モンスター社員(問題社員)を辞めさせるには?退職勧奨の際の3つのリスク

職場環境への弊害、業績不振、協調性の欠如等、会社組織の維持と発展のために問題のある社員にどう対応すべきか、とお悩みの経営者の方もおられるのではないでしょうか。

今回は、こうしたモンスター社員(問題社員)への1つの対応策である退職勧奨と、その注意点についてご説明します

退職勧奨に関する基礎知識

退職勧奨とは

まず、退職勧奨の基本的知識を確認しましょう。

退職勧奨とは、労働者に対して自発的な退職意思の形成を促すために、使用者が辞職を労働者に勧める行為、あるいは合意解約による退職を勧める行為¹をいいます。退職勧奨はあくまで労働者が自発的に退職の意思を形成することを促す行為であるため、基本的には、使用者が自由に、かつ合法に行うことができます。そして、退職、すなわち、労働契約関係の終了は、労働者が退職の意思を表示することによって発生します。

退職勧告・解雇との違いについて

退職勧奨と退職勧告は、基本的には同じものと言えます。

一方、退職勧奨と解雇は大きく違います。

解雇とは、使用者による労働契約の解約²であり、使用者の、労働契約関係終了に向けての意思表示です。解雇の場合、30日前の解雇予告義務あるいは解雇予告手当の支払(労働基準法20条1項・2項)や、解雇権の行使が濫用にわたらないこと(労働契約法16条)等、強力な手続規制、実体規制が法定されています。こうした規制の下、使用者が解雇を適法に行うことは一般的には困難といってさしつかえないでしょう。

この点、退職勧奨については、性別を理由とする差別的取扱いが禁止されていること³等を除いて、解雇のような強力な規制はありません。例えば、人員整理目的で退職勧奨を行う場合でも、整理解雇の4要素を充足する必要はありません⁴。そのため、退職勧奨は、解雇のように厳格な法的規制に服さず、低いリスクで行うことができるという意味で、使用者に利点があるといえます。一方で、労働者が退職の意思を形成しない限り、労働契約関係の解消という目的を達成することはできないため、その点は不便とも言えるでしょう。

退職勧奨の実施方法

それでは、実際に退職勧奨をどのように行っていくかを紹介していきます。

面談

まずは、退職勧奨対象者と面談をします。

面談に先立ち、当該対象者に退職勧奨をする理由を整理して、どのように伝えたらいいかをよく吟味しておきましょう。面談に当たっては、対象者を個別に呼び出すことが必須です。対象者に圧力がかからないように、明るく、広い個室を用意することが望ましいです。必要以上の人数で面談を行うことも避けましょう。

また、後に争いになっても証拠がないということを避けるため、面談中の発言や経過を記録に残すことが望ましいです。

条件提示

面談の場では、具体的な条件を提示しましょう。退職予定日、退職金、有給休暇の消化等の条件を、対象者とすり合わ

合意書の作成

面談を経て、対象者との間で条件面での合意ができたら、対象者が翻意しないうちに速やかに退職合意書を作成しましょう。退職合意書には、退職の日付や退職条件を記載し、労使双方が署名や押印をすることが一般的です。

ここで、退職合意書と退職届の違いに注意が必要です。

退職届は、労働者の一方的な意思表示にすぎず、労働契約関係の終了の効果が生じるためには、使用者が承諾の意思表示をすることが必要です。承諾の意思表示は口頭でも可能ですが、後の紛争を避けるため、書面で行うことが望ましいです。すると、退職届に対して承諾をする書面を発行することとなり、煩雑となります。

一方、退職合意書であれば、双方の意思表示が記載されていることとなります。加えて、退職条件等も記載することができるため、一通の書類で済ませることができます。

せていきます。

対象者が十分に条件を吟味して自由に意思形成をしたと言えるよう、条件を後出しにすることは避けるべきです。条件の提示をしたことや、どんな条件を提示したかが客観的に明らかとなるよう、条件を記載した書面を差し入れることが望ましいです。

対象者が退職金の上乗せ等を要求してきた場合、対象者の要求を全て受け入れる必要はありませんが、譲歩できる範囲で譲歩することも必要となるでしょう。

これって違法?退職勧奨を実施する際の3つのリスク

さて、ここまで退職勧奨の方法を紹介してきましたが、退職勧奨に応じて退職するか否かは労働者が自由に決定することができます。使用者としては、退職に応じてほしいがゆえに、相応しくない言動を取ってしまうことがないように注意する必要があります。裁判実務では、労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる程度をこえて、当該労働者に対して不当な心理的威迫を加えたりその名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする退職勧奨は不法行為となる⁵、とされています。

 それでは、退職勧奨を適法に行うために注意すべき3つのポイントを紹介します。

言葉の表現(退職届を出すように促す高圧的な発言等)

まず、退職に応じることを強要する、強要に至らないまでも高圧的な言辞を用いることは絶対に避けるべきです。使用者が退職勧奨において、能力がない、別の道があるだろう、寄生虫、他の従業員の迷惑等と述べた事案においては、そうした言辞を用いて行われた退職勧奨はもはや退職強要にわたる⁶と評価され、違法と判断されています。大きな声を出す、机をたたく等の行為も、厳に控える必要があります。

また、不相当な言辞によって対象者が畏怖し、畏怖したままに退職の意思表示をした場合には、強迫(民法96条1項)による意思表示に当たるとして、取り消されるおそれもあります。

懲戒解雇に相当する事由が存在しないにもかかわらず,懲戒解雇があり得ることを告げることは,労働者を畏怖させるに足りる違法な害悪の告知であるから,このような害悪の告知の結果なされた退職の意思表示は,強迫によるものとして,取り消しうる、と判示された事案⁷もあります。このように強迫による意思表示であるとして退職の意思表示を取り消された場合、労働契約関係は継続していることとなり、使用者は未払賃金を支払わなければならないこととなります。

さらに、そうした不相当な言辞が、対象者の名誉感情を害する態様であった場合には、名誉毀損という別個の不法行為を構成することもあります。

退職勧奨の担当者は言動に十分に気を付ける必要があり、使用者としては、担当者の人選にも注意を向けるべきでしょう。

退職に向けた業務量の調整(意図して業務量を減らす等)

意図的な業務量の縮減や配転も、対象者の自由な意思形成に不当な影響を与えうることから、不法行為と評価されることもあります。

退職勧奨の対象者を他の従業員と物理的に隔離し、インターネット上の共有サイトにもアクセスできないようにしたうえ、約1年にわたり不採算業務に従事させた事案では、これらは対象者に対する嫌がらせであり、不法行為に該当する⁸と判断されました。

あからさまな業務量の縮減や、配転を含む就労場所の変更は、他の従業員の目にもさらされることになるという意味でも、対象者への心理的効果が大きく、社会通念上不相当と判断されやすくなります。

退職勧奨を企図して業務量の縮減等を行うことは避けるべきでしょう。

長時間・大人数による面談

面談が長時間ないし多数回、頻回にわたる場合や、大人数で面談を行うことも、対象者への心理的効果が大きく、違法な退職勧奨と評価されることがあります。

例えば、三十数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約八時間もの長時間にわたるものもあった事実は不相当な態様での退職勧奨と評価する一つの事情とされました⁹。こうした裁判例を踏まえると、1回の面談は短時間で終了させ、かつ、頻回にわたらないようにすることが肝要と言えます。一方で、短期間で終わらせようとして退職するか否かの回答期限を極端に直近に設定することも避けるべきでしょう。短時間での回答を迫ったと評価されるおそれがあります。

さらに、対象者が退職勧奨を明確に拒絶した場合には、それ以上退職勧奨を継続することは態様が執拗であるとして、不相当な退職勧奨の方法と評価されることとなります¹⁰。

モンスター社員(問題社員)対応によるお困りの経営者様は弁護士に相談を

以上のように、退職勧奨は解雇に比べて簡便な手段である一方で、数々のリスクを内包しています。こうしたリスクを避けるためには、早期に弁護士等の法律の専門家に相談することが肝要です。

また、退職勧奨が奏功しない場合には解雇を検討する必要がありますが、当初から解雇をすることを念頭に置くか否かで退職勧奨の在り方も異なってきます。当該労働者との契約関係を終了させることをゴールに据え、合理的な道筋を立てるためには、やはり専門的な知識が必要となります。

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    ¹ 軽部龍太郎ほか『個別労働トラブルにおける和解のポイントと条項例』201頁(新日本法規,2020)

    ² 菅野和夫『労働法(第十二版)』775頁(弘文堂,2019年)

    ³ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条4号

    ⁴ 大阪地判平12.9.8労判345号20頁 ダイフク事件

    ⁵  東京地判平23.12.28労経速2133号3頁 日本アイ・ビー・エム事件 

    ⁶  大阪地判平11.10.18労判772号9頁 全日空事件

    ⁷  東京地判平14.4.9労判829号56頁 ソニー事件

    ⁸  大阪地判平27.4.24 ジュリスト1484号4頁 大和証券ほか事件

    ⁹  前掲⁶

    ¹⁰ 最判昭55.7.10労判345号20頁 下関商業高校事件

     

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