学校法人のM&Aのメリットやスキーム、流れを弁護士が解説

少子化を背景にして、学校法人の経営環境は厳しさを増しています。そこで考えられるのが、M&Aによる規模の拡大です。

学校法人のM&Aには、譲受側・譲渡側の双方にブランド価値の向上などのメリットがあります。方法として考えられるのは、経営支配権の譲渡(役員の入れ替え)、事業譲渡、合併です。

学校法人のM&Aでは、当事者双方が学校法人の場合が多いですが、事業会社や医療法人が関わるケースもあります。いずれにしても、相手を見極めたうえで慎重に手続きを踏まなければなりません。

本記事では、

  • 学校法人がM&Aをする理由とメリット
  • 学校法人のM&Aスキームと成功させるポイント
  • 学校法人のM&Aの相手や流れ

などについて解説しています。

M&Aを検討している学校法人関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

学校法人の現状と課題

学校法人は、少子化を背景にして厳しい経営環境に直面しています。まずは、学校法人の現状や課題について解説します。

経営基盤が不安定

学校法人にとって大きな問題は、少子化の進行です。収入の多くを授業料や入学料に依存しているため、少子化により入学者が減少すれば、経営危機に直結します(参考:私立学校・学校法人に関する基礎データ|文部科学省)。

わが国の18歳人口は1990年頃には200万人を超えていましたが、近年は110万人程度で推移しています。2020年頃まではしばらく横ばい傾向でしたが、2032年には100万人を割り込むなど、今後は減少が加速する見込みです(参考:18歳人口及び高等教育機関への入学者・進学率等の推移|文部科学省)。

これまでは、進学率の向上により大学入学者数は増加してきました。しかし今後は、少子化の進行により減少する見通しです。現在でも地方大や短大で収支が厳しい状況ですが、今後の見通しも明るくないといえます(参考:私立学校・学校法人に関する基礎データ|文部科学省)。

M&Aによる再編の動き

経営環境の悪化を受けて、学校法人ではM&Aによる再編の動きが見られます。

たとえば、慶應義塾大学は2008年に共立薬科大学と合併しました。統合に伴い薬学部を設置しています。学部の増設により価値を高める「水平的統合」の事例です。

他には、大学が高校・中学を系列校にして入学者を確保する「垂直的統合」もあります。たとえば、中央大学が横浜山手女子学園と合併して付属校としたケースです。

他にも数多くの事例があり、他の業界と同様に、学校法人でもM&Aによる再編が進んでいます。

学校法人がM&Aをする理由とメリット

学校法人がM&Aをするのは、新設よりもハードルが低く、学校としての価値を高めやすいためです。以下で、学校法人がM&Aをする理由・メリットに関して詳しく解説します。

新設はハードルが高い

学校を新設するのは、ハードルが高いです。所轄庁からの許可を得るのみならず、人材やノウハウも必要になります。

M&Aであれば、設備だけでなく人材やノウハウも引き継げるため、一から開設するのに比べてハードルが低いです。学校としての価値を効率的に高めたいのであれば、M&Aが有効な方法となります。

M&Aにおける譲渡側、譲受側のメリット

学校法人のM&Aによるメリットを、譲渡側と譲受側に分けて紹介します。

譲渡側

譲渡側からすると、譲受側の学校が有するブランド力を得られるメリットがあります。たとえば、有名大学の付属校となれば志願者・入学者は増加すると考えられます。業務効率や教育の質の向上も期待できるでしょう。

経営が厳しくなっていても、譲り受けてもらえば教育の継続が可能です。教職員の雇用や、学生・生徒の就学機会を確保できるため、現場の大きな混乱を避けられます。

譲受側

譲受側にとっては、系列校の増加による入学者の確保、学部増加によるブランド価値の強化がメリットとして挙げられます。

人材を確保できる点もメリットです。専門性が高い医療系などの学校を譲り受ければ、一から人材を育成する時間や手間を省けます。

他にも、学校が有する土地や建物といった不動産を引き受けられる利点もあります。特に都市部であれば、資金があるとしても、立地条件の良い土地を新たに取得するのは容易ではありません。不動産ごと譲り受けられるメリットは大きいです。

学校法人のM&Aスキームと成功させるポイント

M&Aをするにしても、適切な方法で進めないとメリットを享受できません。学校のM&Aのスキームや成功のポイントを解説します。

学校法人のM&Aスキーム

学校法人のM&Aにおける特徴は、通常の企業とは異なり株式がない点です。スキームとしては、経営支配権の譲渡(役員の入れ替え)、事業譲渡、合併があります。

経営支配権の譲渡(役員の入れ替え)

一般企業であれば株式を取得して支配権を得ますが、学校法人には株式がありません。学校法人の場合には、役員の入れ替えによって支配権を譲渡します。

事実上の譲渡の対価として、退任する役員への退職金が支払われます。

役員の入れ替えによる支配権の取得であれば、譲り受けるのが学校法人でない事業会社でも可能です。

事業譲渡

学校法人全体ではなく、一部の学校や設備だけを譲り渡すときには、事業譲渡の方法をとります。

事業譲渡の場合には、譲受側も学校法人でなければなりません。譲渡側の学校法人としては、残った事業を継続するか、解散するかのいずれかになります。

事業譲渡の際には、譲り受ける事業の対価を支払います。算定方法は様々ありますが、純資産にのれんを加えるのが一例です。

事業譲渡では財産、労働契約、在学契約などを個別に移転する必要があるため、手続きが煩雑になるデメリットがあります。

合併

学校法人同士が合併するケースもあります。種類としては新設合併と吸収合併がありますが、吸収合併が一般的です。

合併には、両法人において理事の3分の2以上の同意を得なければなりません。寄付行為で定められているときには、評議員会の議決も必要です。また、所轄庁の認可も必要です。その後、債権者に公告・催告を行い、合併に異議のある債権者に対し、弁済か相当の担保を提供しなければなりません。

さらに、合併により退任する理事に対し、退職金の支払いが必要です。

なお、税法上「非適格合併」に該当するときには、税金に関して不利な扱いを受けます。

M&Aを成功させるポイント

学校法人のM&Aを成功させるには、以下のポイントに注意してください。

価値が向上するかの検討

M&Aによって、学校の価値が向上して入学者の増加等につながるかを検討しましょう。ただ規模が拡大するだけで学校としての魅力が増さなければ、効果は薄くなってしまいます。

たとえば、水平的統合の場合には既存の学部とのシナジー効果が見込めるか、垂直的統合の場合には従来アプローチできていない層の学生・生徒に魅力をアピールできるか、といった視点が考えられます。

学校法人の質とガバナンスの確認

相手の学校については十分に知っておかなければなりません。

その教育の質が低い、ターゲットとしたい学生・生徒に合致しないなどの問題があるとすれば、M&Aがブランドイメージの低下につながるおそれもあります。また、学校法人によってはガバナンスが機能しておらず後に問題が生じる場合もあるため、事前のチェックは不可欠です。

M&Aに強い弁護士のサポート

M&Aには、法律などの専門知識が不可欠です。弁護士をはじめとする専門家のサポートを受けて進める必要があります。

特に学校法人のM&Aは特殊であるため、学校法人に強い弁護士に依頼するのがよいでしょう。

学校法人のM&Aの相手や流れ

M&Aをするには、相手を見つけたうえで手続きを進める必要があります。学校法人のM&Aの相手や流れについては、以下を参考にしてください。

M&Aの相手の例

学校法人のM&Aの相手としては、学校法人、事業会社、医療法人などが考えられます。

学校法人

もっとも多いのが、当事者双方が学校法人であるケースです。

前述のとおり、たとえば、大学が中高を系列校に加えたり、自身の大学にない学部を有する大学と合併したりする事例があり、学校法人であれば、役員入れ替え、事業譲渡、合併のいずれの方法も可能です。

事業会社

現在は数が少ないですが、事業会社でも役員を送り込めば学校教育へ参入できます。事業会社は経営に長けており、実社会で必要とされる人材を育成できるポテンシャルを秘めています。

医療法人

医療法人も有力な承継先です。医療系の専門人材を育成している学校を医療法人が譲り受ければ、人手を確保しやすくなるとともに、即戦力となる人材の育成ができます。

学校法人のM&Aの流れ

学校法人のM&Aは、一般的に以下の流れで進みます。

(1)相手探し

まずは、相手を探します。もっとも、M&Aの対象となり得る学校はそうはないため、選択肢は少ないです。

(2)交渉

候補が見つかったら、財務状況、教職員・学生に関する情報、不動産目録などを元に検討します。交渉のうえ双方が金額などの条件について合意できたときは契約に進みます。

(3)手続き

学校のM&Aでは、当事者双方の内部手続きだけでなく、前述のとおり所轄庁の認可が必要です。早めに調整を進めてください。新学期が始まる4月に合わせて手続きを進めるのがよいでしょう。

学校法人のM&Aをお考えの場合は弁護士にご相談ください

ここまで、学校法人のM&Aについて、メリット、スキーム、流れなどについて解説してきました。

ブランド価値の向上など、M&Aは当事者双方にメリットがあります。メリットが大きいと判断したら、状況に応じてスキームを選択し、手続きを進めましょう。

学校法人の場合には、手続きにおいて通常の企業と異なる特殊性がありますので、専門家のサポートも受けつつ、法的に問題がないように進めなければなりません。

学校法人のM&Aについては、弁護士法人西村綜合法律事務所までご相談ください。

当事務所では、学校法人の皆様から数多くの相談を受けております。学校特有の事情にも精通していますので、M&Aの手続きなどに関して適切なアドバイスが可能です。

学校法人のM&Aでは、早期から専門家の関与が不可欠といえます。M&Aを検討している学校関係者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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