共通テスト流出・・・学校法人における問題漏洩について弁護士が解説
2022年の大学入学共通テストにおいて、受験生が試験問題を撮影し、外部に送信する事件が発生しました。通常のカンニングではなく、外部の協力を得る大胆な不正行為として話題となったため、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか?
試験問題の漏洩は、試験の公正な運営を害するのみならず、偽計業務妨害罪などの犯罪にも該当する可能性があります。
本記事では、
- 試験問題の流出と偽計業務妨害罪
- 試験問題の流出に関連するその他の犯罪
- 2022年大学入学共通テストの試験問題流出事件
などについて解説しています。
試験問題の流出と偽計業務妨害罪
入学試験などの試験問題が流出する事件は、これまでも何度か発生してきました。試験問題の流出により、試験の運営が妨害されるなどの被害が生じ、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
入試における試験問題の流出事件の概要
過去にも入試における試験問題の流出事件は発生してきました。
問題漏洩には、以下のように様々なパターンがあります。
- 印刷所から試験問題が持ち出される
- 試験を実施する側の人間が、事前に問題を受験生に教える
- 受験生が問題を試験中にネット上に投稿して、回答を募る
受験生による不正行為は当然許されませんが、試験実施者が問題を漏洩させて高額の報酬を得るといった、より悪質なケースもあります。
試験問題の流出による被害
試験問題の流出は、入試の運営を害する重大な行為です。
その場で発覚すれば、退出させる、試験時間を延長する、他の受験生に説明するなどの対応が必要になります。
現場では発覚しなかった場合、本来合格すべきでない受験生を不正行為により合格させてしまうおそれがあります。他方で、正々堂々と試験に臨み、合格ラインに達していたはずの他の受験生が不合格とされるリスクも否定できません。
したがって、合否判定の慎重な検討が求められ、場合によっては再試験や追加合格者の発表が必要な可能性もあります。
加えて学校法人としては、以下の対応をとらなければなりません。
- 原因調査
- 再発防止のための対策強化
- 警察による捜査への協力
- 会見の開催などのマスコミ対応
試験問題の流出があると、合格者の判定など入試の公正な運営を害されるとともに、本来必要でない業務が発生してしまい、通常業務にも支障が生じてしまうのです。
これらの被害をもたらす危険がある試験問題の流出には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
偽計業務妨害罪の成立要件
試験問題の流出に成立する可能性がある、偽計業務妨害罪について解説します。
偽計業務妨害罪の定義
偽計業務妨害罪とは「偽計」を用いて人の「業務」を妨害する犯罪です(刑法233条後段)。
「偽計」とは、人をだましたり、他人の無知・誤解を利用したりすることです。入試においては、受験生が自分の力で解答することを前提としています。試験問題を流出させることは、試験監督や運営者をだます行為であり、「偽計」にあたります。
「業務」は必ずしも営利的な活動でなくても構いません。また、公務であっても「業務」と解することが可能です。したがって、私立学校だけでなく、国立・公立学校の入学試験事務も「業務」に該当します。
結果として業務に支障がなかったとしても、妨害のおそれがある行為は偽計業務妨害罪に該当します。問題流出が合否判定に影響を及ぼしたかどうかは、偽計業務妨害罪の成否に関係ありません。
偽計業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
意図の有無と偽計業務妨害罪の成立
試験問題を流出させた受験生本人は、合格したい一心であったと考えられます。積極的に入試業務を妨害しようと意図しているわけではないでしょう。
しかし、結果として試験運営に支障が出るリスクがあることは認識できるはずです。したがって、「入試を妨害しよう」と積極的に企んでいなくても、偽計業務妨害罪は成立します。
試験問題の流出に関連するその他の犯罪
試験問題の流出には、偽計業務妨害罪以外の犯罪が成立するケースもあります。
試験主催機関の性質による犯罪の成立
問題が流出した試験を主催している機関や、流出させた者の属性によっては、別の犯罪が成立し得ます。
たとえば、医師国家試験の問題を試験委員が漏洩する行為は、医師法違反として処罰の対象です。他にも同様の規定があり、実際に柔道整復師試験の試験委員が問題を漏洩させた事件では、柔道整復師法違反で有罪判決が下されました。
流出させたのが公務員(みなし含む)であれば、守秘義務違反として刑罰に問われる可能性もあります。入学試験の事例ではありませんが、司法試験の問題漏洩をした考査委員は、国家公務員法の守秘義務違反で有罪判決を受けました。
情報漏洩に伴う行為に対する刑事責任
問題漏洩に伴ってした行為に、犯罪が成立するケースもあります。
学校や印刷所に侵入して試験問題を持ち出せば、建造物侵入罪や窃盗罪が成立します。
公務員(みなし含む)が問題を漏洩したときに金銭を受け取っていれば、賄賂に関する罪となり得ます。
2022年大学入学共通テストの試験問題流出事件
2022年の大学入学共通テストで、受験生により試験問題が流出する事件が発生しました。事件の概要や処罰についてご紹介します。
事件の概要
2022年の大学入学共通テストにおいて「世界史B」の試験問題が外部に流出しました。
試験問題は家庭教師紹介サイトに登録していた大学生に送信され、解答を返信するように求められたとのことです。実際に解答を送り返した大学生もいました。
解答を送った大学生が不審に思って大学入試センターに通報し、事件が発覚します。大学入試センターは警察に被害届を提出し、捜査が進められました。
被害の調査と処罰
警察が捜査を進めていたところ、当時19歳の受験生が出頭しました。
捜査の結果、次第に手口や共犯者の存在も明らかになりました。
具体的には、
- 受験生がスマートフォンで試験問題を動画撮影する
- 動画を共犯者に送信する
- 共犯者が動画を静止画にして大学生に送信し、解答を要求する
という手口です。
当時19歳であった受験生は、少年法の規定により、偽計業務妨害の非行事実で家庭裁判所に送致され、最終的に保護観察処分となっています。共犯者は偽計業務妨害罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令が出されました。
幇助犯に関する考察
受験生や共犯者に偽計業務妨害罪が成立するのは、上述した説明からおわかりいただけるでしょう。
では、解答を送信した大学生は罪に問われるのでしょうか?
手助けした学生の幇助犯罪の可能性
解答を送った大学生は、偽計業務妨害罪の幇助犯や共同正犯に問われる可能性があります。
幇助犯とは、犯罪行為そのものはしていないものの、犯行がスムーズに進むように助ける罪です。
たとえば、住宅に侵入して物を盗むケースでは、
- 侵入に必要な道具を提供した
- 犯人を車で現場まで送った
- 犯行中に周囲を見張っていた
などが、幇助犯に該当しうる行為です。
幇助犯の場合、犯罪行為そのものは実行していないため、刑は減軽されます。
もっとも、犯行計画を一緒に立てる、多くの分け前をもらうなど、関与の度合いがより強い場合には「共同正犯」として、実行犯と同様の罪に処されます。
幇助犯罪の成立要件
幇助犯が成立するには、犯罪行為の実行を物理的あるいは心理的に容易にしていなければなりません。加えて、自分が犯行に加担していることの認識も必要です。
共通テストの問題漏洩事件においても、大学生が試験問題だと知って協力していれば、幇助犯になる可能性があります。実際には、大学生は共通テストの問題と知らずに解答を送信していたため、罪には問われませんでした。
学校法人でのトラブルは西村綜合法律事務所までご相談ください
ここまで、試験問題の漏洩について、共通テストの事件などを題材にして、成立する犯罪について解説してきました。
問題を流出させる行為は、試験運営業務を妨げるおそれがあるため、偽計業務妨害罪などの犯罪に該当し得ます。協力者についても、処罰される可能性があります。
試験問題が流出すると、調査や被害届の提出、会見の開催など、様々な対応が必要です。実際に被害に遭ったなど、問題漏洩についてお悩みの学校関係者の方は、当事務所の弁護士までご相談ください。
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