学校法人における就業規則の重要性について弁護士が解説
学校法人を運営するには、教職員を含めた多数の労働者を雇用する必要がありますが、学校法人と労働者の法律関係は就業規則により規律されることになります。労働者とのトラブルが生じないように予防するためには適切な就業規則を作成することが重要になります。ここでは、学校法人における就業規則の重要性について弁護士が解説します。
就業規則の基礎知識
まず、就業規則の基礎知識について説明します。
就業規則とは?
就業規則とは、賃金や労働時間などの労働条件及び職場内の規律を規定した職場におけるルールブックをいいます。職場でのルールを定め、労使双方がそれを守ることで労働者が安心して働くことができ、労使間の無用のトラブルを防ぐことができます。
労働者との雇用契約は労働者ごとに内容を決めて締結することも可能です。
しかし、労働者が多数存在する場合に、労働者ごとに個別の内容の雇用契約を締結すると、使用者は労働者ごとに雇用契約の内容を管理しなくてはならなくなり、大きな負担が生じてしまいます。就業規則により雇用契約の内容を規律することで、使用者は労働者の雇用契約の内容を統一的に管理することが可能になります。
就業規則については、労働基準法に定めがあります。労働基準法89条は、労常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、事業場ごとに就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとしています。
就業規則を作成または変更し、労働基準監督署長に提出する手続の流れについては、以下のとおりです。
①就業規則の案を作成または変更
②事業場の過半数労働組合、または過半数代表者から意見を聴取
③所轄の労働基準監督署長へ届出
④事業場においてに労働者に周知させる
②については、事業場の過半数労働組合、または過半数代表者から意見を聴取することが求められるに過ぎず、これらの者から同意を得ることまでは要求されていません。
③については、就業規則と共に、事業場の過半数労働組合、または過半数代表者から聴取した意見に関する意見書も提出する必要があります。仮に、これらの者が就業規則の内容に反対し、意見書の作成に応じない場合でも、使用者は意見を聴取した経緯をまとめ、意見書不添付理由書を提出することで、届出は受理されることになっています。
④については、労働基準法106条及び同法施行規則52条の2において規定が存在します。使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付け、あるいは書面の交付や電子機器の設置による公開等の方法により、周知させるものとされています。
さらに、就業規則の内容を労働者に不利に変更する場合は、その変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らし、合理的と認められない限り、労働者には効力が及ばないとされています(労働契約法10条)。
また、使用者は、就業規則が定められている場合でも労働者との間で個別に労働契約を締結することが可能ですが、既に規定した就業規則の基準に達しない労働条件を定める部分は無効になり、無効になった部分については就業規則の効力が適用されるとされています(労働契約法12条)。
就業規則の点検・改定の必要性
上記のとおり、使用者は多数の労働者との法律関係を就業規則により規律しています。そのため、就業規則の内容が不適切であった場合、多数の労働者との法律関係が不適切なものになってしまいますので、学校法人の運営に多大な悪影響を与えることになってしまいます。
学校法人への運営に与える影響の大きさに鑑みれば、定期的に就業規則の内容を点検すべきであるといえます。そのような点検は、就業規則の作成者だけではなく弁護士など法律の専門家によるものが望ましいといえますし、複数の目線による多角的な検討を行うことがより望ましいといえます。
また、労働法関連に関する法分野は特に法令改正が非常に多いところです。近年の改正だけでも以下のように関連する法令が多数改正されています。
①育児・介護休業法の改正(令和4年4月1日より順次施行)
②育児・介護休業法施行規則の改正(令和3年1月1日施行)
③労働施策総合推進法の改正(令和2年6月1日より順次施行)
④働き方改革関連法の成立(平成31年4月1日より順次施行)
このような法令改正に合わせて、就業規則の改定の必要性についても検討しなければなりません。
学校法人の就業規則で重要なポイント
学校法人における就業規則では特に以下の点がポイントとなります。
採用・異動・服務規律・教育訓練・賃金
学校法人においては、生徒とのトラブルを起こしてしまう教職員も多々見受けられるところです。もっとも、一般的に労働者を解雇するハードルは高いことから、就業規則においては、採用に関する規定を整備し、不適切な人材を採用しないようにコントロールすることが重要になります。この場合、就業規則において、適切な試用期間に関する規定が存在するかという点をチェックする必要があります。
また、上記のとおり、学校法人においては、生徒とのトラブルを起こしてしまう教職員も見受けられるところですので、適切な服務規律に関する規定が存在するかという点もチェックポイントとなります。
さらに、学校法人においては、人員確保の状況により、教職員にキャンパスや配属校を異動してもらう必要が生じることもあるところです。そのため、労働者の配置転換や異動に関する適切な規定が存在するかという点も確認する必要があります。
労働時間・休憩・休日・休暇など
学校法人においては、教職員を始めとした労働者に関し、労働時間・休憩・休日・休暇の管理が非常に杜撰な事例が多々見受けられるところです。場合によっては、労働基準監督署が学校法人に立ち入り調査を行う事例も存在し、このような事態が生じてしまうと、コンプライアンスという観点からもレピュテーションリスクという観点からも多大な不利益が生じてしまうところです。
公立学校の教職員については、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)が適用され、原則として基本給の4%が教職調整額として支給される代わりに時間外手当は支払われないものとされています。
このような扱いを受けて、私立学校においても、労働時間・休憩・休日・休暇の管理が非常に杜撰な事例が見受けられますが、私立学校については、当然のことながら、給特法は適用されません。そのため、学校法人は、一般的な私企業と同様に、適切に労働時間・休憩・休日・休暇を管理する必要があるところです。
この点に関する意識が薄く、就業規則上も問題のある規定になっている学校法人も少なくないため、労働時間・休憩・休日・休暇に関する規定は特にチェックを要するポイントとなります。
退職・解雇(懲戒を含む)
上記のとおり、学校法人においては、生徒とのトラブルを起こしてしまう教職員も見受けられるところです。
そのため、退職・解雇に関する規定も適切に設ける必要があります。
また、フジ興産事件において最高裁は、「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」としていますので(最判平成15年10月10日)、懲戒処分のために適切な規定が設けられているかという点も念のために確認するべきです。
学校法人の就業規則は弁護士にご相談ください
上記のとおり、労働法関連は特に法令の改正が多い法分野です。就業規則は常に最新の法令改正に合わせて内容を変更する必要があります。また、学校法人において労働者とのトラブルを未然に防止するためにも就業規則の内容をチェックし、不備があれば適切な内容に修正することが重要となります。
学校法人の就業規則は弁護士にご相談ください。
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