員に著しい不利益を与えない異動であったこと

異動および配置転換が従業員の生活や仕事に過度な負担を与える場合、それを拒否する社員に対する解雇の正当性は認められにくくなります。

以下のような状況は不利益が大きいと判断される典型例です。

勤務地の変更による生活の崩壊:
遠方への転勤により、育児中の配偶者を残して単身赴任を強いられる場合などです。

スキルや経験に著しく不適合な職務:
技術職として採用された従業員に対し、全く経験のない営業職を命じる場合。業務が適正に遂行できない状況に追い込むような異動は、不合理とみなされる可能性があります。

給与や待遇が大幅に低下する異動:
異動により基本給が下がる場合や、勤務地の変更で家賃補助が打ち切られるなど、従業員にとって重大な不利益を伴うケースは問題となる可能性があるでしょう。

嫌がらせや報復と行った不当人事ではないこと

異動および配置転換が、退職強要や報復人事のような意図を持って行われた場合、違法性が認められる可能性が高いです。

内部告発後の過酷な異動:
社員が上司や社内体制の不正を然るべき機関へと告発した後に、長時間通勤が必要な遠方の拠点への転勤を命じられるケースやいわゆる追い出し部屋での勤務を命じられるケース。

退職強要を目的とした異動:
意図的にキャリアにそぐわない職務を与えることで、従業員の自主退職を促そうとするケース。

これらのケースでは、企業側の対応が不当と認められ、法的リスクが大きくなるため注意が必要です。

就業規則で解雇が規定されていること

解雇を正当化するには、就業規則に異動命令の拒否が懲戒解雇事由として明記されている必要があります。以下のような具体的な記載が求められます。

  • 「業務命令に従わない場合は懲戒処分の対象とする」
  • 「正当な理由のない異動命令の拒否は、重大な就業規則違反とみなす」

また、従業員がこれらの就業規則を理解し、同意している状態でなければなりません。そのため、就業規則を定期的に見直し、従業員への周知を実施しておくことが重要です。

懲戒処分のハードルは高いため企業側弁護士へご相談をご検討下さい

異動の拒否を理由に懲戒解雇を進めるには非常に高い法的ハードルがあります。

企業側が独自に判断を進めると、結果的に解雇無効や損害賠償請求といったリスクを抱える可能性もありますので、人事労務に強い弁護士への相談をおすすめします。

そもそも企業には人事権(配転命令権)があります

就業規則や雇用契約書の規定を確認し、整備しましょう

企業には、人事異動や配置転換を命じる権利があります。しかし、この権利は無制限ではなく、従業員に不当な不利益を与えない範囲で行使される必要があります。そのため、企業は就業規則や雇用契約書に人事権の内容を明確に記載し、従業員に説明しておくことが重要です。例えば、「勤務地の変更を命じる場合がある」や「職種変更に応じる義務がある」といった文言を盛り込むことが一般的です。

人事異動/配置転換の拒否が認められる可能性のあるケースって?

(1)職種や勤務地を限定した雇用契約だった場合

契約書で勤務地や職種が限定されている場合、企業側が異動や配置転換を命じることは難しいと言えるでしょう。

たとえば「大阪本社勤務のみ」と明記されている契約で東京への転勤を命じた場合、違法性が問われる可能性があります。

(2)給与の引き下げを伴う場合

異動によって給与が大幅に減額される場合、従業員の生活に重大な影響を及ぼすため、不当と判断されることがあります。

例えば、異動前は年収500万円だった従業員が、新たな勤務地で年収400万円に減額されるケースでは、異動命令の適法性が強く疑問視されます。

(3)退職強要や報復人事として命じられた場合

異動命令が退職を促す目的や報復の意図を持って行われた場合も、不当とされる可能性が高いです。

たとえば、過去に上司の不正を告発した従業員が、意図的に厳しい労働環境に異動させられた場合は、労働者保護の観点では不適切と判断される可能性があります。

(4)転勤等により育児や介護に著しい困難が生じる場合

従業員が家庭の事情で特定の地域に居住する必要がある場合、遠隔地への転勤命令が重大な支障をきたすことがあります

  • 高齢の親の介護をしている従業員が、遠方の勤務地に異動を命じられる。
  • 幼稚園に通う子どもを育てる親が、突然の長距離通勤を求められる。

このような場合、異動命令の適法性が否定される可能性があります。

異動/配置転換を拒否された際の会社側の対応

人事権(配転命令権)について説明し、拒否できないと丁寧に説明する

異動を拒否された場合、まずは配転命令権の存在と、その法的根拠について丁寧に説明することが重要です。

具体的には、「業務運営上の必要性に基づく正当な命令であること」「雇用契約上、命令に従う義務があること」を明確に伝えましょう。

待遇面を見直し、再度打診する

従業員が異動を拒否する背景には、待遇面への不安や不満があることが少なくありません。

そのため、異動先での給与や福利厚生、通勤条件を見直し、従業員が納得できるような条件を提示することが効果的です。例えば、遠方への転勤であれば、引っ越し費用の負担や住居手当の追加を提案することで、同意を得られる可能性が高まります。

懲戒処分を検討する

説明や待遇改善を試みても異動を拒否される場合、懲戒処分を検討する段階に進みます。

この際には、就業規則に基づいた手続きが求められます。

例えば、注意喚起や始末書の提出を求めた記録を残すことで、後々の法的トラブルを防ぐことが期待できます。

退職勧奨・解雇を検討する

最後の手段として、退職勧奨や解雇を選択することもあります。

ただし、この場合は、解雇が労働法上の要件を満たしていることを確実にする必要があります。

例えば、「異動命令を正当な理由なく拒否した結果、業務に重大な支障が生じた」など、客観的な証拠が求められます。

人事労務に強い弁護士に相談する

異動拒否の対応を進める際には、法的なリスクを最小限に抑えるために弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。

弁護士は、適切な手続きの進め方や、必要な書類の整備について具体的に指導してくれるため、円滑な解決が期待できます。

異動/配置転換について弁護士に相談するメリット

就業規則や雇用契約書を整備し、強固な体制を構築できる

弁護士に相談することで、就業規則や雇用契約書を法的に適切な内容へ整備することができます。

たとえば、勤務地や職務変更について具体的な条件を明記することで、異動命令を従業員に納得して受け入れてもらいやすくなります。

曖昧な規定が原因で、従業員から「聞いていない」と反発されるリスクを軽減することが可能です。

人事権の濫用に該当しないかどうかアドバイスを受けることができる

異動や配置転換が業務上の必要性に基づいているかどうか、また従業員に不当な不利益を与えていないかを弁護士が客観的に判断します。

例えば、新拠点の立ち上げに伴う異動が適切かどうか、業務の合理性や従業員の生活環境に与える影響を踏まえたアドバイスを受けることができます。

また、異動命令が「嫌がらせ」や「報復」と解釈されないよう、命令の背景や理由を明確にし、従業員に説明する際のポイントについてもサポートを受けることが可能です。

万が一の紛争時にも対応を一任できる

異動命令をめぐるトラブルが労働審判等へ発展した場合でも、弁護士に依頼することで企業側の負担を軽減できます。

裁判所で適法性を主張するためには、命令の合理性や適切性を示す証拠や記録が求められますが、弁護士が事前に記録を整理し、法的な戦略を立てることで円滑な対応が可能になります。

さらに、紛争が解決するまでの間、弁護士が対応窓口となるため、企業が直接従業員と対峙するストレスも軽減されます。特に、法的知識の不足が原因で紛争が長期化するリスクを防ぐためには、弁護士のサポートが不可欠です。

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