私生活上の非違行為で教員の懲戒処分ってできる?弁護士が解説
本来懲戒処分は業務上の行為に対してなされますが、教員の私生活における非違行為にも懲戒処分ができる場合はあります。たとえば、教員の犯罪行為が報道されて学校の信用を傷つけたようなケースです。
ただし、プライベートでの行動に対して懲戒解雇まで認められるケースは少ないと考えられます。懲戒解雇という厳しい処分に値する非違行為があったかは、慎重に検討しなければなりません。
本記事では、
- 私生活上の非違行為の持つ意味
- 教員の私生活上の非行に対する懲戒処分の基準
などについて解説しています。
プライベートで問題を起こした教員の処遇に悩んでいる学校関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。
私生活上の非違行為について
私生活上の非違行為とは、わかりやすく言えばプライベートでの違法行為です。プライベートにおける問題行為についても、懲戒処分を科せるケースがあります。
一般的に、懲戒処分をする要件は以下の通りです。
- 根拠規定の存在(就業規則に懲戒事由と種類が定められている)
- 懲戒事由該当性(懲戒事由に該当する事実が存在する)
- 相当性(行為に対して処分が重すぎない)
これらの要件を満たしていれば、教員の私生活上の非違行為にも懲戒処分を科せます。
通常は就業規則に「学校の名誉・体面・信用を毀損した」といった懲戒事由が定められており、1番上の要件は満たします。問題は残り2つです。
まずは、懲戒事由該当性に関して解説します。
公私の区別とその重要性
懲戒事由該当性を考えるにあたっては、公私の区別が重要な要素になります。
教員の行為に対して学校が指示を出せるのは、雇用契約に基づいて業務上の指揮命令権を有するためです。業務時間中に学校内で体罰やハラスメントなど不適切な行為をすれば、学校の指揮命令や服務規律に背いており、懲戒処分を科せます。
これに対して私生活上の行為は、業務に直結はしないはずです。したがって、教員がプライベートで問題を起こしたからといって、当然に懲戒処分を科せるわけではありません。職場外・勤務時間外における行動に必要以上に口を出せば、プライバシー尊重の観点から不適切です。
教員の行為に懲戒処分を科すにあたっては、「悪いことをしたから懲戒」と安易に考えず、業務と関連を有するか否かに注意してください。
職務上の影響を考慮する
私生活上の非違行為に懲戒処分を科せるのは、職務に重大な悪影響が生じるケースに限られます。職務と無関係で、何ら影響を与えないのであれば、プライベート上の行為を理由に懲戒処分は科せません。
判例上も、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるときに限って、私生活上の行為が懲戒事由に該当すると考えられています(日本鋼管事件・最高裁昭和49年3月15日判決)。
たとえば、痴漢撲滅に取り組んでいる鉄道会社の従業員が、勤務時間外に他社の電車内で痴漢をしたケースでは、懲戒解雇が有効とされました(小田急電鉄事件・東京高裁平成15年12月11日判決)。
他方で、タイヤ製造会社の従業員が深夜に酩酊して他人の住居に侵入したケースでは、会社の体面を著しく汚したとはいえず、懲戒解雇が無効とされました(横浜ゴム事件・最高裁昭和45年7月28日判決)。
教員についても、職務と関係ない私生活上の行為で懲戒処分ができるのは、学校の社会的評価に重大な悪影響を与える場合に限ると考えられます。
私生活上の非行と懲戒処分の基準について
教員の私生活上の非行が学校の社会的評価に重大な悪影響を与えるケースでは、懲戒処分を科せます。実際に懲戒処分を科す際には、相当性(どの処分を選択するか)が問題になります。
一般的な懲戒処分の種類は、軽い順に以下の通りです。
- 戒告・けん責
- 減給
- 出勤停止・停職
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
最も重い懲戒解雇は、労働契約を一方的に終了させる処分です。退職金が不支給とされるケースも多く、大変厳しい処分といえます。懲戒解雇を下す際には、特に慎重に検討しなければなりません。
以下で、相当性の要件に関連して、懲戒解雇にできるケース・できないケースなどを解説します。
非行の程度と解雇への影響
非行がどの程度重大なのかは、科される処分に大きな影響を与えます。
非行の重大性と処分の相当性
懲戒処分においては、相当性が要求されます。すなわち、非行の重大性と釣り合った処分を下さなければなりません。
たとえば、教員が校内で生徒を平手で1発叩いたものの、生徒の非行を止めるためであり、ケガはなく真摯に謝罪もしたとします。たしかに体罰は不適切ですが、体罰の中では重大性が低いといえるでしょう。このときに懲戒解雇などの重い処分を科せば、非行の重大性と処分が釣り合っていません。
非行に対して重すぎる処分を科してはならない点は、特に意識する必要があります。
再発防止の観点からの考慮事項
行為に対して処分が重すぎると不適切だと説明しましたが、反対に軽すぎてもいけません。軽い処分を下すと、本人や周囲が重大な行為と考えず、再発しやすくなるためです。
たとえば、非のない生徒に対して柔道の技をかけて半身不随にさせたケースは、非行の程度が重大です。懲戒解雇を含む重い処分を検討しないと不適切でしょう。
処分の相当性を考える際には、重すぎる処分をしない方向にばかり考えがちです。しかし、再発防止の観点も考慮すると、重すぎも軽すぎもしない妥当な処分をするのが重要になります。
主な私生活上の非行と懲戒解雇の妥当性
問題になりやすい私生活上の非行について、懲戒解雇にするのが妥当かを解説します。
飲酒運転
飲酒運転は厳罰化が進んでおり、プライベートでしたとしても重大な非違行為です。社会的な視線も年々厳しくなっており、教員が飲酒運転した事実が報道されれば、学校のイメージは低下すると考えられます。
もっとも、懲戒解雇に相当するかはケースバイケースです。公務員の事例では、裁判所の判断が分かれています。
判断においては、以下の要素が考慮されます。
- 行為者の役職、勤務態度
- 行為内容(飲酒量、被害の有無、事故後の対応)
- 社会的影響の有無、大きさ
私用メール
業務中に私用メールをするのは、通常許されていないはずです。プライベートというより業務中の問題行為といえるでしょう。したがって処分の対象にはなります。
もっとも、単にメールのやりとりをしていただけであれば、会社に大きな影響は与えないのが一般的です。メールの内容自体が犯罪行為に該当するケースを除き、軽い処分が妥当と考えられます。懲戒解雇にまでするのは相当性を欠きます。
犯罪行為
私生活における犯罪行為の場合には、内容が重要です。
たとえば、教員のわいせつ行為に対する社会的な視線は厳しくなっています。報道されれば学校の信用を大きく傷つける行為であるため、懲戒解雇を含む重い処分を検討するべきです。
反対に、教員の身分と関係の薄い犯罪で程度が軽ければ、懲戒解雇とするのは重すぎます。
行為内容と社会的影響を見極めて、妥当な処分を決めなければなりません。
教員の懲戒処分については西村綜合法律事務所まで
ここまで、教員の私生活上の行為に対する懲戒処分について、可否や内容を中心に解説してきました。
教員のプライベートにおける行為であっても、学校の社会的評価に大きな影響を与えるのであれば懲戒解雇を含む懲戒処分の対象となります。行為の重大性と社会的影響を考慮して、妥当な処分を決定しなければなりません。
教員の懲戒処分に関しては、弁護士法人西村綜合法律事務所までご相談ください。当事務所は、学校法人の皆様から数多くの相談を受けており、教員の懲戒処分にも精通しています。学校特有の事情も踏まえつつ、類似例をもとに妥当な処分内容や処分を下す手続きに関してアドバイスいたします。
教員の懲戒処分にお悩みの学校関係者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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