教員同士のパワハラや学校の長時間労働を労務問題に強い弁護士が解説
学校法人を経営していく中で、労務環境をどう整えるべきかについてお悩みの方が多いかと思います。そこで、以下では、学校法人の労務環境についてご説明させて頂きます。
また、現在このようなケースにお悩みの従業員(教員や事務の方等)がいらっしゃいましたら、まずは校内の主任やその上長にあたる方へご相談ください。学校全体としてのご相談およびご契約となりますので、事前にご相談者様と学校側とでお話しが進んでいないと対応できないケースがほとんどです。
学校・幼稚園・保育園などの教育機関における問題教員・モンスター職員への対応に強い弁護士をお探しの方はこちらのページもご覧ください。
学校法人におけるハラスメントや労務トラブルの事例
学校法人の労務についてどのようなトラブルが発生するのかについて以下では、ご説明させて頂きます。
教職員同士でのハラスメント問題
教職員の間のパワハラ・いじめについて全日本教職員組合青年部が実施したアンケート調査によれば約32%がパワーハラスメントを受けた経験があると回答しています。
具体例としては
- SNSに悪口を書かれる
- 自分にだけやることの内容について伝達しないにもかかわらず、できなかったときに生徒の前であっても叱責する
- 部活動の朝の練習や休日の練習に強制的に参加させられて、ミスがあるとしつこく説教をする
- 気に入らないことがあるとあらさまに無視をする・人格否定をする・差別的言動をする
- 振替休日をとって休む教職員に対して「若手のくせに休んで遊ぶ暇があると考えている奴はクズだ」と言われる
などの内容が同アンケートの自由記述に記載されています。
セクハラは約8パーセント、マタニティ(パタニティ)ハラスメントは約2パーセントの教職員が受けたことがあると回答しています。セクハラの具体例としては、飲み会に強引に誘い、「綺麗な格好で良い匂いをさせて来い。」と言われたケース、マタハラの具体例としては、「ええな〜子どもと遊んで給料もらって」と言われたケースが同アンケートの自由記載欄に記述されていました。
それ以外の代表的なトラブルとしては、長時間労働や労災が挙げられます。
長時間労働によるメンタルヘルス悪化
仕事量が多く、拘束時間が長期化すると、肉体的・精神的に過度な負担がかかり、教職員がメンタルヘルスに陥るケースがあります。厚生労働省の調査によると、残業時間は昭和41年度の調査では、平日休日合わせて約8時間だったのが、平成18年度調査によれば平日約34時間、休日約8時間となっています。さらに、平成24年の調査では、平均退校時間が18時以前の者が18.7パーセントであることに対し、20時以降の者が15.8パーセントであり、ばらつきが大きいことが判明しています。
日常的な業務による労災
日常的な業務の中で、教員が怪我をしてしまうケースもあります。
例えば、授業中に生徒が暴れ出して止めに入った教職員が突き飛ばされて怪我をする事案などが想定されます。公立学校の場合、怪我については公務に起因する災害といえるため、地方公務員災害補償法に基づき補償が行われます。
このケースでの補償内容としては、療養補償、休業補償、傷病補償年金等が考えられます。国私立の場合、教員が学校の管理者と雇用関係にあるため、労働災害補償保健法によって補償を受けることになります。給付内容としては、療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金等があります。
なお、このケースで学校法人として教員に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負う場合があります。
教職員同士のパワハラに関する現状
学校法人における労務環境の悪化原因のうち、教職員同士のパワハラに着目してご説明させて頂きます。
最近起きた教員同士のパワハラ事例として新しいものとしては、2019年10月4日に神戸市教育委員会が発表したものがあるかと思います。内容は、神戸市立小学校の複数の教諭が同僚に激辛カレーを無理やり食べさせるなどのいじめを繰り返したという事実です。この事実は、多くのマスコミが報道し、世間の注目を浴びたといえます。
また、現在このようなケースにお悩みの従業員(教員や事務の方等)がいらっしゃいましたら、まずは校内の主任やその上長にあたる方へご相談ください。学校全体としてのご相談およびご契約となりますので、事前にご相談者様と学校側とでお話しが進んでいないと対応できないケースがほとんどです。
教職員同士によるパワハラが発生してしまう要因
教員同士によるこのようなパワハラが発生してしまう要因は教職員同士での上下関係にあると考えられます。
教職員同士での上下関係
パワハラは、同一集団内において力関係で優位にある者が劣位にある者に対して行う精神的・身体的苦痛と位置付けられています。このように見た場合、学校(職場)の生活や活動の場を共有する人間の集合体が同一集団を意味することになります。この集団の中で教育、労働や仲間関係などを介して何らかの力関係が存在する場合、そのような力関係を利用・濫用して、さまざまな形のパワハラが発生します。特に、パワハラは、職場での地位や人間関係で弱い立場にある人たちに対して精神的・身体的苦痛を与えることにより、相手の人格や尊厳を侵害し、労働環境を悪化させます。
教職員同士では、職位や勤続年数から学校(職場)内での力関係が発生することが多いです。その力関係の発生によって、パワハラの加害者となりうる上位の人間が形成されます。パワハラの加害者の心理や性格については、他者の人格や差異を尊重することができなかったり、誠実さや正直さが欠如していたり、自分を強く見せたいという自意識過剰などによってパワハラをすると考えられています。そして、支配欲、臆病、神経質、権力思考等を持っている人間がパワハラの加害者になることが多いです。つまり、パワハラは、このような心理や性格に根ざした不安や恐怖感からくる嫉妬や妬みがきっかけとなっており、しばしば加害者本人が自分の行いが有害な行為であると認識していないことが多いです。
また、加害者となりやすいタイプについて
1征服者タイプ
2完璧者タイプ
3策略家タイプ
の3つのタイプに分類できます。
征服者タイプのハラスメント
征服者タイプとは、常に力と縄張りの世界で生きています。征服者タイプにとって最も重要なことは、自分の力が下位の人たちに比べてより大きいこと、強いことの認識を持つことにあります。したがって、征服者タイプの相手を負かして、恥をかかせたいという欲望は、飽きることがありません。そして、征服者タイプは、下位の人たちが業務に関する目標を設定する際は、物分かりが良いように振る舞い、いったん目標が合意されると、人が変わったかのように目標達成を妨害することが少なくないです。
完璧者タイプのハラスメント
完璧者タイプは、自分が完璧であることが最大の価値であり、常に自分の有能さに関心が向いています。完璧者タイプは、下位に対して求める能力の基準がとてつもなく高く、平均的な人間であれば到達不可能なものであることが多いです。
策略家タイプのハラスメント
策略家タイプは、自分をどのように評価しているかをとても気にします。自分の上役から認められることが、何より一番大事であり、絶えず上役の称賛と、自分に対する評価を求めています。その結果、他人の信用を落とすことで自分の評判を高めようとする傾向にあります。
職場内のハラスメントには適切な対処を!
また、パワハラは、意見相違や対立がきっかけになることが多いですが、大抵の場合、その出来事そのものはパワハラの真の原因とは、無関係なことが多いです。パワハラの真の目的は、前述の加害者タイプの欲求を満たすためのものであり、これらの出来事は、嫌がらせが開始されるきっかけや口実にすぎないことが多いです。そのため、重要なのは、職場における苦情処理手続きなどでパワハラ事案について適切に対処することです。
パワハラ問題を防ぐための対応策
パワハラについて一番理想なのは、そもそもパワハラを発生させないことです。そこで、パワハラを防ぐための対応策について以下ではご説明させていただきます。
パワハラ防止法の周知
2019年の労働施策総合推進法の改正により、企業のパワハラ防止措置が義務化されました。同法30条の2がパワハラ防止に関する規定となります。この規定をパワハラ防止法ということがあります。
パワハラ防止法の対象となるパワハラとは下記が定義されています。
1優越的な関係を背景とした言動であり、
2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3労働者の就業環境が害される
1優越的な関係とは、次のような類型が考えられます。ア職務上の地位が上位の者による行為、イ同僚または部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの、ウ同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるものがあります。ここで、注意すべきは、パワハラが上司から部下に対するものであると限定されていないことです。
パワハラとして厚生労働省が挙げている典型例は6つです。
1身体的な攻撃(暴行・障害)
2精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
3人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
法人としては、上記6つの典型例がパワハラに該当することを教職員に対して周知することがパワハラ防止に繋がります。
パワハラ防止法に基づいた法人としての対応指針の共有
管理職を対象にしたパワハラについての講演や研修会の実施、一般社員を対象にしたパワハラについての講演や研修会の実施、就業規則等の社内規程へのパワハラ禁止に関する規定の盛り込み、アンケートなどによる社内の実態調査が考えられます。
ハラスメント相談窓口の設置
ハラスメントの相談窓口の設置は被害を拡大しないためにも重要です。相談窓口でハラスメントの相談がされた場合、ヒアリングの実施が必要です。ヒアリングでは、5W1Hを明確にしつつ、時系列にそってできる限り詳細に聴き取りを実施するとともに、その後の処分や紛争等に備えて内容を書面化することが重要です。
一般的なヒアリングの項目は、
- 1相談者と加害者との関係
- 2問題となっている加害者の言動の内容
- 3相談者の求める対応・処分の確認
- 4匿名希望の有無
- 5連絡先の開示の可否
となっています。
その後は、事実関係の精査が必要です。
事実関係の精査の主なルートは、
- ア 客観的資料の収集
- イ 相談者からのヒアリング
- ウ 加害者からのヒアリング
- エ 第三者(同僚など)
からのヒアリングが考えられます。
そして、事実確認を完了後、相談者の希望や加害者の行為態様の程度に応じて、加害者に対する懲戒処分を検討することになります。ここでは、就業規則や過去の処分事例を参考にしつつバランスを欠く処分をしないように気をつけなければなりません。
学校法人における労務トラブルは弁護士にご相談ください
学校法人における労務トラブルを防止することや対応することには多くの法的知識が必要です。そのため、労務トラブルについてお悩みの方は是非一度、法律の専門家である弁護士にご相談下さい。
また、現在このようなケースにお悩みの従業員(教員や事務の方等)がいらっしゃいましたら、まずは校内の主任やその上長にあたる方へご相談ください。学校全体としてのご相談およびご契約となりますので、事前にご相談者様と学校側とでお話しが進んでいないと対応できないケースがほとんどです。
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