懲戒処分の要件・種類を弁護士が解説!法的に有効な処分を科すポイントって?

懲戒処分とは、企業の秩序を乱す行為をした従業員に対して、会社が制裁として科す罰です。戒告・けん責といった軽い処分から、懲戒解雇などの重い処分まで様々な種類があります。

懲戒処分をするには、就業規則に定めがある、処分が重すぎないといった要件を満たさなければなりません。

要件を満たしていないのに懲戒処分をしてしまうと、従業員から裁判などで争われるリスクがあります。懲戒解雇などの重い処分をする場合には、特に慎重に検討して手続を進めてください。

本記事では

  • 懲戒処分を行うための要件
  • 懲戒処分の種類と注意点

などについて解説しています。

最後まで目を通せば、法律に沿って懲戒処分をする方法がわかります。企業の経営者や人事担当者の方は、ぜひお読みください。

懲戒処分を検討する場合に会社が知っておくべきこと

懲戒処分とは、企業秩序を乱す行為をした従業員に対し、会社が制裁として科す罰です。無断欠勤、経歴詐称、犯罪行為などが懲戒処分の対象になり得ます。

懲戒処分をする際には、要件や処分の種類ごとの特徴を押さえておかなければなりません。

懲戒処分を行うための要件

会社には懲戒処分をする権限がありますが、無制限に認められるわけではありません。会社が権利を濫用したときには、労働契約法15条により無効となります、

一般的に、懲戒処分が有効となる要件としては以下が挙げられます。

①就業規則に懲戒処分に関する定めがある
②懲戒事由に該当する
③処分が相当である(行為に対して重すぎない)
④適正な手続が踏まれている

これらの要件について、順に解説していきます。

就業規則上、懲戒処分に関する定めがあること

まずは、就業規則に懲戒処分に関する定めが置かれていなければなりません。懲戒処分は刑罰に近い性質を持つ強力な制裁であるため、従業員にとって不意打ちにならないよう、就業規則に根拠規定が必要となります。

就業規則に規定されるべきなのは、懲戒事由と懲戒の種類です。無断欠勤、経歴詐称などの懲戒事由を列挙するとともに、減給、出勤停止、懲戒解雇といった懲戒の種類も記載しておく必要があります。

従業員が内容を知り得なければ規定した意味がないため、就業規則が周知されていることも要件に含まれます。

懲戒事由に該当すること

次に、従業員のした行為が、就業規則に規定した懲戒事由に該当することが必要です。

一般的に見て不適切な行為であっても、懲戒事由に書かれていない理由で懲戒処分はできません。むりやり規定にあてはめたり、事後的に規定を追加したりしても無効となります。あらかじめ就業規則に漏れなく定めておくのが重要です。

また、そもそも懲戒の理由となった事実が存在しない場合にも、処分はできません。

たとえば、被害者の言い分を元にパワハラを認定したものの、実際には事実無根であったケースです。処分する前に十分な調査をして証拠を揃え、事実関係を間違いなく把握するようにしてください。

処分が相当であること

いくら懲戒事由に該当しても、科す処分は行為に対して相当でなければなりません。必要以上に重すぎる処分をしてはならないということです。

たとえば、無断欠勤を数日繰り返しただけで、いきなり懲戒解雇にはできません。行為に見合った処分をするのがポイントであり、多額の着服など重大な非行があれば、重い処分を科すことは当然可能です。

処分の相当性を判断する際には、過去の勤務態度や処分歴も考慮されます。真面目に働いてきた従業員と、処分を繰り返しても改善されない従業員とでは、同じ行為をしても科される処分に違いが出ておかしくありません。

他にも、行為に至った経緯、反省の態度、過去の類似事例との公平性など、様々な観点から判断されます。

とりわけ重い処分を選択する際には、相当性を慎重に判断しなければなりません。

適正な手続が踏まれていること

処分に至るまで適正な手続を踏んでいる必要があります。

具体的には、処分理由を本人に伝えて弁明の機会を与えることが重要です。本人の言い分を聞く形をとっていても、実際には強引に認めさせていただけのケースもあります。文書を提出させるなど、確実に弁明の機会を与えるようにしましょう。

他にも、就業規則に懲戒手続に関する規定があれば、規定に従って進めてください。懲戒委員会の開催が定められている場合もあります。

手続面は見落とされがちですが、裁判になったときにはチェックされます。適正に進める意識を持つようにしてください。

懲戒処分ごとの注意点

代表的な懲戒処分の種類と注意点について、軽い処分から順に解説します。

けん責、戒告とは?

けん責、戒告とは、将来を戒める処分です。一般的には、けん責では始末書の提出を求めるのに対し、戒告は始末書が不要であるという違いがあります。

軽い処分であるため、数日の無断欠勤など、比較的重大性が低い行為に科されるケースが多いです。

けん責、戒告では、従業員に直接の経済的不利益はありません。もっとも、査定に影響を与えて昇進が遅れるなどの不利益が生じる可能性はあります。軽い処分であるからといって、手続の省略は許されません。

減給とは?

減給とは、文字通り賃金を減らす処分です。

法律上、減給できるのは「1回の額が平均賃金の1日分の半額以下」「総額が一賃金支払時期における賃金の総額の10分の1」の範囲に限られます(労働基準法91条)。減給の金額がこの金額を超えないように注意してください。

けん責、戒告をしても改善されないケースでは、減給を検討するのがよいでしょう。

出勤停止、停職処分とは?

出勤停止、停職とは、従業員の出勤を一時的に禁止する処分をいいます。

出勤停止期間中には労働がなされないため、賃金は支払われないのが一般的です。出勤停止期間に明確な上限は定められていませんが、長すぎると無効になり得ます。

1~2週間であれば妥当と考えられますが、数ヶ月以上に及ぶ出勤停止は無効になる可能性があります。

降格とは?

降格とは、役職や職能資格を引き下げる処分です。

降格すると、役職給の低下などによって賃金が下がる可能性があります。減給とは異なるため、降格による賃金低下に対しては労働基準法91条の規制は及びません。

したがって、これまで紹介した処分と比べて、従業員の経済的な不利益が大きくなり得ます。セクハラ・パワハラなど、重大な問題を起こしたときに検討される処分です。

懲戒解雇とは?

懲戒解雇とは、懲戒処分としての解雇です。労働契約を一方的に終了させるもので、もっとも重い処分になります。

退職金不支給、解雇予告なしで行われるケースも多く、一般的な解雇に比べても厳しい処分です。業務上横領など悪質な行為が懲戒解雇の理由になり得るものの、重い処分であるためとりわけ慎重な判断が要求されます。

懲戒解雇に準ずる処分が「諭旨解雇(ゆしかいこ)」です。

諭旨解雇では、会社が従業員に退職を勧告します。退職届の提出があれば退職扱いに、なければ懲戒解雇とするケースが多いです。懲戒解雇に相当する行為があったものの、情状酌量の余地がある場合に利用されます。

諭旨解雇も重大な処分であることに変わりありません。懲戒解雇と同様に、よく検討して判断してください。

社員の懲戒処分は弁護士にご相談ください

ここまで、懲戒処分の要件、種類、注意点などについて解説してきました。

要件を満たしていないのに処分をすると、裁判所から多額の支払いを命じられるリスクがあります。事実関係を十分に調査したうえで、妥当な処分をくだすようにしてください。

社員の懲戒処分にお悩みの方は、弁護士までご相談ください。

弁護士は事実調査、相当な処分の検討、適正な手続の進行など、様々な面でサポートが可能です。トラブルを防止するとともに、争いになったときに有効な懲戒処分と判断される可能性を高められます。

特に重大な処分を検討している方にとっては、法律面のチェックを受けるのが重要です。お気軽にお問い合わせください。

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