学校側で教員の内定取り消しができるケースって?弁護士が解説

学校法人の運営には教員を採用することが必要不可欠です。しかし、経歴詐称が発覚するなど、時には内定の取消しを検討しなければならない場合もあります。

このページでは学校法人における教員採用の内定取消しについて弁護士が解説します。

教員採用の流れ

学校法人における教員採用の流れは、概ね以下のような流れになります。

①学校法人による採用の募集(公募)
②求職者による応募
③採用審査(試験、面接)
④内定
⑤採用

内定通知とその条件

「内定」とは、一般的に、始期付の解約権留保付の労働契約であると考えられています。

始期付とはまだ就労は始まっていないけれども、入社日から就労が始まるという意味であり、労働契約自体は成立していることをあらわします。

また、解約権留保付とは、一定の内定取消事由が生じた場合に労働契約を解約できる権利が学校法人に留保されていることをあらわします。

このように、内定が認められると、学校法人と求職者間に労働契約自体は認められることになりますので、内定通知に労働条件が記載されている場合は、その内容が求職者との間の労働契約の内容を基礎づけることになります。

内定取消しができる場合について

内定が解約権留保付の労働契約と考えられていることからといって、学校法人はどのような場合にも内定取消しを行えるわけではありません。

始期付きであり解約権が留保されているとしても、労働契約が一度成立している以上、労働契約を一方的に解約することは解雇にあたり、法律上一定の事由が存在する場合に限って認められることになります。

判例では、内定取消しが認められる場合を「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」としています(最判昭和54年7月20日判決)。

また、内定の場合は、いまだ就労を開始しておらず、資質、能力その他社員としての適格性の有無に関連する事項が十分に収集されていないため、一般の労働者とは同列に論じられないとの指摘がなされており、通常の解雇より緩やかに判断されると考えられるという指摘がなされています。

内定者側の事情による内定取消し

上記のとおり、内定の取消しを行うには一定の事由が存在することが必要になります。そこで、内定者側に次のような事情が存在する場合、内定取消しが認められるかを見ていきます。

経歴詐称

休職者が学校法人に虚偽の経歴を伝えていた場合、詐称の程度が重大であれば内定取消しが認められる一方、詐称の程度が軽微であれば内定取消しは認められません。

例えば、教員を採用する際に、求職者が高卒であるにもかかわらず、大卒を詐称した場合、最終学歴は教員の資質や能力を判断するうえで重要な経歴ですから、このような詐称が発覚した場合は、詐称の程度が重大と判断されます。

一方、教員の資質や能力に影響を与えることが少ない資格の有無の詐称の場合、程度は軽微であると判断されます。

健康状態や犯罪歴の隠蔽

健康状態や犯罪歴の隠匿についても、その隠匿が業務に重大な支障を生じさせるものであれば内定取消しが認められる一方、業務への支障の程度が軽微であれば内定取消しは認められません。

例えば、学生に対する性犯罪で有罪判決を受けたことのある者が、その事実を隠匿していた場合は、業務に重大な支障を生じさせるということができます。

また、健康状態についても、既往症を隠匿していた場合に、その存在が業務に重大な支障を生じさせる場合には内定を取消すことが可能です。しかし、一度試験や面接をパスしていることを踏まえれば、内定後に既往症が発覚したとしても、その存在が業務に重大な支障を生じさせると言える場合は限定されるものと思われます。

使用者側の事情による内定取消し

内定の取消しは学校法人側の事情に基づいて行う場合もあります。使用者側の事情により内定を取消すのは、次のように、経営が悪化して人員削減の観点から内定取消しを行う場合が多いと思われます。

経営状況の問題等により人員削減する必要がある

内定取消しは労働契約を一方的に解約することになるため、法的には解雇にあたります。そのため、経営の悪化に伴い人員削減の観点から内定取消しを行う場合、整理解雇と同じ要件を満たす必要があると考えられており、具体的には以下の4要件を満たす必要があります。

①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の妥当性

内定取消しでは、特に③が問題になる可能性が高いところです。内定取消しを行う前に、残業の削減、非正規従業員の雇止め、一時休業、希望退職の募集といった努力を尽くしたかが問題になります。

採用後に経歴詐称等が発覚した場合

内定後、正式に求職者を採用した後に、経歴詐称等が発覚した場合は、内定取消しではなく、解雇を検討することになります。

多くの就業規則では懲戒解雇事由として「重大な経歴の詐称」といった懲戒解雇事由が規定されていると思いますので、その規定に沿って懲戒解雇することができるかを検討することになります。

内定取り消し後の対応と法的な影響

内定の取消し後は、労働者から解雇が無効であることを前提に地位確認請求訴訟が提訴されたり、損害賠償請求訴訟が提訴される可能性があります。

経歴詐称者の採用を防ぐ方法

経歴詐称者の採用を防ぐには、内定前に関係書類の提出をきちんと求め、内容に不自然な点がないかチェックすることが必要です。卒業証書や資格の証明書といった資料は必ず提出させて内容を確認すべきです。また、退職証明書や源泉徴収票を求めることで、前職をチェックすることもできます。

また、求職者の元上司や同僚に問い合わせを行うリファレンスチェックという手段もあります。書類の内容や面接の内容に事実に反する点がないかを確認し、把握し切れなった人物像を質問することも可能です。しかし、求職者が転職活動を行っていることを知られたくないといった理由でリファレンスチェックを行うことが出来ない場合もあります。

教員対応については西村綜合法律事務所まで

当事務所では、学校法人に関する法律問題に積極的に取り組んで参りました。教育現場であることに配慮しつつ、適切な法的サポートをいたします。教員対応については西村綜合法律事務所までぜひお問い合わせください。

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